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蛇の魔女と少女  作者: 佐藤 敏夫
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邂逅5

 私の私室は幾つかの棚と寝台があるだけの質素なものだ。私自身は特に必要がなかったものの、これからニーナと暫くとはいえ一緒に暮らすことを考えるともう少し家具を増やす必要があるだろう。

「さて…… 私の古着はどこにあったかな……」

 洋服棚を漁ってニーナが着ることができそうな服を探す。小さくなった服はその度に処分してしまった記憶があるが、それでも何着かは自分が子供にでも変身した時の為に残しておいてあったはずだ。

 しばらく探して、ようやく目的の物を見つける。

「……あった。これなら問題ないだろう。とりあえずコレを着てみろ」

 私が一人前になった時に師匠から譲って貰った夜色のローブ。古くなった物はすぐに捨ててしまう私ではあったが、これだけは愛着が湧いてしまってなんとなく捨てられずにいたのだ。

 彼女にローブを手渡すと彼女はコクコクと頷いて、それに袖を通した。

「ふむ、流石に少し長いか……」

 ゆったりとした作りのローブを着るは痩せた彼女の身体には些か細すぎた。これではローブを着るというより、ローブに着られていると言った方が相応しいに違いない。

「やれやれ、手間のかかる奴だな……」

 ニーナの明かりになっていた杖を返してもらい、宙で輪を描くように杖を振るうと、ポトリと一本の縄が現れた。私はそれを拾いあげて、彼女の服を縛ってやる。

「うん。なかなか様になっているじゃないか……」

 少し身綺麗にしてやっただけだが、私の住処の前で浮浪児か奴隷同然だった彼女とは見違えるほど美しくなった。

「ぐぅー………」

 これならばすぐにでも私の手元から離れるだろう。

 そう思って一人で悦に浸っていると、なんとも気の抜ける音が洞窟の中に響いた。何かと思って辺りを見渡してみるが、原因となるような物は見当たらない。もしやと思ってニーナの方へと視線を移すと、彼女はバツの悪そうな表情で顔を赤くしながら俯いた。

「空腹、か?」

 訊ねると、彼女はやや間をおいて小さく頷いた。

 まぁ、まともな食事を摂っているようにも見えないので、無理もないだろう。これから太らせようと思っていた所なので、丁度良いと言えば、丁度良い。

「次は食堂に案内しよう。ついてくるが良い」


………


「……ここ、ですか」

「あぁ、ここだ」

 初めて、ニーナの方から口を開いた。

 従順であることは良い事ではあるが、だからと言って必要以上に卑屈になられるのも困ったものだ。なので、彼女の方から質問が出てくるのは良い傾向である。

 まぁ、彼女の困惑に関しては私も思う所がある。

そもそも私はあまり食堂を利用しない。食事は平均して一週間に一度くらいしかしないし、眠っていることが多ければ一月に一度ということもある。そういう訳で、食堂はほぼ完全に食料庫と言った方が相応しいのだ。

「えっと…… そうでは、なくて…… ですね……」

 そう言うと彼女はろくろを回して慌て始めた。どうやら、感じたことを口にすべきかどうか悩んでいるようだった。

 感じたことは素直に口にすべきだ。視線で続きを促すと、彼女はオズオズと私の様子を窺いながら続きを口にした。

「その…… えっと、卵しか…… ない、ので……」


 卵の何が不満なのか。

 卵は栄養の塊と言われ、特にタンパク質の生物価は卵黄、卵白ともに八割から九割と最高であり、肉、牛乳と共にタンパク質の代表なのだ。また卵黄にはタンパク質の他、レシチン、ビタミンA・B2・D・E・リン・鉄・カルシウムなども豊富で、ビタミンC以外の栄養素はほとんど含まれている。おまけに、卵の脂肪は体内でよく入荷されるので消化吸収が良く、そして、卵自体も他のタンパク質の吸収率を高めてくれる。

 骨に皮を張ったようなニーナにとって、まさに天恵ともいうべき食材ではないか。


「そうじゃ…… なくて…… パンとか穀物とか、ないんですか……?」

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