邂逅4
太らせると言っても、食事を与えれば一朝一夕で太る物でもない。ついでに言えば贅肉ばかりつけても仕方がなく、適度に筋肉をつけてやらねばならない。質の良い食事を与えて、適度な運動をさせながら時間を掛けて太らせてやる必要がある。
我ながら面倒な物を背負いこんでしまったものだ。
一通り身体を洗い、お湯で魔法薬を流してやる。最後に乾いた布で濡れた身体を拭いてやると、鉄鎖に繋がれて怯えていた少女とは見違えるほど綺麗になった。
泥やらなにやらで汚れていて分からなかったが、髪は綺麗な亜麻色だったし、黒目勝ちの瞳は静かな夜の色だった。
これでも美しいものを見る目には自信がある。これだけ美しい素質を備えた少女ならば、少し身ぎれいにするだけで、さほど手を加えなくても引き取り手は現れるだろう。
そんな風に彼女の値踏みをしていると、彼女はもじもじと落ち着かないとでも言うように身体を左右に揺らした。
「……あの、そんな風に…… 裸を見られると…… 恥ずかしい、です……」
どうした、と訊ねると。彼女は蚊の鳴くような声で答えた。
そう言えば人間というのは裸を見られるのが恥ずかしい生き物だったか。なるほど、忘れていた。美しい素質があるとはいえ、貧相な身体である以上、今は隠しておきたいというのも頷ける。
「替えの服は用意してやる。それまでは、暫くはこれでも着ていろ」
ボロキレは燃やしてしまったので、代わりに私は外套を脱いで彼女に被せてやった。
次は食堂を案内してやるつもりだったが、そうなると、次は私室の案内が先か。たしか、そこには私の古着がある。
付いて来い、と告げて歩き始めると彼女は素直に従った。
この洞窟は私にとっては丁度良い環境であっても、彼女にとっては暗すぎるらしい。何度も躓いて転びそうになっていたし、私の裾から指を離そうとしなかった。
俯いたまま無言で服を摘ままれるというのはどうにも疎ましいものがある。
「おい」
私が声を掛けると彼女はビクリと身体を震わせた。やれ、取って食おうなんて言うつもりじゃないのだから、いちいち過剰に反応する必要もないだろうに。
私は懐から杖を取り出して魔法で先端に明かりを灯し、それをニーナに手渡す。
「持っていろ。明かりがあれば転ぶこともあるまい」
行くぞ、と踵を返すと彼女は再び私の服の裾を摘まんだ。今度は何だと思いつつ振り返る。
別の明かりは今度を用意してやるが、今はそれで我慢して欲しい。
「あり…… がとう…… ございます……」
ポソポソと彼女は言う。
最初こそ何を言っているのか分からなかったが、どうやら彼女は感謝の意を示しているらしい。こちらとしては怪我でもされて価値を下げられても困るので、明かりを貸してやっただけなのだが、彼女はそうは捉えなかったようだ。
「そういうことは相手の目を見ながら言うんだ」
「……はい」
敢えて意図を修正する必要もないし、私はそれ以上何も言うことはない。
改めて声を掛けて私室へと案内する。