雅稀の苦リスマス
今回はいつもと違って、会話だけのお話にしてみました。
どうぞ妄想しながらお読みください。
ある日の雅稀宅にて……
「殿っ、"くりすます"とはどのようなものなのですか?」
「あー、これもまた外国の文化だ。日本に入ってきたのも割と最近らしいしな」
「ほほぅ……"はろうぃん"のように、仮装したりするのですか?」
「まぁ、仮装っちゃ仮装かな。サンタクロースって言うおじさんの服装をまねることはよくあるな」
「その"さんたくろーす"さんとはどんな方なのですか?」
「んー、口で説明するのめんどくさいからこれ見て」(携帯の画面を見せる)
「ほほぅ……この赤い着物を着ている方がさんたくろーすなのですか?」
「そう。んで、この格好をする人が大半だな。あとはトナカイとか雪だるまとか……」
「その方々はこの寒い中何をされているのですか?」
「年に一度、世界中のいい子にしていた子供たちにプレゼントを配って回るんだよ。だから子供たちのあこがれの存在。けどいつの間にか来なくなるんだけどな」
「子供の時にだけ来る方なのですか?」
「さあね。俺のところには一度も来たことが無いから知らん」
「と、殿……(瞳ウルウル)」
「な、なんだよ。おい、悲しい眼でこっちを見るな!」
「わかりました! なら今日は私が殿の"さんたくろーす"になります!」(勢いよく立ち上がる)
「は、はぁ? またお前、訳の分からんことを……」
「そのような子供たちに憧れられる存在が、殿の元にだけ来ないのはおかしいと思います! だったら、今年は私がその代わりを務めますので安心してください!」(机を叩く)
(い、言えねぇ……サンタの正体が親だってことを割と早く見抜いちまったから、本物はいないと小さいころに既に悟ってるなんて言えねぇ……)
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「ところで……」
「な、なんだよ」
「殿が欲しい"ぷれぜんと"とは一体どのようなものですか?」
「あー……そうだなぁ……」
「じーーーっ……(ワクワク)」
「あぁ、そうだ」
「はいっ、なんでしょう!?」
「幽霊のいない日常が欲しい」
「え……」
「なんだ? 俺が欲しいと言えばそれくらいだが」
「それを私の前で言わないでくださ~いっっ!!」(号泣して泣きつく)
「おわっ! ちょ、離れろって! 鼻水がっ!」
「どの~っ、ひどいでずぅ~っ!」
「鼻水つけるなっ! あ、引っ張って服伸ばすんじゃねぇっっっ!!!」
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「……ふぅ、とりあえず、いったん落ち着け。な?」
「ううっ……グズンっ」
「まぁ、プレゼントはいいとして、クリスマスって言ったら食い物だよな」
「食べ物、ですか?」
「そう。クリスマスにはケーキ食って、チキン食って、あとまぁ色々豪華な料理が出るんだ」
「ほほぅ。何かを祝う祭りごとなのですか?」
「なんかを祝うのはあると思うんだが、何を祝うのかは忘れたな」
「それほどの豪勢な食事を用意するということは、余程の地位の人を祝う日であることは間違いありませんね!」
「天皇の誕生日は昨日だし、総理大臣なんて祝ってもしょうがないし、誰なんだろうなぁ……」(携帯をポチポチ)
「天皇! それは帝様のことですか!? くりすますよりそちらの方がずっと大事ですよ!!」
「あー、気にしない。今ではただの休日だからな。っと、あったぞ。何々……"イエス・キリスト"の生誕祭が元祖だと?」
「いえす・きりすと?」
「外国でキリスト教っていう宗教を始めた人だったな。そんな大物の誕生日に日本ではどんちゃん騒ぎして、夜は男女にとってまさしく"聖夜(性夜)"ってか? これじゃあキリスト様も浮かばれねぇなぁ」
「殿、"せいや"とはなんですか?」
「え? あ、いや、その……」
「その"きりすと様"の誕生日に"せいや"とはどういうことですか?」
「え、えーっと……あ、そうだ! 今晩の買い出しに行かないと! 琳、留守番頼んだ!!」(脱兎の如く逃げ去る)
「え、ちょっと、待ってください殿ーー!! 教えてくださいよーーっ!!」
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「ゼェっ、ゼェっ、何とか巻いたか……」
「何してるのよ、こんなところで」
「お、叶実か」
「やぁ、マサキ。奇遇だね!」
「出雲も一緒か」
「んで、何してるのって聞いてるの」
「あ、いや、ちょっと琳から逃げてて」
「逃げる? あの子何かしでかしたの?」
「あー、いや……(しでかしたのは俺の方なんだけど……)」
「ふーむ、マサキ、何かリンの気に障ることいったのかな?」
「気に障るというか、まあとにかく、見かけたら俺のことは知らないと言ってくれ。じゃっ!」(走り去る)
「あ、ちょっと! そっちには……」
「殿ーーー!! 見つけましたよーー!!」
「うわぁ!! 琳っ!! なんでそっちにいるんだっ!?」
「遅かったわね……」
「アハハハ、マサキ残念~」
「さぁ! 教えてもらいますよ!」(ゴゴゴゴ……)
「い、いや、何のことやら……」
「とぼけないでください! "きりすと様"と"せいや"を教えてもらいますよっ!」
「キリスト? あぁ、キリスト教をつくった人のことね」
「か、叶実さんご存じなのですか!?」
「それくらい学校で習うわよ。一般教養ってやつね」
「ほほぅ……それで、"せいや"とはどのようなことなのですか?」
「イエス・キリストが丁度今夜に馬小屋で生まれたことから、今夜は聖なる夜、つまり"聖夜"というわけ。その人は救世主だとか言われて神様の使いだったそうよ」
「神様の使い……確かに、帝様よりも偉い御方なのですね……」
「真実はよく知らないけど、そんなところね。それをコイツに聞きたかったの?」
「だって、いくら聞いても教えてくれなかったので……」
「まさか知らないってオチじゃないでしょうに……」
「では、"男女にとってのせいや"とはどんなことなのですか?」
「えっ……?」
「あ……」(冷や汗)
「マサキ……」(じーっ)
「え、えーと、それは誰から聞いたのかなぁ~?」(額に血管を浮かべつつにこやかに問う)
「うっ……」(静かにその場を離れようとする)
「殿からです。男女のせいやはキリスト様が浮かばれない、と……」
「……ア~ン~タ~ね~?」(低くドスの効いた声で)
「マサキならもう逃げたさ~」
「あぁっ! 待ちなさいっ!!」(術針を用意)
「待てと言われて待つ馬鹿がどこのご時世にいるんだ!」(全力で逃げ去る)
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商店街にて――……
「ゼェッ、ハァッ、まったく、なんでこう俺の周りは騒がしいんだ……」
「あ、雅稀くん、何してるの?」
「マ、マリエさん! あの……マリエさんこそここで何を?」
「見ての通り、ケーキ売りよ。サンタコスでやれって上からの依頼で、この寒い中ミニスカでだなんて……」(短いサンタカラーのミニスカートを見下ろして不満そうに)
「あ、なるほど。だからそんなきわどい服装で……」(ミニスカを凝視)
「……ッ! 雅稀くん、どこを見てるのかなぁ~?」
「えっ? あ、いやぁ、ケーキうまそうだなぁって……」(アセアセ)
「ケーキはボックスの中だから見えないはずよ。それとも、透視能力でもあるのかしら?」
「え、いや、そんなことはっ……!」(言いつつも大きく突き出た胸の辺りをチラ見)
「ふーん。どうやら、見たいのはケーキだけじゃ無さそうね……」(指をポキポキ)
「え、えーと、あのー……」
「選ばせてあげる。ここで大人しく一発受けるか、ケーキ売るのを手伝ってから一発受けるか。さぁ、どっち?」
「ど、どっちにしろ一発は変わらないじゃないですかっ!」
「あら、よくわかったわね。じゃあどっちも選んで二発にする?」
「し、失礼しましたぁーーーッッッ!!!」(脱兎)
「あ! コラ! 待ちなさーいっ!!」
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「ゼェ、ハァッ、もう、なんでこんなことに……」
「あ、いたわよ!」
「殿っ! 見つけましたよっ! 今度こそ逃がしませんっ!!」
「げぇ! もう追い付いてきやがった!」
「コラーっ! 雅稀くん! 仕事手伝いなさいよー!!」
「うげっ! こっちからはマリエさんまでっ……!」
「さぁ、もう観念しなさい! 私達を辱めた罪は償ってもらうわよ!」(術針を構える)
「殿っ! なぜ教えてくれなかったのかは分かりませんが、逃げるなんて酷いです! ちゃんと謝ってください!」(紅い眼で睨む)
「雅稀くん、まさか私から逃げられるとは思っていなかったわよね? 前借は十分したんだし、次は仕事して貰うわよ?」(指ポキポキ)
「え、あ、あの……(ヤ、ヤベェっ……!! こ、殺されるッ!!)」
「マサキ、ご愁傷様さ……」(手を合わせて拝む)
「『覚悟ッッッ!!!』」
「うぎゃあああぁぁぁッッッ!!!」
「こうして、雅稀の苦(?)リスマスは無事に終わりました、とさ」(電線の上で羊羹を食べながら空を見上げる)
「サンタさんッ、もし本当にいるなら俺に平和な日常をくれぇッッッ!!!」
おしまい。