前夜
ふわっと、カーテンが揺れたかと思うと、彼女は姿を現した。
「アレク様、今戻りましたわぁっ」
妖艶な微笑みを浮かべてそう言うのは、モルガン=ミスティカである。
「お帰り。マダム ミスティカ。今回はすまなかったね」
苦笑を浮かべながらアレクが言う。
「とんでもございませんわぁ。どうせあのコウモリ野郎の差し金なのでしょう?」
少しだけ目を細めてマダムが言う。
「あはは。ご明察。しかし、ブラッド卿が何をしたいのかがイマイチはっきりしないんだよねー」
アレクが頭を掻きながらそう言った。
「まぁどうせ、ロクでもない事ですわよ。全くもう、ねちっこい男は嫌ですわぁ」
嫌悪感を浮かべて、マダムが言う。
「しかし、君が勇者と一緒にいる事がバレてしまったのは色々と面倒くさいかもしれないね」
スッと真面目な表情になってアレクが言う。
「まぁ、きっと色々と因縁をつけてくるでしょうが、何とかしてみせますわぁ。まぁ・・・。最悪は私は国外追放にでもして頂ければきっとそれで収まりますわぁっ」
ウフフ、と笑いながらマダムが言う。
「うーん。出来ればそういった事態は避けたいんだけどねぇ・・・」
困ったような笑みを浮かべてアレクが言う。
「いずれにせよ、明日の相手の出方次第ですわぁ」
そう言って、マダムは微笑んだ。
「マダム。勇者達の状況はどんな感じなんだい?」
思い出したかの様にアレクが訪ねる。
「そうですわね。ご報告がまだでしたわぁ」
そう言ってマダムは現在の状況をアレクに話始めた。
「今、勇者達は帝国に滞在していますわぁ」
そうマダムは語り始めた。
帝国へ行くまでの道のりで魔獣に出会った事。その魔獣は知性があった事。
帝国には色々な種族が仲良く暮らしている事。そして、生命の大樹は存在した事。しかし、まだ小さな木であった事。
マダムが見聞きした事をアレクに報告する。
「ふぅん。成る程ねー。マダムいつも色々ありがとう」
アレクはマダムの話を聞いてそう言った。
「そう言えば、“彼女”を助ける算段はついたのかい?」
アレクが真面目な顔でそう訊ねた。
「アレク様がお望みとあれば」
妖艶な笑みを浮かべてマダムは答える。
「まぁ、最悪の最悪はソレを取引材料にするしかないもね・・・」
少し考えるような表情でアレクはそう言った。




