失われた歴史 -後編-
「ある時、1人の男は考えた。生命の大樹なんかがあるから、世界を
人間の物に出来ないと。人間こそが世界を統べるにふさわしい種族であると」
ふぅっと軽くルビアはため息をついて、一呼吸置くと、シエロ達を見つめながらこう言った。
「そして、男は失われた叡智を甦らせて、生命の大樹を1つ1つ燃やし尽くしていった。もう随分と昔の話だ」
「それを何故、ルビアさんはご存知なのですか?」
不思議そうにキョトンとした目をして、エリスが言う。
エリスの言うように、殆どの人間は、そんな歴史があった事を知ってはいない。少なくともシエロ達の中で、そんな話を聞いた事がある者はいなかった。
「私は、生命の大樹の護りの一族であったのだよ。遠い昔から、我々一族は生命の大樹と共に生きてきた。まぁしかし、生命の大樹が燃やし尽くされたのと同じ様に、護りの一族も、もう私しか生き残ってはいないのだがね」
そう言うルビアは何処か寂しそうな目をしていた。
「そうそう。君たちは、市国に行って何か感じた事はないかい?」
ルビアは唐突にシエロ達にそう投げかけた。
「美しい国だと思いましたわ。そこここにアイリスの花が咲き乱れて」
先ず最初にそう言ったのはエリスだった。
「確かに綺麗だったけど、ウチは鼻がもげそうだったっす!あんまり好きにはなれないっすね」
そう言って顔をしかめたのはユディである。
「穏やかで争いの無さそうな国だと感じました」
シエロは真面目にそう答えた。
「そうさなぁ。色々と見た事のない魔法具なんかがあって、驚いたってのが1番さなぁ」
フリントは坊主頭を撫でながらそう言った。
「どうしてそんな事を?」
エリスは不思議そうにルビアにそう訊ねた。
「ふふっ。そうだな。そう疑問に思うのも当然だね」
ルビアは少し自嘲気味に笑いながらそう言った。
そして、次の瞬間、衝撃的な言葉を発する。
「さっき言っていた『男』とは、レムリアの事なのだよ」




