失われた歴史 前編
少し長くなりそうなので、今回は前編、後編に分ける事にしましたー!
「かつて、この世界には至る所に生命の大樹は生えていたのだよ」
少し寂しげな微笑みを浮かべ、ルビアはそう言った。
「生命の大樹自身が一つの大きな生命体であり、世界を見守る役割を果たしていた。まぁ、今ではもう、気が遠くなるほどの昔の話だがね。ドライアドは人々を見守り、時に恵みを、時には試練を与えた。それも世界の調和を崩さぬ為、ありとあらゆる生命体を繁栄を祈っての事。今のように人間と、亜人、魔人などが争う事なく、平和に仲良く暮らしていたそうだよ。夢のような世界じゃないか」
そこまで話すと、ふうっとルビアは一呼吸置いた。
「私は、そんな世界を再現したくて、この国を興した」
その言葉を聞いて、シエロ達は先ほどの町の様子を思い出していた。
「ルビア様!今日は良い魚が獲れましたよ!後で城にお持ちしますね!」
そうルビアに声をかけてきたのは、魚人の女であった。
「ルビアお姉ちゃん!僕、弓が撃てるようになったんだよ!」
そう言ってルビアにまとわりついて来たのは、エルフの少年だった。
「ルビア嬢!今日も美しいな!」
ルビアにそう言ったのは、コボルトの男であった。
王国も、ましてや市国ではこんな風景には先ずお目にかかれない。
「おっと、話が逸れたな」
ふふっと小さくルビアが笑う。
「とにかく、生命の大樹・・・いや、そこに存在するドライアドとは、神に最も近い存在だった。ちなみに・・・先ほど会った彼女は、今ではこの世界に存在する、唯一のドライアドなのさ」
シエロ達にとって、ルビアの語る歴史は初めて聞くものであった。
そもそも、シエロ達が学んだの歴史には一度も生命の大樹も、ドライアドも、出て来たことなど無かった。
「何故、生命の大樹は失われてしまったのですか?」
シエロはルビアにそう訊ねた。
「人間がね、その存在を煩わしく思い始めたのさ」
そう言った時、ルビアの真紅の瞳が、一瞬更に深い紅色に燃えたかの様に見えた。
ようやく、、、物語の中核に辿り着いてきました。
ここまで長かった、、、。




