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回想

アレクとセレスの出会いの話です。

「これ以上、こちらに近寄るな!命の保証はせぬぞ!」

シュンガイト山脈の中腹、森の奥にある洞窟を探検していたアレクに、地を這う様な恐ろしい声が届いた。

「やっぱり誰かいるんだね」

そんな声にも恐れず、アレクは近づいていく。何者かが居る事には既に気付いていた様だ。

「来るなと言っておる!」

ビリビリと威嚇する声が洞窟に響く。普通の者なら、縮み上がってしまいそうな声だ。

「待って。僕は敵じゃ無いよ?落ち着いて」

アレクは親しげな声をかけつつ、近寄っていく。

「近寄るでない!!」

アレクの身体すれすれを、神聖魔法、聖なる天使の弓矢(ホーリーアロウ)が飛んでいく。

これ以上近づけば次こそは当てると言うでも言う様に。

「だって君、困ってるんじゃない?何だか放っておけないよ」

その言葉に、相手が一瞬怯んだのをアレクは感じ取った。

「ねぇ、君、怪我してるんでしょ?」

駄目押しとだとでも言う様に、歩みを止めてアレクは言う。

「なぜ分かったのじゃ?」

何者かは驚いた様にアレクに訊ねた。

「だって、これだけ血の臭いがしていれば、嫌でも分かるよ」

アレクは当たり前じゃないかと言う風にそう応えた。

「風魔法で臭いは消していた筈なのだがな」

先程の怒気を帯びた声とは違い、落ち着いた声色で何者かは言う。

「うーん、僕は人よりもちょっと鼻が効くんだよ。とりあえず顔が見える所まで近寄っても良いかな。」

「あぁ、もう構わぬ。怪我をしている事までバレてしまっていては、どうしようもあるまい。それにお主は変わった者のようじゃ」

「あはは!良く言われるよ」

アレクは笑いながら歩みを進めた。

そして、そこに横たわっていた者は、傷だらけで血だらけのドラゴンであった。


「人の子・・・?いや、違うな。半人半魔のハーフか?」

横たわり、瞳を閉じたままでドラゴンは言う。

「へぇー流石だねー!見なくても分かるんだ!そう言う君は、ホーリードラゴンで良いのかな?そんな上位種の君がこんなになるなんて、どうしたのさ?」

不思議そうにアレクは言った。

ドラゴンに傷を負わせるのは、通常ならば困難を極める。

硬い鱗はドラゴンスレイヤーなどの特別な武器でも使わないと傷一つつける事は出来ない。更に魔法の耐性もあるので、超上級魔法でも使わないと効き目は弱い。生命力も強いとなると、通常ならばドラゴンにここまでの傷を負わせる事は難しいのだ。

「まぁ、同族同士の争いみたいなものじゃよ」

ふぅーっとため息をつきながらドラゴンは言う。深く語る気はない様だ。

「そっかー。それならそうなるのも、仕方ないね」

巨大な力を持つ者同士が戦えば、ボロボロになるもの頷ける。

アレクは納得した様子でそう言った。

「もう良いかね。子供よ。ワシは見ての通り疲れておるのじゃ。ゆっくりと休みたいのだよ」

会話する事すら、辛そうにため息をつきながらドラゴンは言う。

「うーん。それは別に良いんだけど、さっき僕は君の事を放っておけないって言ったよね?そんな傷じゃ回復するのに何百年もかかっちゃうんじゃない?この山脈も多少の癒しの力があるって言っても初級回復魔法をかけられているのと変わりないじゃないか。それに人間が住む場所も近いから危険だよ」

腕を組み、ふくれっ面のアレクが言う。

放っておけないと言う言葉を聞き流されていたのが気に障った様だ。

「そんな事は分かっておる。だからこそ風魔法で臭いを隠し、空間魔法で時空を歪め・・・って、そう言えばお主は何故簡単にこの場所までたどり着く事が出来たのじゃ?」

初めてドラゴンは目を開き、驚いた様にアレクを見つめた。

なんの事はない。何処にでもいる様な少年がそこには立っていた。

目深にフードを被るその姿は、人間だと言っても分からない様な姿をしていた。

「あ、僕は空間のズレに敏感な質なんだよ。そんな事より君、清浄なる湖へ行きなよ。そうすれば傷なんて、アッと言う間に回復するよ」

何とでもない風にアレクは言う。

「子供よ。残念ながら、そんな世界の果てまで飛ぶ力は、今のワシには無いのだよ」

やはり子供の言うことかとでも言う風に再びドラゴンは目を閉じた。

しかし、直ぐにアレクの言葉に目を見開く事となる。

「そんな事は分かってるよ。だから僕が送ってあげる」

「は?」

アレクの言葉はとても信じられる物ではなかった。

子鼠くらいの大きさであれば、さして魔力を消費せずに、転移させる事は可能であろう。

が、しかし、自分の身体の数十倍はあろうかと言う大きさであれば、そうはいかない。

そもそも転移魔法自体が莫大な魔力の消費を必要とするものでもあるのだ。

「ん?やだなぁ流石に抱えて飛んでは行けないから、転移魔法で運んであげるよ」

さも当然と言った風にアレクは言う。

「いや、ワシの様な巨体を運ぶには、大量の魔力が・・・」

ドラゴンは焦ってアレクを止めようとするが「そんな事ぐらい知っているよ。ぐちぐち言ってないで、行くからね?いい?」と、アレクの言葉に遮られる事となった。

「ちょっ!」

焦るドラゴンを尻目にアレクは転移魔法テレポートを唱えると、巨大なドラゴンさえも飲み込んでしまえる大きさのゲートを開いた。

「じゃあ行くねー!」

アレクの言葉にドラゴンは思わず目を閉じた。


あの時は本当に死ぬかと思ったと後にセレスは語っている。

回想は今回で終了です。

次週はまたリアルに戻ります。

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