幻想と誘惑と
今週もまた勇者サイドの話となりますー!
シエロ達は舞台が一番良く見えるであろう貴賓席に、レムリアと共に案内された。
観客席は結構な広さがあるが、満員の状態で、観客達は皆笑顔で公演始まるのを心待ちにしている様子であった。ザワザワと騒めきがテントの中を埋め尽くしている。
「皆さん、バタフライ一座の公演は初めてご覧になるのですか?」
レムリアが笑顔で話しかけてくる。
「話には聞いた事がありましたが、実際に目にするのは初めてですわ」
エリスが目をキラキラさせながら答える。今から楽しみで仕方ないようだ。
他の3人もエリスの言葉に同意する様に頷いた。
談笑をしている間に美しい音色を奏でる異国の楽器の演奏が始まり、舞台の幕が上がる。
美麗な踊り子達に向けて人々はこぞって拍手と歓声を投げかけた。
魔法なのか小道具なのかは分からないが、高貴な紫色の花びらが舞い散る中で、およそ重力を感じさせる事のない動きで踊り子達は舞い踊る。
その背中に見えない羽でも生えているかのような軽やかな動きに、人々は心を踊らせた。
そして幻想的なこの舞台に、日常を忘れて酔いしれた。
甘い・・・甘い甘美な果実の様な香りさえ漂ってくる。人々の興奮は最高潮に達しようとしていた。
最初にその異変に気づいたのはユディであった。
「ねぇ、シエロ、何だかおかしいっす!」
ユディが焦った様に言う。
「何だかこの香り・・・最初はただのお香かと思っていたっすが・・・ほら、お客さんの目が血走ってきてるっすよ!!」
亜人であるユディは鼻だけではなく、目も効く。
まだ何の被害も出る前に、逸早く異変に気づけたのは僥倖であったと言えるだろう。
「レムリア聖下、クロム猊下、ひとまずは安全な場所にご移動を!エリス!護衛を頼む!」
そう言うとシエロは舞台に向かって一直線に駆けて行った。
「ウチはとりあえず、風魔法でこの香りを雲散させるっす!フリントのおっちゃん、何かあったら援護頼むっす!」
そう言うとユディはロッドを取り出し詠唱を始める。
「おぅ!任せとけ!」
フリントはサムズアップしてそれに応えると、護身用の短剣を構えて周囲への警戒を始めた。
「皆さん!直ぐにこのテントから外に出て下さい!」
突然舞台に駆け上がりそう声を上げるシエロに、周囲は騒然となった。
「うるさい!公演の邪魔をするな!無粋者めっ!」
一部からそんな声が上がり、シエロに向けて空瓶や、食べかけの果実などが投げられる。
しかし、まだそれは良い方で、既に香りの効果にやられた人々が白眼を剥き、涎を垂らしてシエロに向かって突進してくる。
まだ正気を保っている人と、そうで無い人とでごった返し、テントの中は阿鼻叫喚に包まれていった。
「うっわぁー!こうなっちゃうと、風魔法くらいじゃ追いつかないっすよ!フリントのおっちゃん!エリスを呼び戻して欲しいっす!この騒動を鎮めるには、一旦皆を眠りにでもつかせないと無理っすよ!」
ユディが焦りながらそう言う。
「おう、分かった!直ぐに呼んでくるぜ!」
フリントはそう言って急いでエリスの後を追った。
その頃エリスはレムリアとクロムと共に、テントから少し離れた場所で待機をしていた、レムリアの護衛の兵士達と合流をしていた。
今週はちょっとだけいつもより短文な更新となってしまいました、、、
すみませんm(._.)m




