予兆
今回より、アレクサイドの話に戻ります。
あぁ、漸く物語を進められる、、、( ;∀;)
今回は初回以来の魔王と側近のやり取りです。
「アゾゼオ、たっだいまーっ!!」
城から逃亡してから丸2日。ニコニコご機嫌で帰還してきたアレクを待っていたのは、 怒りでコメカミをピクピクさせていると思われる、アゾゼオであった。
「お帰りなさいませ魔王様。随分とゆっくりのご帰還ですね」
ニッコリとした笑顔を見せながら(まぁ骨なので骨格だけなのだが・・・)アゾゼオはアレクにむかってそう言った。
「うっ・・・。ねぇアゾゼオ、何をそんなに怒っているのさーっ!怖いよっ!!」
少々焦った様子でアレクは言う。
「逆に何故、私が怒っていないとお思いなのかが疑問ですねぇ・・・」
アレクをジッと見ながらアゾゼオは世にも恐ろしい笑顔を浮かべる。
「ううっ・・・。悪かったって。急に飛び出して」
バツが悪そうに頭を掻きながらアレクはアゾゼオにそう言った。
「そうお思いになるのであれば、さっさと執務を片付けてしまって下さい!処理しなければならない案件が、山の様に溜まっております。ただでさえ人手が足りないと言うのに丸2日もいなくなるなんて・・・。今日という今日は、徹夜になってもやって頂きますからねっ!!」
アゾゼオの怒声が玉座の間に響いた。流石のアレクも首をすくめてアゾゼオに従う。全ての仕事をアゾゼオに押し付けて逃亡していたのだから、アレクの自業自得である。
アレクが執務室に入ると、アゾゼオの言葉通り、正に山の如く書類が机に積まれてあった。
「えーっと、アゾゼオ。コレはどっから処理すれば良いの?」
焦りながらアレクはアゾゼオに訊ねた。
しかし、アゾゼオの返事は素っ気ないものであった。
「どれもこれもです」
「えっ?」
驚いた表情でアレクはアゾゼオを見つめる。この優秀な部下は、最重要事項の案件、次に急ぎの案件、重要だが急がなくても大丈夫な案件、処理は必要だが急ぐ必要はない案件と言った様にいつも書類を仕分けをしておいてくれる。アレクに対して怒っている時も、それは何ら変わりない。
「北のブラッド卿の動きがおかしいです」
アゾゼオの言葉にアレクの表情が変わった。
「分かった」
それだけ言うと、アレクは急ぎ目の前の書類に目を通し始めた。
リオン=セプタリアン=ブラッド。魔国の北部を治める大領主であり、筆頭貴族でもある。この国に於いて、アレクの次に力を持っている人物と言っても過言ではない。先々代の魔王の時代より魔王家に仕える新参ながら、あっという間に力を手に入れ、この国の中枢となった手腕は侮りがたいものがある。表面的には紳士であり、アレクにも恭順を誓ってはいるが、腹の中では何を考えているのかは分からない。真祖のヴァンパイアである。
「なるほどねーっ。しかし、アゾゼオ、良く気がついたね」
一通り書類に目を通し、背伸びをしながらアレクはアゾゼオにそう言った。
「常に隅々まで目を通していれば当然の事です」
銀縁眼鏡をクイッと上げながら、アゾゼオは言う。
「うーん。でも普通なら特に気にしたりしないんじゃないかなー。 ブラッド卿の領内でリドの実の流通量が徐々に増えていっているなんて」
リドの実とは、魔国にて産出される瑞々しい黄緑色の果実であり、普段から当たり前の様に市場にも出回っている。よって、ただ単にリドの実の流通が増えていると言うだけであれば、別段気にする事でもないのだ。
「問題は、鮮血の雫石と人魚の涙の産出量も増え続けていると言う事です」
リドの実の絞り汁と鮮血の雫石の粉末、そして人魚の涙が組み合わさると、強力な催淫作用を持つ魔法薬となる。因みに、鮮血の雫石はブラッド卿の領内の限られた地域でしか採掘する事が出来ない。また、人魚の涙もその名の通りマーメイドの涙から作られる素材であり、そう多くは作れない物なのだ。
「うーんっ。しかし、ブラッド卿にしてはあからさまだよねー。今度は何を企んでいるのかなぁー」
アレクはフゥーッと深い溜息をついた。
「何にせよ、ブラッド卿を一度城に呼び出した方が良いだろうね。牽制の為にも。それから、アウイン達親衛隊も直ぐに呼び戻そう。後、気は乗らないけど、レディミスティカも。アゾゼオ、早急にお願い出来るかい?」
書類から目を離し、アゾゼオを見ながらアレクはそう言った。
次週より新キャラ続々登場予定です!
この物語は結構登場人物多くなる予定なので、そのうち人物紹介でも書こうかと思っています(笑)




