第二試合 中編
書き溜めている分が増えてきたので連続更新します。
今回、ちょっと長めの文章となっております。
シエロvsカイトが思いの外長くなってしまいまして、、、(^^;;
2500文字くらいになってしまいました、、、(^^;;
「いつまで続けるつもりですか。シエロさん。貴方では僕には勝てません」
シエロの右肩に突き立てた短剣を引き抜きながら、カイトは言った。
シエロは苦痛に顔を歪めながら床を見下ろしている。
カイトの言う様に、ここは降参してしまおうか・・・そんな考えが、シエロによぎる。
しかし・・・。
「私は・・・負ける訳にはいかないのです」
そう言ってシエロは顔を上げた。ただでさえ悪い顔色が、蒼白を通り越して死人の様になっている。
「貴方もしぶといですね・・・」
呆れた様な表情でカイトが言う。しかし直ぐにその顔には歪んだ笑顔が浮かんだ。
「そうですね。面白い事を思いつきましたよ」
そう言ってカイトは短剣を掲げると、何か呪文の様な物を唱えた。どうも人の言葉ではないらしく、シエロに聞き取ることは出来なかった。
「出でよ!厄災のダークドラゴン!!」
カイトの声と同時に空間が歪み、真っ黒な巨体が姿を現した。
漆黒をまとった様な鱗に、目だけが紅く爛々と光っている。
もちろんこれは幻術であり、実際のダークドラゴンではない。しかし、その存在感は見ている者を圧倒した。
「どうしますか?逃げまどいますか?それとも・・・」
カイトが手を挙げると、真っ白な女性が姿を現した。
「また目の前で殺されますか?・・・貴方の母親を」
そう言って下卑た笑いをカイトは浮かべた。
「そうですね。流石に動けないのは可哀想ですので拘束だけは解いてあげましょう」
カイトがパチンッと指を鳴らすと、シエロは急に落とされたかの様に、ガクンッと前のめりに膝をついた。
「それではダークドラゴンとの再会を、どうぞ存分に楽しんで下さい」
邪悪な微笑みを浮かべ、そう言うとカイトは姿を消した。
その場には、シエロとその母親、ダークドラゴンだけが残る。
いつの間のか周囲の風景も、練兵場のただ広いだけで無機質な造りから、焼け落ちた故郷の村へと変貌していた。
「シエロ・・・!!大丈夫ですか!こんなに傷ついて!」
母がシエロへと駆け寄って、頬に手を添える。冷たい感触がシエロの頬に伝わった。
「かあ・・・さん?」
不思議そうに母の顔を見つめるシエロに母が叫ぶ様にこう言った。
「惚けている場合ではありません!早く逃げないと!!」
目の前の母の姿に、あの時の母の姿が重なった。
まだ幼かったシエロが恐怖で動けなくなっているのを、抱きかかえて逃げた母。
しかし、ダークドラゴンからは逃げきれずに、シエロの目の前で、シエロを庇うようにして殺されてしまう。そして、彼自身も重傷を負った。討伐隊の到着がもう少し遅ければ、シエロの命も助からなかったかもしれない。
「全て・・・私が悪いのです。私が・・・私が弱かったから」
知らず知らずのうちに、シエロは涙を流していた。
「泣いている場合ではありません。さあ、行きましょう!」
そう言って母はシエロの残った右腕を引っ張り、シエロを立ち上がらせた。
そのまま腕を引っ張り、走って逃げようとする母の手を、シエロはある決意を持って振り払い、その場に立ち止まってダークドラゴンを睨みつけた。
「シエロ!!何をしているのです!早くこっちへ!!」
驚きの表情を浮かべ、悲痛な声を母はあげた。
「大丈夫です。母さん。見ていて下さい」
シエロは小さく微笑み母親に向かってそう言うと、すぐにダークドラゴンに向き直し、片手でクレイモアを構えた。
「遥か彼方より来たりし守護石よ!我に力を与えよっ!」
彼の持つ守護石はカンポ・デル・シエロ。遥か彼方の宇宙より飛来した鉄隕石である。
永遠の象徴とも言われるその石は、持つ者の疲れを癒したり、マイナスのエネルギーから護ってくれると言う。
シエロが守護石を使うと、あちこちにあった傷口が閉じてゆき、切り落とされた筈の左腕までもがいつの間にか元通りになっていた。
「母を・・・出したのは間違いでしたね。嫌でもここが現実ではないと分かってしまう。・・・ならば、遠慮は無しにさせて頂きます」
少し寂しそうに呟くと、シエロはダークドラゴンに向かって走り出した。
「彼方より飛来し厄災 !!」
シエロの呪文と共に、ダークドラゴンに向かって炎を纏った巨石が幾つも降り注ぐ。
ダークドラゴンはそれを回避しつつ、ブレスを吐いて破壊してゆく。
シエロはダークドラゴンが巨石に気を取られている間に、素早く真下の死角に入り込み、自らに強化魔法をかけつつ、右足の付け根めがけて切り上げた。
それは見事にダークドラゴンの鱗の少ない柔らかな部分に沈み込み、鮮血を噴き出した。
「くそっ!人間如きがこの我に傷をつけるなどっ!!!!」
ダークドラゴンは激昂して一度大きく羽ばたくと、シエロに向かって長い尻尾を振り下ろした。
シエロはそれをギリギリで躱すと、尻尾を踏み台にして更に切り掛かっていく。
今度は左足の膝の内側を目掛けてクレイモアを突き出した。ダークドラゴンから再び鮮血が噴き出す。
「おのれ!一度ならず二度さえも!!」
ダークドラゴンは翼を羽ばたかせ、上空へと舞い上がる。
「一撃で消し炭にしてやる!!暗黒竜の豪炎っ!!」
シエロに向かって地獄の業火にも似た、真っ黒な炎が周囲を焼き払いながら押し迫る。
「大いなる大地の障壁!!」
シエロは大きな石の壁を繰り出し、炎の勢いを弱める。そして、炎を回避し、自らの剣を鞘に納めつつこう叫んだ。
「武具召喚!魔剣バルムンクッ!!」
シエロの手に幅広の美しい剣が現れる。細かい彫刻の施された黄金の柄には青い宝玉がはめ込まれ、鞘は金糸を編み込んだ繊細な打紐で巻き上げられている。スラリと鞘から剣を抜くと光を反射して輝いているかの様に見えた。古の神話の時代の竜殺しの剣。
美々しい姿とは裏腹に、幾つもの命を刈り取ってきた魔剣である。
シエロは真正面からダークドラゴンに向かって走り出した。
「馬鹿め!!」
ダークドラゴンはブレスを吐いてシエロを焼き殺そうとする。
「遥か彼方より来たりし守護石よ!我を護れ!!」
シエロがそう叫ぶと、彼の身体は薄い灰色のオーラに包まれた。そしてそのままブレスに突っ込んで行く。シエロがブレスに飲み込まれた瞬間、大爆発が起きた。
周囲は真っ白な光に包まれる。光が収束するのにほんの数秒もかからなかっただろう。
しかし、気がつけばダークドラゴンは消え失せ、周囲もいつもの練兵場に変わっていた。
次週でシエロとカイトの戦いは終了予定です。