魔王と側近
毎週土曜日10時に更新予定です。
「えーっ。アイツらまた攻めて来たのぉー?」
広々とした玉座の間にやる気のない声が響く。
その声の主は泣く子も黙る最強の魔王、アレク=カクタス=オロウベルデである。
「それで、アレク様、如何なさいますか?」
目の前に遠隔透視魔法、深淵なる者の瞳を展開させ、進軍の様子を見ながら側近のアゾゼオは訊ねた。
「全くアイツらも懲りないよねー。はぁー面倒くさっ。で、今回の規模はどの程度の物なの?」
玉座に深く座って足を組み、肘をついている姿は如何にも気だるげである。
「今回は前回の倍といったところでしょうか?恐らく10万人はいると思われます」
「もーっ。毎回毎回どっから湧いて出るんだろうねー?いい加減にして欲しいよ」
片手で頭をかきむしりながら、呆れたようにアレクは言った。
魔王、アレクの在位はまだ、たった20年である。寿命が500歳とも言われる魔族にとっては、ほんの数日のようでしかない。
まだまだ、魔王になりたてのホヤホヤといっても可笑しくは無い期間なのだ。
しかし、魔王城への人間の侵攻は今回で50回に近づこうとしていた。
半年に1回以上も攻めてきている計算となる。
「そう仰るのでしたら、毎回きっちり皆殺しなさっては如何ですか?いつも律儀に敵軍の将のみを討って全軍撤退をさせるのですから、そりゃ幾らでも湧いて出ましょうよ」
アゾゼオは呆れた様子でアレクを見ながらそう言った。
「うーん。そうなんだけどさぁ・・・」
アレクはイマイチ煮え切らずにいた。
彼の実力をもってすれば、人間が幾らまとめてかかってこようと、一掃する事はさして難しい事ではない。
しかし、1度でもそれを行ってしまえば、アレクが目標としている不可侵条約締結への道は、より困難なものへとなってしまうだろう。
アレクは歴代の魔王達とは異なり、人間をいたぶる事に全く興味はない。
それどころか、あの怠惰な生き物達にちょっとした好意に似た感情さえ抱いている。
魔族においては、全くの異質な存在だ。
魔王なのに、である。
彼が人間と戦うのは、ただ単に人間が攻めてくるからである。
彼自身が侵攻をする事などは、全く考えもしていない。
基本、面倒臭いのである。
友好条約とまではいかなくても、せめて不可侵条約くらいは結ぶ事が出来ないだろうかと在位して間もない頃から考えていた。
そうすれば彼の大好きな昼寝がいくらでも出来るからだ。
そして実際に、不可侵条約に向けて以前より暗躍してはいるのだが、一向に成果は上がっていない。
「ねぇ、アゾゼオー。前にも言ったんだけどさぁ、やっぱり城の周りに幻術かけて、簡単に辿り着くことが出来ない様にしないー?今まで我慢してきたけどさぁ、やっぱり毎回毎回面倒臭いよ・・・。それに多少なりともコチラにも被害は出ちゃう訳だし・・・」
ふぅっとため息をつきながらアレクはアゾゼオを見つめる。
「で、その幻術とやらの魔力はどちらから持ってくるおつもりですか?」
冷やかな目でアゾゼオはアレクをチラリと見ると、両手を上げて首を振った。
「アゾゼオにおね「私は無理ですよ?」
アレクの言葉を遮る様にアゾゼオは言う。
「そもそも!単に邪魔だからと言った理由で、私以外の者の登城を拒否なさったのは、魔王様ご自身ですからね!もうお忘れですか?」
「うーっ。だってアイツら暇さえあれば僕の事、暗殺しようとするじゃん。いちいち撃退するのって、面倒なんだよねー」
「ですからあの時、アウイン達親衛隊だけは残しておけば宜しかったのです。彼らはそんな下種な輩ではない事を、アレク様でしたら充分ご存じでしょうに」
「うーん。それは僕も考えたんだよ?だけどさ、それはそれで煩いじゃん。何であいつらだけだの何だのと」
「それを黙らせるのも、魔王様のお役目です」
「ねぇ、アゾゼオ。さっきっから思うんだけど、都合の悪い事言う時ばっかり魔王様なんて言うのやめてくれないかなー?」
「言わせているのは魔王様です。で、ともかく、今回の進軍の対応は如何なさいますか?」
「もういっその事、1度襲わせて仮死状態に「却下です」
「って、まだ話の途中じゃんかー!さっきっから人の話を遮るのは良くないよ!」
「魔王様、幾ら仮死状態だと言え、復活の儀式が多大なる手間がかかる事ぐらいご存じですよね?それを行う余裕が我が国にあるとでも?それにワザとだとは言え、仮に魔王様が倒されたとなっては、ただでさえ纏まりに欠ける魔国がどうなるかぐらい、考えの及ばない魔国様ではありますまいに」
「・・・。はぁーっ」
アレクは深くため息をついた。
「もー分かったよー。行ってくればいいんでしょ。行ってくれば。全く側近は魔王使いが荒いんだから・・・」
ぶちぶちと文句を言いながら、アレクは移動魔法テレポートを発動させ、ゲートを開いた。
「じゃぁちょっと行って来るから、後の事宜しくねーっ」
ゲートをくぐりながら、手をヒラヒラとさせ、アレクはアゾゼオに言った。
「畏まりましたアレク様。どうぞ、ご武運を」
恭しく跪き、右手を胸に添えつつ、アゾゼオは最敬礼の仕草で言う。
「ほーい、じゃあ行ってくるねー。お土産はないよーっ」
アレクの緊張感の全くない声が聞こえた後、先ほどまで玉座にあった、その姿は消えていた。
今頃は既に敵軍の真っ只中にその存在を現している事だろう。
「全くあのお方は・・・」
アゾゼオは立ち上がり、少しばかりこめかみを押さえると、シュッと佇まいを正して玉座の間を後にした。
なるべく早く更新していける様に頑張ります(*^_^*)