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ご。

改訂いたしました。28.1.31


 ミシィが戻ってきた事にかなり攻め立てられたイルグルムであったが、少女は羞恥心や恐怖心の代わりに回りはかなり改善された。


 まず質素な部屋から手早く王宮の一番奥に当たる客間に移動し、少女を匿うこと。


 これは陛下に報告書を届けたデュラミス宰相が「敵ではない」と決定付けたので、報告書を読んだ陛下が了承したからだ。


 一番の決めては魔力保持者ではないこと。武器が扱えないこと。


 魔力がないと言うことは魔術が使えないと言うことなので戦力の半分が削れた。次にもう半分の戦力である身体的武具の能力なのだが、これまた壊滅的にないことがわかり問題ないとデュラミス宰相が太鼓判を押したのだ。


 危険なやり方であったが護身のために、と身に付けていたナイフを押し付けても取ろうともせずむしろ嫌がって怯え泣き出したのも決め手になった。無理矢理に持たせた方が震えた手でかなり危なかったし、演技でないことも十分にわかるので早々に問題なし、と決断。


 密偵ではないとわかればあとは人格を疑うだけで、これまで逃げ出せる隙はいくらでも作ってあったし一人にすると踞って泣き出しそうになるのだから疑うのも馬鹿らしくなる。とくに見抜く技術が冴えているミシィが傍で見ていて問題ないと言うならは疑うのも意味がない。


 これらがすべて演技となると一流の役者と誰もが言うだろう。すぐに歌劇の一番人気になるに違いない。


 それでも一応は監視のためにミシィが付くことになる。城にいれば彼女が少女に付きっきりでお世話をしていてもおかしくはないし、一人でだいたいの事を手早く済ませてしまうのだから少女の生活は十分に整ったのだ。一日を置いてみたが、何かが起こる事もなかった。このまま変な事をせずにいてくれる事をイルグルムは願う。


 そんな少女をミシィと言う監視者を置いて一週間ほどすぎ、イルグルムは呼び出されていた。もちろん相手は国王だ。なんでも重大な事がわかったと言うので急ぎ来るようにと言われた。



「お呼びと伺いました」

「ああ、呼んだぞ。お前にとってとてもいい話だ」



 それにしては頬が緩みすぎているのではないか、気が気でならないとイルグルムは思う。どう見たってにやにやと言うのが当てはまるくらい少しだらしない顔で国王が笑っている。隣にいるデュラミス宰相も少しばかり浮わついているのか、笑っていた。



「これをまず読め」



 デュラミス宰相の手によって前に差し出されたのは古い書本のようだ。表紙は珍しく何も書いておらず、端の方が少しだけボロボロで年期が窺える。


 これは、と問えばあっさり返ってきた返答に驚愕する。王族のみが閲覧できる禁書と言われて驚かざる終えない。なんてものを渡すのだ、と思わず抗議したほどだ。


 だが国王もデュラミス宰相も気にせずに読めと言う。王命と重たい命令まで付けてでも読ませたいらしい。だがイルグルムは恐れ多いと避け続ける。いくら甥で少なからず王族と言われようとも、イルグルムの今の身分は公爵だ。王族ではない。どれだけこの書が大丈夫でもこれだけは譲れないとイルグルムは頑なに断った。親子揃って禁書になど手を付けられるか、と胸の内に呟いて。


 しかしこの攻防に一早く業を煮やしたのは国王。ならばとおもむろに本を開き読み聞かせるように読んでいく。応戦とばかりに耳を塞ぐが、最終的には同じく業を煮やしたデュラミス宰相の一喝でようやく話が進む。



 ――かつて我が国は貧困の闇に直面していた。都市部では多少なりと豊かであったがそれ以外は豊かであったとは言えない。それでも成す術がない我が国は刻一刻と食物が消えていく。


 そんな時に国を救った救世主を忘れることなかれ。その出で立ちは世に珍しき漆黒の髪と瞳。我々には考えもつかぬ知識を持ち、繁栄をもたらす象徴。


 クラムの木が枯れる時、それは救世主が現れる兆候である。晴天の空より暖かな光とともに舞い降りるその者を大事にするがいい。国は再び春の訪れの如く恵みが運ばれるだろう。クラムの木に花が咲けばこの国は安寧の時が満ちる。


 ただ気を付けなければならない。彼の者がこちらに来たとき、それはこの国が何らかの導きが必要な時だ。蔑ろにすることなかれ。


 彼の者を傷つける国は滅びの一途を。彼の者を癒す国には興隆を。


 時に刻め。人に刻め。心に刻め。彼の者は異世界から導かれた『贈られ人』なり。彼の意向は未来の栄光。



「これが基盤であり、この『贈られ人』は個人だけのために祝福される事もあるそうだ。今から三百年前には世界の魔術師を救った聖女様―――その方は黒髪で黒い瞳の持ち主だ。それでだな。現れるときは二つの場合がある」

「………何が、言いたいのですか?」

「聞け。その二つなのだが、一つは国のためや全体的に及ぼす影響を与える『贈られ人』はクラムの木に誰もいない時に忽然と姿を表す。そしてもう一つは『贈られ人』が必要な人物の前に現れるのだ。そして今回の『贈られ人』である彼女はお前の前に現れた。これがどういう意味か、わかるだろう?」

「ですが」

「わかるだろう?」



 だん、と軽くテーブルを叩いて黙らせる王。何がなんでも自分の意見を通したいらしい。逆らうわけかにはいかないのでイルグルムはそのまま引き下がる。


 国王―――いや、これはデュラミス宰相も考えたのだが『贈られ人』がイルグルムの前に現れたの必然的と思っている。


 今では肌を出すことさえ、下手をすれば布の隙間から漏れだす魔力のせいで生身の人間は近づけないのだ。しかも過去をみれば彼は被害者である。これぞ啓示と二人は考えていた。


 この二人をくっつければまさに幸せである。国としては広いがそこまで酷い有り様を聞いてもいないし、きっちり信頼のおける家臣たちに視察を半年に一度は別の者を行かせて行っているのでほぼ間違いがない。


 そしてイルグルムの目の前に現れたと言うのだから揺るがない証拠である。しかも彼の『贈られ人』はイルグルムに触れられるとくればもう確信した、と二人は決定付けている。


 ただ本人であるイルグルムは気が進まないのか、それともただの無関心なだけなのか乗り気の雰囲気さえも感じられない。むしろ仮面とローブでピクリとも動かないので把握はできないが。


 計画はすでに練ってある。ここは何としてでも二人をくっつけるために、まずはイルグルムを丸めこまなければならない。王と宰相はこくりと頷きあってまずデュラミス宰相がいい放った。



「彼女はまだこちらの言葉がわからない。しばらくはこちらの常識を教えるために王の賓客として城の間の一室で過ごしてもらう。担当はミシィだが、ミシィだけでは大変でだろう。イルグルム、手伝いなさい」

「手伝い、ですか」

「そう。生活ではミシィにお願いするが言葉や文字までもすべて一人にやらせる訳にはいかない。そこはイルグルムが教える事にするように」

「調整、してくださるんですか?」

「私を誰だと思っている?ツテは色々と持っているし黙らせるだけの材料は手元にある」



 くっくっくっ。そんな笑いがデュラミス宰相から漏れだす。右腕として申し分ない宰相に王はそう言えば、と視線を反らせた。


 かつて―――現王がまだ王位に就いていない時だ。この宰相が現王の教育係であったがためにありとあらゆる手段で抜け出していた王に対し、ありとあらゆる手段で捕まえ、延々と説き伏せる様はとても苦痛だったと覚えている。


 普通に説教するだけではないのだ。人の弱点に漬け込んで嫌みと屈辱を植え付けたかと思うと原点に戻ってダメ出しを掘り返していくのだ。そして二度、三度と抜け出しては前回より上回る倍の数で護衛が悲壮から鬼の形相で追いかけてくるので結局のところ五度目で逃げ回るのは止めたのだ。


 みな必死すぎて泣きながら目が血走っていたし、宰相の長すぎる精神的な説教も身が持たない。五度目で国の半分の騎士団を使わせるのであればやめた方が世のため人のため………


 調整するために脅すんだろうな。そう言えばあそこの魔術師団の経費が前年度より倍ほど増えていたな。この前なんかあそこの魔術師団は騎士団と揉めていたな。あそこの馬鹿貴族の魔術師も暇だと叫んでいたはずだ。―――仕事を吹っ掛けてイルグルムの時間を作るのは容易そうだな。王はそっと目を瞑った。



「異論はないな?」

「………数時間ですよね?それなら別に」

「半日だ」

「はんっ!?あ、いや、話を続けてくれ」



 王が目を見開いてデュラミス宰相を見たがすぐに竦めた。ぶつぶつと三時間だっただろうと呟いているが、どうやら王でも止められない様子らしい。



「…………………………………………………あの、半日?さすがにそれでは」

「イルグルム。君は魔術師団長となって休暇はいつ、どれだけとったかね」

「………………………………………………………………………年末年始、に二日とまれに数日ほど、です」

「働きすぎだ馬鹿者。休暇と思ってしばらく半日は彼女に付きっきりでいるように」

「デュラミス宰相、それで大丈夫か?」

「だいたい、魔術師団は少しイルグルムに頼りすぎだと前々から思っていたのだ。ちょうどいい」

「あの、別にそこまでしなくても」

「彼女はイルグルムのために現れたのだ。目の前に現れたのだからわかるだろう?彼女も調べなくてはならないのだからイルグルムは適任だ。反論は認めない」

「いや、だがそれでは回りが黙っておらんだろう」

「私が黙らせるのでご安心ください」

「一番、安心できんぞ………いや、私は聞かなかったことにする。くれぐれもほどほどに………」



 私もそう思います。ぐっと喉に言葉をつまらせてイルグルムは退室を求めた。


 デュラミス宰相をよく知っている二人だからこそ何も言わないし言えない。このようにデュラミス宰相が断固として話を突き進める時は必ず実行されるのだ。すでに囲い込みが終わっているのか………はたまた誰かの抗議など痛くも痒くもないほど懐を握っているのか………


 明日から始まるらしいので今日中に書類を片付けなければ―――今日の予定を立て直すために、デュラミス宰相から何か言われる前に退室をしてその日は珍しくイルグルムは夜遅くまで残った。



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