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罪悪感

ブー、ブー、ブー


ポケットの中で振動を繰り返すそれは、どうやらメールではなく電話らしい。


「…携帯?」

「あ、すみません、俺のみたいですけど、放っておいて大丈夫なんで続けてください」

「なんやなんや、彼女からのラブコールか?」


つくづく電源を切ったままにしておけばよかったなと後悔する結生に、軽い口調で芳士がそう言ったその時。


「結生ちゃん」


渚が珍しく真剣な顔で名前を呼んだ。


「そういう変なところで、気ぃ使わなくていいから」

「でも…」

「そりゃ本当に彼女からのラブコールでここでいちゃつかれでもしたらさすがにキレるかもしれないけど?でも、せめて誰からかくらい確認してから出るか出ないかは決めなよ」


ポケットの中の振動はまだ止まらない。この段階で電話の正体は恐らく想像できるあの一人だ。

そして、その人からの電話なら、出れるに越したことはない。


「すいません…母から、みたいです…」

「ほらね、やっぱり。話しておいで、俺たちのことは気にしなくていいから」


そう言ってにこっと笑ってくれる渚の隣では蓮が黙って頷いており、自分の隣に座っている響も穏やかな顔で笑ってくれている。

みんながみんな、本心からこんな顔をしてくれている確信なんてどこにもないけれど、でもなぜかこの人たちなら信じられる気がした。

ーーー誰かを信じるなんてことは、とうの昔に忘れてしまっていた筈なのに。


「すみません、ありがとうございます」



なぁんて幸せいっぱいみたいな発想をして店を出て来たものの、さてどうしようかと未だ振動を続ける携帯を目前に結生は考える。

あの人が電話をかけてきた理由はだいたいわかってるし、正直あの人ーー母親ーーとは喋りたくない。

が、ここでブチ切りをしても何度もかかってくるのは目に見えているし、第一親切に電話してこいと後押ししてくれた渚たちの好意を無駄にすることになる。

そう考えた結生は、大きなため息を一つつくと諦めて通話ボタンを押した。


「…もしもし」


さっきからの明るい声とは一転、まるで研ぎ澄まされたかのような鋭く低い声が自然と出る。


ああ、なんだか普段の明るく振る舞ってる俺を本当の俺として親切にしてくれてる生徒会のみんなに申し訳なくなってきた…。


別に、意識してやっているわけではなく、自然と人前ではそうなってしまうだけなのだけれど。それでも、なんだか自分だけが本当の自分を隠して騙しているようで、どうにも罪悪感が拭えないのだ。


『もしもしじゃないわよ!なんで出るのにこんなに時間がかかるわけ!?』


ああ、もう、うるさい。


『一体いつになったら帰ってくるのよ!あんた来週の月曜日に模試あるのわかってるの!?そんな無駄なことしてる暇があったらとっとと家帰ってきて勉強しなさいよ!!』


無駄なこと?俺にとっては大事な場所なのに?


『どうせあの気持ち悪い愛想笑い振りまいてへらへらしてるだけなんでしょ!!だったら早く帰ってきなさい!あんたなんかいなくったって誰も困りはしないわよ!!』


そっか。そうだよね…。


本当はわかっていた。最近はあまりにも居心地が良かったから考えないようにしていたけれど。


ーーー俺がこの生徒会で、本当に役にたっているのか。


渚に会計を頼まれたとき、確かに家に居たくないという理由もあったけれど、何よりも自分を必要としてくれたことが嬉しかった。だからこそ、二つ返事で引き受けたのだ。

でも…


『ちょっと結生!聞いてるの!?返事しなさいよ!』


わかってるよ、わかってる。

でも、今はまだ認めたくないんだ。

必要とされなくなるぎりぎりまでは、甘い夢を見ていたいから。


「黙って、くれるかな…」


自分でも驚くほど、今までで一番と言っていいほど低い声が出た。

相変わらず、何の感情も感じられない声だけれど。


「今大事な打ち合わせの途中なんだ。今日は相当遅くなると思うけど、もう電話しないで。じゃあ」


一方的に通話を終了させ、かかってこないうちに電源を切る。本当に、最初からこうしておけば良かった。


(考えない、考えない…)


今の状態でうまく笑えるかわからないけど、とにかく打ち合わせに戻ろうとしたとき。


「待てよ」


低い声とともに、何者かに腕を掴まれた。

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