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最悪の印象

ーーー触れてほしくなかった傷口を、えぐられたような気がした。

呼吸の仕方さえ、忘れてしまったような気がする。



「ちょ、ちょっと、何言ってるんですか先生、別に面白さとか求めてないでしょう?」


視界の隅で、渚がそうフォローしてくれているのを捉えた。頭の冷静な部分が必死で笑えと命令するが、表情筋は固まったままでちっとも言うことをきいてくれない。

こんな自分のことをフォローして庇ってくれるような優しい先輩に迷惑なんてかけてはいけない。笑え、笑え、笑え…


「そうだな、別に面白さなんて求めてねぇ。俺が腹立ててんのは、ちょっと顔がいいってくらいで特別人を寄せ付けるような気質をまるで持ってないこいつが、必要以上に囃し立てられるってことにだよ。こいつがこの学校の高嶺の花?は、笑わせんな。高嶺も何もただコミュニケーションが下手くそなだけじゃねえか」


高嶺の花というのは、生徒たちの間でひっそりと囁かれている結生の渾名だった。彼のあまり深く踏み込まないという人付き合いはどうやら気高さと勘違いされたらしく、手の届かない存在としてそう呼ばれているらしい。もちろん結生が意識してそう呼ばせているわけではなく、勝手にそう呼ばれているだけであるのだが。


「だからって結生ちゃんにあたるのはおかしいでしょう?結生ちゃんが好きでそう呼ばせてるわけでもないのに彼のことを責めるのはただの八つ当たりってやつですよ」

「ああそうだな、じゃあお前も、そうやってこいつのことをちゃん付けで呼ぶの止めてくれねえか?それがお姫様扱いだっつってんの。すげえ胸糞悪い」

「それは…」


返す言葉がなくなったのか、唇を噛んで黙りこんでしまった渚に、結生ははっとした。駄目だ、このままでは敦賀の矛先が渚へ向いてしまう。その前にどうにかしないと。そう、いつものように表情筋を動かしてーーー


「あの…」


うまく笑えているかはわからないけど、何とか声は普通に出せた。室内にいる全員の目が結生へと向けられる。


「すみません、俺、人前で話すのとか苦手だから…面白い話とかはできないけど、この生徒会で活動するうちに頑張って慣れていこうと思うので…よろしくお願いしますね」


頑張ってどうにかなるようなものではないということくらいは、身を持って知っているけれど。


(大丈夫、俺はこんなのもう慣れてるから…。大丈夫、大丈夫)


声が震えそうになるのを必死で堪えながらそう言った結生に、渚や響は心配そうな顔をしたが、肝心の敦賀はふんっと鼻を鳴らしただけだった。

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