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俺様教師

どうして自分はこんなところにいるんだろう。


時は流れ、ところは放課後の生徒会室。


「ったく今何時だと思ってんだよ!このままじゃいつまで経っても自己紹介出来ねえだろうが!」

「そんなの俺の知ったことじゃないし、第一勝手に自己紹介に参加したいから俺が来るまで始めるなーとか言ってるのはあの馬鹿教師でしょ?文句があるならそっちに言ってよ」

「知らねえよ!教師との打ち合わせも生徒会長の仕事じゃねえのかよ!ああん!?」

「うるさいな、だいたいそれを言うならあんたこそ副会長として俺を支えるべきじゃん?あーあ、なんでこんな能無しが俺の補佐なんかやってんのかねー」

「こんのっ…!!」

「いいからあなたたちは黙ってください」


もとから仲があまりよろしくないのか、延々とくだらないことで喧嘩を続ける生徒会長の観堂渚と副会長の田辻間(タツジマ)(レン)。そして冷静にそれを注意する書記の笠松(カサマツ)(ヒビキ)

これに自分を合わせたものが、今年度の生徒会代表メンバーらしい。


ーーーーーなんだか頭が痛くなってきた…。


もとより人と付き合うことが苦手な性分である。正直、こんな賑やかなところにはいたくない。

おまけに周りは自分以外校内の有名人ばかりだ。超絶美形な生徒会長に無愛想だが精悍な顔つきをした男のお色気むんむん副会長、そして入学してから一度も首席を譲ったことのない超頭脳明晰の書記。

本当に自分はこんなところにいてもいいのだろうか。考えれば考えるほど、昨夜の観堂先輩からの電話が何かの嘘だったように思えてくる。


そんなことを考えていると、ふと観堂から心配そうに顔を覗き込まれた。結生ははっとして、無意識のうちに慌てて「表の顔」を貼り付ける。あまり意識はしていないのだが、母曰く、自分はどうも公の場では「表の顔」という愛想笑いを通り越した豹変をしているらしい。ちなみに、家や一人の時の顔である「素の顔」は、表情の抜け落ちたクローンのような顔であるようだ。最近は少し自覚も出てきて、周りの友人などから「結生ってほんとに人当たりがいいよなー」などと言われる度に若干の罪悪感を覚えるようにもなったが、だからと言ってわざわざ人前でそんな顔をする理由も思いつかないし、なりよりそんな無表情で他人の気分を害するくらいなら、愛想笑いであろうが表の顔であろうがいくらでも振りまいておいた方がお互いの為だろう。


「結生ちゃん、大丈夫?なんか疲れてる感じだったけど」

「いえ、大丈夫です、すみません。少し考えごとをしてただけですから」


人前では気持ち悪いほど上ずる自分の声にも思わず溜息をつきそうになる。ここ最近ーーー自分で自分の感情がわからなくなってからーーーはずっとこの調子だから、きっとこの学校の関係者はこれが結生の本来の姿だと思っているだろう。別に否定はしない。実際、人前で喋ると無意識のうちにこうなるのだし、幸か不幸か中性的な容姿も災いして、誰も結生のこの声にも違和感をもたない。が、だからと言ってこれほどまで見事に変わる自分の表情も声音も、自分から見ればただ気持ちが悪いだけなわけで。というより、最近はもはやどちらが本当の自分なのかさえわからなくなってきている。


(やっぱり人付き合いって面倒くさい…)


自分の思考にもうんざりして、改めて生徒会に入ったことを後悔した、その時。


「わりぃ、待たせた」


息を切らせながら勢いよくドアを開けたのは、俺様教師として有名なこの生徒会の担当教師ーーー敦賀(ツルガ)竜斗(リュウト)だった。


***


「というわけで、自己紹介だけど…俺からでいい?」

「つーかお前意外に誰から始めるっつーんだよ馬鹿会長」

「っさいな、あんたは黙っててよボケナス」

「誰がボケナスだとああ!?」


またしてもくだらない口喧嘩から始まる自己紹介。とはいえこれもいつものことなのか、敦賀も響もこの喧嘩を特に止める気はないらしい。もっとも響のほうは、隣に座っていた結生にしか聞こえないほどの溜息なら、先ほどから何度もついていたが。

ちなみに、結生と響は一度も同じクラスになったことがないから面識はないものの、一応同じ学年である。このことは結生にとってかなり心強かった。というのも、響はその頭のキレの良さから、去年から生徒会に駆り出され、活動していたからだ。わからないことがあったら遠慮なく聞いてくださいねーーーそう穏やかに笑う響は、人と関わりを持つのを苦手とする結生にしてはひどく珍しく好感を持てた人だった。その理由として、彼もまた、あまり人と群れようとしない雰囲気を醸し出していたからかもしれない。


「じゃあ次、結生ちゃん言ってもらっていいかな」


渚の声で我にかえると、ついに自分の番まで回ってきていたらしい。

正直、自己紹介は好きではない。トークスキルがほとんどないに等しい自分にとって、人に興味を持ってもらえるように話すのはかなりの至難の技だ。というより、過去に何度かクラスの自己紹介などで面白おかしく話そうとして見事に滑り、それ以降はそんな惨めな思いをするくらいならと、自己紹介は本当に名前と簡単な挨拶しかしなくなった。そういう訳だから自分の挨拶のあとにしーんとした空間ができるのは当然といえば当然だし自業自得なのだけれど、それでもどうしてもなんだかいたたまれなくなるときがたまにある。


(大丈夫、もしまたあの空気になったとしても相手は生徒会の人達で、所詮放課後だけの付き合いだし)


「二年朝倉結生です。生徒会のことはまだよくわかっていませんが、精一杯頑張りますのでこれからよろしくお願いします」


自分で自分に言い聞かせながらそれだけ言って席に着く。またあの空気がくるかーーーそう身構えていた結生は、ぽんぽんと叩かれた肩に思わず顔をあげた。


「…会長…?」

「さっすが結生ちゃん、やっぱり三年の中でも人気なだけあるわ」

「…へ?」

「さっきのよろしくお願いしますーのあとのニコって何?あれ確信犯?すごいなあ、顔綺麗で人当たりよくておまけに社交性まであるなんて」


いきなりのマシンガントークについていけずに頭の上にクエスチョンマークを浮かべていると、隣に座っていた響がそっと耳打ちしてくる。


「これは会長の褒め言葉ですよ、適当にありがとうございますーとか言っておけばいいんです」

「は、はあ…」


とりあえず、自己紹介はなんとか乗り越えられたらしい。


(なんだかいろいろ誤解されてるようだけど、とりあえず良かった…)


安堵のせいかどうかはわからないが、一気に力の抜けた体を背もたれに預けていた、その時。

斜め前に座ってそれまでの成り行きを黙って見守っていた俺様教師の一言によって、結生の安堵は粉々に粉砕される。


「で、お前、続きは?今の自己紹介、全然面白くなかったんだけど」


鋭い目をさらに細めて放たれたその言葉に、結生の頭は真っ白になった。


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