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媚びと本意と

side敦賀


最初はむしろ嫌いな部類だった。


いかにも嘘くさいうわっぺらだけの笑顔と、一般受けしそうな高めの声。そして、無駄に整った容姿。


そんな奴が、どうして生徒たちから人気があり、ちやほやされているのかがわからない。


男子校であるがゆえに、同性を恋愛対象やアイドル的存在にするのはさほど珍しいことでもなく、むしろ敦賀自信もその対象にされる側ではあるのだが、どうしても朝倉結生という人間だけは生理的に受け付けられない。

その理由は、明確には自分でもわからないけれど。


そんなあいつに対する印象が少し変わったのは、あのレストランでの打ち合わせの時だ。


たまたま金城と少し話をするために外へ出ていた帰り、レストランに入ろうとしたその時、柱の向こうから思わず背筋が凍るほどの冷たい声が聞こえてきた。


口調は穏やかなのに声に出された一つ一つの言葉が、まるで刃のように鋭く冷たい。


(喧嘩か…?)


声からしてそこにいるのは一人だけのようだが、誰かが一方的に誰かを責めているのかもしれない。


そう思い、ほぼ興味本位で柱の裏をちらりと覗いてみたところーーーそこにいた人物に敦賀は驚き、反射的にその手首を掴んだというわけだ。


とはいえ、その電話での口調の変貌については、結生には何も尋ねていない。特に深い訳はないけれど、人が聞かれたがっているのかそうでないのかくらいの判断が出来ないほど、彼は子供でなかったから。


それからはこの通りだ。最初は興味があるだけだったのに、いつの間にか好きになっていた。特に、ごくたまに彼が見せる本当に楽しそうな表情や普段からは想像も出来ないような無表情、ふとした瞬間に見せるどこか影のある寂しそうな顔。それらをずっと見ていたいと思った。それらの訳を知りたいと思った。


(それにしても…)


先日、生徒会室で告白の返事を訊いたときのことを思い出す。


『おい、どうした、あさく…』

『…やめて…母さん…』


(あいつは気付いていなかったみたいだが…)


本当のところ、結生は意識を飛ばしていたわけではなかったのだ。

まるで、何かに憑かれたかのように、『やめて』『母さん』その二言ばかりを繰り返していた。


(母親絡みか…)


確かにこの前のレストランの一件でも、とてもじゃないが彼と母親が仲が良いようには見えなかった。


(まあ、俺自信あの母親は生理的に受け付けないけどな)


媚びの売ってるのがバレバレって感じだったし。


要するに自分は、人によって態度が変わったり媚びを売ったりする人間が嫌いなんだと思う。


「敦賀先生!敦賀先生!!」


そんなことを考えていると、同僚であり二年の学年主任である教師に強く肩を叩かれた。

どうやらしばらく前からすでに何度も呼ばれていたようだ。


「すみません、何か?」

「いやね、実は今日、片岡先生が風邪で休みなんだ。君、片岡君と同じ数学科だし、次の時間の授業を代わりに見てきてやってほしいんだが…」


ちなみに敦賀は1、3年の数学担当、片岡が2年の数学担当である。


(俺より受け持ち数少ない挙句委員会も部活も担任さえ持っていない癖に、風邪ひいて欠席なんて、一体何考えてんだか…)


「はあ…わかりました。ちなみにクラスは?」


それでも一応仕事だし、年齢からいけば自分の方が下になるから、とりあえずは引き受けておこうとそう言ってーーー


「2-1だ。君の生徒会の子がいるクラスだよ」


敦賀は目を見開いた。

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