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第7章 大空翔とルーナ・ローシー

その日の夜22時過ぎ…


「ううっ…ここは?病院か?」

龍一がようやく目を覚ました。

「目を覚ましたのね。ここは何でも屋ペガサスという会社よ」

「何でも屋…」

「そう、人探しや建物の掃除、飲食店の手伝い、それから悪党退治などを行っているわ」

「…なら、人殺しもするのか?」

「この会社では法律で禁じられているような暗殺や薬物運搬などはしてはいけない」

と言いながら、スギールがルーナの部屋に入ってきた。

「そうですか…」

「あっ、私はルーナ・ローシー血の繋がりはないけどここの社長の孫娘よ」

「私はスギール・フランソワだ。ここの社長の弟子でもあり、この会社のリーダーだ」

「俺はかむ…大空翔」

神威龍一と名乗らなかったのは、すでに他国でもジャパールの英雄の事は知られている。

だから、本名の大空翔と名乗ったのだ。

「ルーナが森で倒れていたお前を運んで来て、私たちが治療したのだ」

「えっ!そうですか…すみません」

そう言って起き上がり、立ち上がろうとした。

「まだ、座るくらいしかダメよ」

「ですが…」

「それより夜ごはん作ったから、食べて。冷めちゃったけど」

ピラフにポテトサラダ、コーンポタージュにミルクが用意されていた。

「これ、ルーナさんが作ったんですか?」

「ええまあ…料理好きなので」

「お粥とかのほうがよかったんじゃないのか?」

とスギールが言った。

「あっそうよね~。でもまあ、病気じゃなく怪我出し…」

ルーナはおろおろしながら答えていたが、龍一…いや、翔はおいしそうに食べ始めた。

「箸やスプーンあるけど」

「えっ…いや~ここ数年手掴みで食べていたから」

「そう。それより冷えていたら温めてくるわ」

「いえ…こんな温かい愛情のこもった料理は7、8年ぶりです」

「そうなんだ」

「それに6歳の時に死別した姉から、世の中食べれなくて死んでいく人たちもいると教わったので…」

「(この子戦争が起きる前から苦労してきたのね)」

「あっ、俺の刀は?」

「お前の武器はすべて私が預かっている」

「他の武器はいいが、刀は俺にとって師匠の形見だから」

「私が責任を持って、預かるから。まずは傷を治せ」

「あっ、でも首にかかっていたお守りは、私が預かっていたんだわ。かなりボロボロだったから、私が少し縫って直しておいたの」

そう言って、お守りを翔の首にかけた。

「このお守りは姉さんが6歳の誕生日の時に作ってくれたお守り。これも大事な姉さんの形見」

「そうなんだ…」

翔はミルクを飲みながらこう言った。

「俺がジャパール人だということは気づいているのでしょう。なのになぜ、こうも親切にしてくれるんですか?」

「この会社では国籍だとか性別だとかを差別しないわ。それに、ここで仕事している人たちは皆、他の国の人たちばかりよ」

「そうですか…」

翔は顔には出さないが、心の中では喜んでいた。

8年間忘れていた、冷めていても愛情がこもった温かい料理に、暖かい布団、そして暖かい愛情を思い出すことが出来たからだ。

「俺が自殺しようとしたことを聞かないんですね」

「誰だって話したくない過去があるだろうから」

さっきまで笑顔だったルーナが少し寂しそうな顔で答えた。

彼女にも悲しい過去がある。

自分の本当の親の顔を知らないという悲しい過去が……

「でも、もう自殺なんてしないでね。生きていれば必ず幸せになれるわ」

「(なんて優しい人だ。まるで姉さんのようだ)分かりました。貴女に助けられた命です。大事にします」

「良かった」

「(この少年餓えた獣のような目をしていたから、警戒しようと思ったが、その必要はなさそうだな…)お前、これからどうする?」

「う~ん…」

「そうだわ。行くところがなければペガサス(ここ)で働いてみない?」

「しかし、俺は戦争とはいえ、多くの人間を殺してきた死神です」

「過去に囚われないで、今を私たちと共に生きていこうよ」

ルーナの優しい笑顔に翔は即答で「はい」と答えた。

「…貴女は本当に亡き姉のような人だ。容姿は違うが、姉のように優しくてとても綺麗な人ですね」

「だったら、これからは私があなたの姉になってあげる」

「えっ!?」

「迷惑かな」

「いえ、嬉しいです。ありがとう、ルーナさん。それと、え~と…」

「スギールだ。ここではたいていスギと呼ばれている」

「スギさん、ありがとう」

相変わらず喜びを顔に出さないが、心の中では喜んでいた。

翔は怪我が治るまでルーナの部屋で安静にしていた。

また、ルーナ、スギール、ランの三人が交代で看病していた。

「いいな~あの少年!ルーナちゃん達に看病してもらえて、俺も病気か怪我しようかな~」

「おい、仕事だ。今日は二人で飲食店の手伝いだろうが」

四天王は、よく悪者退治の依頼を受けることが多いが、たまに雑用も行う。

基本的に依頼が来たら、その仕事の依頼に行きたいものが行くのだが、盗賊団などの悪者退治は基本的に四天王が行う。


翔がこのペガサスに来て2日目…

まだ抜糸もしていないから完全に完治したわけではないが、とりあえず、他の従業員に翔を紹介しようと、皆を1階の客間室へ呼んだ。

「大空翔。ジャパールから来ました。よろしく」

「なんか、愛想がないし、目つき悪いな~まるでジェーソンみたいだ」

「うるせ~な!(だが、確かにあいつの目は昔の俺の目と似ている。恋人を失い、悲しみを堪え、復讐しようとしていた頃の俺に…そうだった。あいつジャパール人だった。戦争とかで悲しい経験をしてきたんだな~)」


とりあえず翔は、ルーナに付いてもらい、まず、社内を案内された。

するとキャルロットが笑顔でやってきた。

「オイラ、キャルロット・クーゴ。社長じいちゃんが今日からはオイラの部屋を翔兄ちゃんと使いなさいと言われたから、夜は一緒に寝ようね」

「あ、ああ~よろしく」

「じゃあ、オイラビル掃除に行ってくるね」

「いってらっしゃい。馬車とかに気を付けてね」

と、ルーナが笑顔でキャルロットを見送った。

その後、翔に料理を教えようとした。

だが、野菜は刀で切ろうとするし、まだ、焼いていない生の肉を皿に盛り付けたり、料理は全然ダメだった。

だが、ペガサスに来てから、翔の顔つきや目つきは少しずつ、優しい顔つきや目つきになっていった。

獣のような目をしていた翔だが、特にルーナの前では飼いならされた子犬のようだった。


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