第5章 大空翔と神威龍一
退院後、翔は無理やり武蔵の弟子にされた。
ジャパールのとある場所に水神流の修行所がある。
「まずはお前のその甘ったれた根性を叩き直す」
そう言って翔を光も届かない独房の中へ入れた。
この独房は水神流を学ぶものが精神を鍛えるための独房だ。
誰もいない。何もない。4月の終わりだ。まだ、寒い。
しかもこの修業場は気温が低く、特に寒さが続く。
だが、暖かい布団などもない。
「出してよ」
「飯はちゃんとやる。おとなしく、俺がいいというまで入っていろ」
「え~ん!暗いよ。怖いよお姉ちゃん…お姉ちゃん…」
翔は舞からもらったお守りを握り泣きながらそう言った。
食事は武蔵が作った料理だが、当然おいしくもない。
毎日毎日、暗い独房でお守りを握り泣いていた。
2週間後…
武蔵が食事を持って独房へ入ってきた。
だが、翔はここ二日くらい何も食べていない。
倒れて、目は死んでいた。
「いい加減、食わんと死ぬぞ」
その言葉に翔はふと、昔、姉に言われたことを思い出した。
翔は野菜が嫌いでよく残していた。
だがある日、姉からこういわれた。
「翔、世の中には食べたくても食べれず死んじゃう人もいるのよ」
大好きな姉にそう言われてから、翔は野菜を食べるようになった。
その言葉を思い出してか、翔は武蔵が用意した食事を食べ始めた。
半年後…
ようやく独房から出された。
「少しはいい面になったな」
翔は半年間独房での生活で、目つきは鋭くなり、少したくましくなった。
その後本格的に厳しい修業が始まった。
そして、13歳の誕生日を迎えた。
だが、翔にとって誕生日は嫌な思い出しかない。
6歳の誕生日に大好きな姉や両親が殺されたからだ。
「今日でお前も13歳か」
「誕生日は嫌いだ。姉さんたちの命日だから」
「そうだな…うっ」
突然武蔵が苦しみだした。
「ゴホッ…」
そして吐血した。
「師匠!」
「だ、大丈夫だ。だが、どうやら俺もお前の誕生日が命日になりそうだ」
「な、なに言っているんですか!」
「はあ…これよりお前に最後の試練を与える」
「それどころじゃ」
「時間がね~んだよ」
「でも…」
「水神流最後の試練を始めるぞ」
「…分かりました。で、何をするんですか?」
「最後の試練は師弟での殺し合いだ!」
「えっ?」
「水神流は門外不出の一子相伝だ。弟子が師匠を殺すことが出来て、ようやく継承者になれる。だが、逆殺せなかったときは、師は弟子を殺す。それが水神流の運命だ」
「そ、そんな…俺が師匠を殺すことなんて…だいち師匠は病んでいるじゃないですか!」
「うるせ~!だから時間がね~んだよ!殺人術を極めたものは自分の体の事は自分がよく知っている。俺の命は長くない。お前に殺されなくても俺はもうじき死ぬだろう」
「師匠…」
「始めるぞ!」
翔は迷ったが、覚悟を決めた。
そして激しい戦いが始まった。
「つ、強い…とても病人とは思えない」
武蔵が腰に差していた刀を抜いた。
そして翔も刀を抜いた。
翔が斬りかかると、武蔵は片手で受け止め、首目掛けて突きを放った。
が、翔も片方の手で受け止めた。
武蔵は翔の刀を離し、翔の喉目掛けて正拳突きを放った。
だが、翔は後ろに跳んだ。
そして「鎌鼬」という水神流の秘剣を使った。
離れた相手にかまいたち現象を起こし、相手を斬りつける業だ。
翔が放った「鎌鼬」は見事に決まり、さらに奥義龍神を放った。
だが武蔵は倒れなかった。
だが、それなりのダメージを受けたのと、病のせいで、一瞬よろめいた。
翔は再び龍神を放った。
今度はさすがに倒れた。
「ハッ!師匠!!!!!」
「よ、よくやった」
「師匠…」
「翔…俺には…息子がいた。名前は神威龍一」
「神威龍一?」
「そうだ…だがやつは、継承者になれなかったため、この俺が殺した」
「!」
「今まで多くの人間を殺し、師匠を殺した時でさえ涙が出んかったのに、龍一を殺した時は泣いた。だから、俺はお前を心の中では、龍一と呼んでいた」
「神威…龍一……」
「俺の刀をお前に託す。あれは水神流の継承者の証」
翔は武蔵の刀を渡され、握りしめた。
「今日からはお前が水神流の20代目だ」
「俺が、水神流の20代目……」
「ああ、そうそう…お前の姉とはいつか時の中で出会えるだろう……」
「生きているのですか?」
「いや…も、もうこの時代にはいない……もっと強くなれ…翔…」
それが武蔵の最後の言葉だ。
「師匠!!!!!」
大声で泣きながら叫んだ。
ここ数年涙など流さなかったのに。
「…時の中で出会える?あの世でいつか出会えるということか?それともただ、俺が一人になったから、励ましの言葉なのか?」
この時の翔には意味不明だった。
翔は継承者の証である刀を腰に差し、自分の名を、武蔵の子の名前である、神威龍一と名乗るようになった。
それから二か月後……
ドラール王国が4隻の軍艦を率いジャパールの浦島沖に現れて、開国を求めた。
ジャパールにとって、不利な条約を要求してきたのだ。
だが、ジャパールは鎖国を貫いた。
そのため、一隻の軍艦がジャパールに攻撃をした。
ジャパール国とドラール王国との間で戦いが始まり、ジャパールドラール戦争が勃発した。
ジャパールにドラール軍が攻めてきた。
ジャパールの軍はこれに参戦。
特に活躍していたのが、浅葱色のだんだら模様の羽織を纏った、ジャパール国特殊部隊龍神隊である。
200年くらい前に結成した特殊部隊。
結成当時時代は死を恐れず戦うという意味から、死戦隊という名前であった。
この頃は爆弾を抱え敵に突っ込み、爆死する特攻隊だ。
50年くらい前に龍神隊という名を与えられた。
ジャパールドラール戦争時の隊員は865名で、幹部には8代目隊長近藤勇気(35歳)、副隊長土方歳夫(34歳)、沖田蒼馬(24歳)。
蒼馬と歳夫は義理兄弟だ。
蒼馬の10上の姉光代が歳夫の妻だからだ。
この他にも永倉新一(29歳)、斎藤一郎(26歳)、原田光助(31歳)などが所属しているが、この時は翔は隊に入隊していない。
だがある日、池田屋の森で神威龍一が一人で数十人を殺していたのを見た時に、隊長の近藤は龍神隊に入隊するように勧めた。
龍一は一人で戦うつもりだったが、一人より大勢のほうがいいと判断し、入隊を決めた。
この時龍一は13歳の少年であったため、隊の中では最年少であった。