第3章 死神対キラーマン
翔はリボンを取りポケットに入れた。
そして死神の大空翔…いや神威龍一対キラーマンの戦いが始まった。
先に攻撃を仕掛けたのは翔だ。
一回転し片方の足で相手の頭にかかと落とし、そしてもう片方の足でキラーマンを蹴り飛ばした。
翔は水神流というジャパールに伝わる殺人術の使い手だ。
「水神流は殺人術、俺は死神…」
「(私は翔君に二度と戦いなんかさせない…そう約束したのに、結局、あの子を戦わせてしまった)」
今度はキラーマンが攻撃を仕掛けた。
腰に差していた剣を抜き、翔の心臓目掛けて突きを放った。
だが紙一重で避けた。
だが、キラーマンは翔の金的へ前蹴りを放った。
翔は後ろに大きく跳んだ。
「体制が崩れたぜ!死神!」
そういうと、クラッシャーキャノンという攻撃魔法を放った。
ドドーン!!!!
キラーマンの攻撃魔法は翔に命中し、翔は倒れて動かなくなった。
「翔くーん!!」
ルーナが大声で叫んだ。
「まさか翔兄ちゃん死…」
キラーマンは翔のところまで跳び、今度は首目掛けて突きを放った。
「やめて~!!」
ルーナがまた叫んだ。
だが、翔はすぐに起き上りまた後ろへ跳んだ。
「死んだふりして油断させるつもりだったようだが、そんなもの読めているぜ」
「お前強くなったな」
「当たり前だ!戦争が終わっても、俺は戦い続けた。貴様を殺すためにな」
「フッ…そうか!」
翔は地面に落ちている石をキラーマンの目に目掛けて、蹴飛ばした。
もちろんこんなものはキラーマンも紙一重で避ける。
だが、その隙に翔はキラーマンの懐に入った。
「水神流奥義!龍神!」
「こ、この技は…」
キラーマンは高く飛ばされ、そのまま地面に落下した。
「な、なに今の?どうやってあの男を吹っ飛ばしたの?」
と、美奈子が言った。
「あれは水神流の奥義龍神よ」
「龍神?」
「ジャパールではドラゴンは水を扱うという言伝えがあるんでしょう」
「はい」
「私やキャルロット君は、翔君がペガサスに来たばかりの頃、見たことがあるわ。龍神は水神…降りしきる雨をよけるのは不可能。奥義龍神は数秒の間に空いての急所に何十発も打撃を加えて、体中の骨を砕いて、倒れたところをとどめを刺し、殺す技」
「ううっ…この技、戦時中にも喰らったが、やはりよけれなかったか」
「だが、あの時と同じように立ち上がったか」
「ハアハア…(あの時、この技を喰らい、さらに秘剣で斬られ、俺は崖から落ち、死にかけた。だが今度はそうはいかん。幸い奴は刀を持っていない。秘剣は当然使えない。ん?…なんだ死神どこを見ているんだ)」
翔はキラーマンではなく他の所を見ていた。
翔が見ているところにあのドラッピーがいたのだ。
「ハアハア…し、死神ともあろうものが、戦いの最中によそ見とは、ハアハア…それは何かの作戦か?それとも余裕か?」
「俺の今の任務は青い猫を見つけることだ」
「はあ?」
「キャルロット、お前の後ろにドラッピーがいるぞ」
「えっ?あっ!本当だ。ドラッピーおいで、危ないから」
だがドラッピーは動こうともしなかった。
怖くて動けないというより、まるで翔とキラーマンの戦いを見ているかのようだ。
「(あの猫普通なら怖くて震えて動けないか、あるいはすぐさま逃げるはず。俺たちの戦いを観戦しているのか?)」
キャルロットがドラッピーに近づき、捕まえられても、ドラッピーの目は翔とキラーマンを見ていた。
「死神!」
「キリト、もうよせ。お前は強くなったが、でも、まだ俺には勝てない」
「うるせ~!俺たちは殺し合いをしているんだ。勝敗はどちらかが死ぬまでだ」
「悪いが、ペガサスでは人殺しは禁じられている。せっかく見つけた居場所だ。お前を殺して解雇されるのはごめんだ」
「何~!ふざけるな~!もう一度クラッシャーキャノンで今度こそ殺してやる」
キリトが全魔力を高め始めた。
「そんな体で全魔力を使ったら死ぬのはお前だぜ」
「うるせ~!お前を殺して死ねるなら本望だ」
「やれやれ…」
そう呟いて、翔は気を両手に集中させた。
「ま、まさか、猛虎爆撃波を…」
と、ルーナが驚きながら言った。
なぜなら翔はカーメーの弟子ではない。
だから虎戦流の業、しかも奥義を教わってなどいない。
だが、翔はキラーマンが魔力を高めている間に、猛虎爆撃波を放った!
その威力はキャルロット以上だ。
ドドーン!!
「す、すごい。お爺様や四天王並の威力だわ」
「俺は魔法は使えんが、水神流の継承者は気を高めて戦う。だから、ある程度の気を使う業なら一度見れば使いこなせる」
美奈子は初めて見る神威龍一の戦いにもはや言葉も出ない。
「し、死神…俺の負けだ。今度こそ、俺を殺せ!」
「さっき言っただろう。お前を殺したら解雇されて居場所がなくなる。それでも死にたいなら勝手に死ね」
「クッ…また俺を生かしたことを次こそ後悔させてやる。お前は俺が必ず殺す。だから、お前がこの国にいることは誰にも言わん。だから、それまで誰にも殺されるな。分かったな!」
「フン…」
キリトはそういって去って行った。
「(しかし不思議だ。これだけの騒ぎを起こしても、リスポ隊はこないし、誰にも気づかれていないみたいだ)」
「翔君。またあの頃のあなたに戻ってしまったの?」
「さあ?それより久々に暴れたから帰って休みたい」
翔はそういいながら会社へ戻った。
戦いとなった野原から少し離れた場所に、ぼろい空き家がある。
だが、この空き家不思議なことに普通の人間には見えない。
その空家に19歳の青年がいた。
金髪に青い瞳をしたなかなかのイケメンで、名前はトランス・ルーマという。
彼は水晶玉で翔とキラーマンの戦いを見ていたのだ。
「神威龍一…噂以上の強さだ。それに恐ろしいし、冷静な判断力や洞察力の持ち主だ」
便利屋ペガサス…
翔は帰るなり、部屋に戻って眠りについた。
ルーナ達はカーメーに今日の出来事を報告した。
「そうか。翔があの頃の翔に戻ったか」
しばらくして、気を失っていたマリーが目を覚ました。
「大丈夫?」
と美奈子に聞かれ、顔を赤くしながら「だ、大丈夫よ。で、誰があの男を倒したの?」
「実は…」
美奈子は翔が神威龍一だということを言おうとしたが、ルーナが「あのあと、リスポ隊が来たから逃げたのよ」と、嘘を言った。
「ふ~ん」
と、言いながら自分の部屋へ行った。
「ルーナさん、なんで嘘を…」
「誰だって知られたくない過去はあるわ。翔君にとって神威龍一の頃の自分は忘れたい過去…だから本当は美奈子ちゃんにも知られたくなかったはずよ」
「そうでしたか」
深夜には四天王も盗賊退治を終えて帰ってきた。
「スギ様、ラン様お帰りなさい」
「ああ、ただいま」
「マリーちゃん、俺には言ってくれないの?」
「はいはい、お帰りなさいジンヤーさん」
「なんか冷たい」
「マリーはスギやランを尊敬しているからな。逆にお前は女たらしだから、冷たくされるんだ」
とジェーソンが言った。
ルーナたちは四天王にも今日の出来事を報告していた。
その時、部屋から翔が出てきた。
その顔はいつもの優しい顔つきで、目つきも普段の目つきになっていた。
「翔君!」
「ルーナさん…なんとなくですけど、覚えています。やはり僕は死神なんですね」
「そんなことないわ。あなたはあの男を殺そうとしなかった。そうでしょう」
「そうですけど…」
その時キャルロットのガールフレンドのチルチが会社にやってきた。
「チルチちゃん。どうしたの?こんな夜中に」
「また、ドラッピーがいなくなったの」
「ええ~!」
「どうせまたその辺にいるわよ。猫ってきまぐれだから、そのうち帰ってくるわよ」
「マリーちゃんと同じだ」
「何か言ったかしら、ジンヤーさん」
「い、いや何でもないです」
「でもマリーちゃんの言う通り、帰ってくると思うわ」
と、美奈子が言った。
「だと、いいけど」
「キャルロット、チルチを家まで送ってやれ」
「うん」
その頃あの空き家にドラッピーはいた。
「やはり強いですね。神威龍一は」
トランスがそういうと、なんと、ドラッピーは30代後半の黒髪の女性に姿を変えた。
さらに人間の言葉も話せるのであった。
「神威龍一だけでなくペガサスの者たちは強者が他にもたくさんいるわ」
「そうですね」
さらに、この空き家に誰にも見えなかったり、野原で激しい戦いが行われていても誰にも邪魔されなかったのは、ドラッピーが結界で見えなくしていたからだ。
「でも私が一番気になるのはルーナよ。何でも生まれつき高い魔力を持っているから、カーメーから魔力を弱める指輪をはめているわ」
「その人、僕たちの敵になるんでしょうか?そうなったらペガサスの人たちはどう動きますかね?~」
「カーメーたちはルーナの正体を知っていると私は思っているわ。だからもう少し調べてみるわ」
そう言って、また青い猫に姿を変えた。
「あなたも外に出るときは何かに変身して出ることを忘れないでよ。あなたはベジックスと瓜二つなんだから」
「そんなに似ていますか?」
「髪の色と瞳の色が違うくらいよ。ベータ人やチャイナル人、ジャパール人は黒い髪や黒い瞳が特徴だから」
「まあ、僕はベータ人とマジカール人のハーフですからね。あれ?そういえば神威はジャパール人なのに髪が茶色だけど、染めているのかな?」
「そうみたいよ。自分を変えるためにリボンまで付けているんだから」
「なぜ、神威は自分を変えようとしているんですか?それにジャパールの英雄がなぜこの国にいるんでしょう」
「私も詳しいことまではわからないわ。とにかく私は行くから、あなたはあいつらの居場所を引き続き探して」
「了解しました!マシェリーさん」
ドラッピーの名はどうやらマシェリーというらしい。
この二人いったい何を企んでいるのだろうか?