第2章 死神
翔たちはドラッピーを探しに出かけた。
そして2時間後……
「翔君!」
「美奈子さん」
「見つかった?」
「ダメです。キャルロット君が作ったチラシを配ったりしましたが、町の人たちも知らないと言われました」
「私もよ」
「そうですか。ルーナさんたちも見つけていたら連絡してくるはずだし…あっ、キャルロット君がドラッピーを見つけた野原に行ってみませんか?」
「うん」
「ところで美奈子さんはなぜペガサスで働こうと思ったんですか?」
「何でも屋ってなんか楽しそうだと思ったからよ。いろんな仕事があるし、自分にあった能力で仕事が選べるしね」
「そうでしたか」
「翔君はどうして入ったの?」
「僕は会社の近くの森で倒れていたところをルーナさんに助けられたかです」
「そっか…でも会社に同じジャパール人がいたのは嬉しかったわ」
「この国じゃ僕以外にも何人かジャパール人がいますよ。この国は魔法が盛んだから、魔法を学びに来ている人も珍しくないみたいです」
「ジャパールも変わったわね。これもジャパールの英雄神威龍一のおかげよね」
「はあ…」
「神威龍一ってどんな人なんだろう。大男だという噂もあれば実は女ではないかという噂もあるのよね。一度でいいから会ってみたいな~」
「僕は怖そうなイメージがあるから会うのはちょっと…あっ、ルーナさんだ」
「翔君、美奈子ちゃんそっちはどう?」
「ダメです。なんの情報もつかめませんでした」
3人が野原に着くとマリーが一生懸命探していた。
「マリーちゃん」
ルーナがマリーの名を読んだ。
「キャルロット君のために一生懸命探してくれているのね」
「べ、別にあいつのためじゃないわよ。スギ様から頼まれたから仕方なく探してあげているのよ」
「クスッ」
と、ルーナが笑った。
「な、何が可笑しいのよ」
「ごめん。ただ、マリーちゃんってなんだかんだ言いながらも優しい子だと思って」
「だ、だからスギ様に頼まれたから」
「はいはい」
しばらくするとキャルロットも野原に現れた。
「はあ~どこに行っちゃたんだろう」
「大丈夫。必ず見つかるわ」
「うん」
その時だった。
野原に豪華な馬車が止まった。
「あの馬車は!」
翔が大声でそう言った。
馬車からは老人と不細工な男が降りてきた。
「久しぶりですね。ルーナさん。あなたの会社に向かおうとしたのですが、あなたの姿が見えたからちょうど良かったですよ」
「誰ですか?」
と、美奈子がルーナに聞いた。
「マーネ・エンドル」
「この方はエンドル財閥のご子息で、ワシは付き人のツキビ・ジーヤですじゃ」
「この人は半年前からルーナさんにしつこく付きまとっているんです」
と、翔が言った。
「僕はただ純粋に交際を申し込んでいるんですが」
「あなたの噂はよく聞いていますよ。かなり女癖が悪いってね。だから先月社長があなたにルーナさんに近づくなと警告されたはず」
「今までの女性は僕にふさわしくなかっただけ。でもルーナさん貴女は僕の理想の女性です。僕と一緒になれば貴女も楽が出来ますよ。あんなぼろい会社で仕事なんかしなくて済みます」
「ペガサスは私の大切な居場所なのよ」
「お兄ちゃん、いい加減あきらめなよ。今度は社長の警告だけじゃすまないよ」
「暴力で脅す気ですか。でもそれはやめた方がいいですよ。僕には強いボディーガードがいるから。ツキビお呼びしなさい」
「はい」
付き人は馬車からボディーガードを呼んだ。
そして馬車から仮面をつけたボディーガードが降りてきた。
「2週間前に僕専属のボディーガードとして雇ったキラーマンです」
「キラーマン!」
「気を付けてください。今までのボディーガードたちとは違いますから。強いし、恐ろしいですよ。何でも人も数えきれないくらい殺したことがあるそうで」
「あんなのたいしたことないわよ。ペガサスにはスギ様やラン様がいるし、その前に私一人で十分よ」
と、走って跳び蹴りを喰らわそうとしたが、一撃で気を失った。
「マリーちゃん!」
「オイラが戦う。もしオイラがその人に勝ったら、ルーナお姉ちゃんのことは諦めてよ」
「いいけど、キラーマンは女や子供でも容赦しないよ」
「あっ、そう!」
「キャルロット君!ダメよ」
キャルロットの右正拳突きがキラーマンの顔目掛けて放ったが、紙一重で交わされ、逆に鳩尾に前蹴りを喰らってしまった。
「キャルロット君!」
「だ、大丈夫だよ(クッ…なんて威力だ。この人強い)」
「ほうキラーマンの攻撃を受けて倒れないとは」
今度は右上段回し蹴りを放つがこれも交わされ、逆にキラーマンの右回し蹴りを喰らってしまった。
「ま、まだまだ」
「こりゃ~本当に驚いたわい。キラーマンの攻撃を2度も受けて倒れないとは」
「へへ~…これならどうだ」
「何をする気?」
美奈子がそう言った。
「虎戦流奥義猛虎爆撃波だわ!キャルロット君いつのまに奥義を…」
「猛虎爆撃波!!!!」
猛虎爆撃波…虎戦流の奥義。
気を両手に溜めて相手に放つ技である。
ドドーン!!!!
ものすごい爆音が聞こえたが、キラーマンは片手で受け止めていた。
「そ、そんな」
「お前らなどどうでもいい」
今まで黙っていたキラーマンが語り始めた。
「久しぶりだな死神!まさかこんなところで会えるなんてなあ。金目当てで阿呆の用心棒をしていたが…ククッ…これはまさに運命の再会」
「おい、キラーマン今僕の事阿呆って言わなかった?」
「あ、あの声…まさか…キリト…」
「翔君!(あの人今死神って言っていた。ということは…)キャルロット君、美奈子ちゃん、マリーちゃんを抱いて、翔君を連れて逃げて」
「えっ?」
「おい、阿呆ボン、貴様の用心棒はやめだ」
「あ、阿呆ボンだと!おい、大金がほしいんじゃないのか?」
「うるせ~!殺すぞ!」
「ひ~!」
「大金よりいいものが手に入るんだからな(死神の命がな)さあ、死神あの頃のように殺し合いをしようぜ」
「あいつ、さっきから死神とか言っているけど何のことなのよ」
と、美奈子が言った。
「翔君の事を言っているのよ」
「えっ?」
「翔君があのジャパールの英雄神威龍一よ」
「嘘~!!でも翔君、震えていますよ」
「こ、怖いよ…」
「翔君逃げなさい」
「で、でも…」
「大丈夫よ。約束したじゃない。もうあなたを戦わせないし人殺しもさせないって」
「でも、あの人強いんですよ」
「わかっているわ」
「死神腑抜けたな~なんだその怯えた目は?」
そういいながらキラーマンは仮面を外した。
キラーマンの目は恐ろしい目をしていた。
その眼は間違いなく人を殺してきた眼だ!
その眼を見て翔や美奈子は震えていた。
「キラーマン。あの小僧が神威龍一というのは冗談でしょう」
「まだいたのか!死にたくなければ消えろ!!」
「坊ちゃん。ワシらはとんでもない男を雇ってしまったようですじゃ。とりあえず今はここから離れましょう。あの小僧が神威かどうかより、ここにいたらキラーマンに殺されます」
「クソ!ルーナはあきらめるか。まあ金さえあればもっといい女が手に入るだろうし」
マーネたちは馬車に乗り急いで逃げて行った。
キラーマンはついに翔に攻撃をしはじめた。
「どうした死神!俺が殺したいのは腑抜けたお前じゃなく、死神のお前だ~!」
キラーマンは翔の腕に喰い付いた。
まるで獣が獲物に喰い付くかのようだ。
そして、翔の腕の肉を食い千切った!
「くちゃくちゃ…ゴクリ…死神の肉なかなかの味だ」
「ぎゃ~!!」
痛みと恐怖で叫ぶ翔…
「私が相手よキラーマン」
「ル、ルーナさん…」
「そうか、お前の仲間を皆殺せば死神も本気になるだろう。よしまずは女お前からだ」
キラーマンは攻撃魔法を使おうとした。
「(このままじゃルーナさんがキリトに…キリト…あれ?確かあの人は僕が殺したはず…あれ?まだ戦争が続いているの?)」
翔の様子がおかしい。
「ああ…そうか…あいつ…生きていたのか…」
翔の目つきが鋭くなった。
「キリト~!!!!」
「ん?この殺気!」
翔の顔はさっきとは別人。
鋭い目つきでキラーマンを睨む翔。
「まさか、この人格に戻る日が来るとはな~」
「翔君…」
「キリト!今度こそ殺してやるぜ!」
「やっと本気になったか!嬉しいぜ!」
「嬉しいか?俺に殺されるのが」
「あれが翔君?まるで別人……まさかあの翔君が本物の神威龍一だったなんて」
臆病者だった翔がジャパールの英雄神威龍一だった。
死神となった翔とキラーマンの戦いが今始まった。