第26章 ルーナの両親
カーメーがついにルーナの出生について語り始めた。
「ルーナには両親は事故死したと教えたが、本当は事故死なのではない。20年くらい前か…」
20年前…
カーメーはロージアとスギ、ランを連れて修業の旅していた。
そして、マジカール王国から南にある、アルテーミス村に、リシェール・オルヴォーワという24歳の魔法使いがいた。
彼女は回復魔法を得意としていた。
そう、この女性こそが後にルーナの母となる女性だ。
元はスギ達と同じフラース王国出身だ。
だが彼女は医者にも診てもらえない貧しい国に行き、病気は無理でもある程度の怪我なら治せる。
彼女はボランティアで世界中の貧しい国や村に行き怪我人を助けていた。
そしてカーメー達がアルテーミス村に着く2か月前にやってきた。
カーメーたちも修業で怪我をした時世話になっていた。
だがカーメーたちが村に来てから2か月が経った時、村の近くの森でカーメーたちは魔族を見付けた。
一見人の姿に似ているが、羽があり、尻尾もあった。そしてかなりの巨体で恐ろしい赤い色の目をしていた。
カーメーたちは4人でその魔族を倒した。とどめを刺そうとしたとき、リシェールが現れた。森の方から感じたことのない魔力を感じたから来たようだ。
そして魔族に回復系の魔法を使った。
カーメーたちは止めようとしたが、彼女は治療を続けた。
魔族は完全に復活してしまった。
カーメーたちはリシェールを守ろうとした。
「なぜワシに回復系の魔法を使った?ワシは魔族だぞ」
「魔族でも人間でも怪我していたら治す。それが私の仕事です」
「お前のような優しい人間もいるんだな。だが、我ら魔族は人間を憎んでいる。ワシが生まれる前、ワシらの先祖たちが人間に負けて、ほとんどの者が絶滅した。魔王サターン様も千年前に5人の人間の手によって殺された。ワシら魔族は人間より寿命が長い。ワシなどまだ200歳の若者だ」
魔族の平均寿命は1500年である。
魔王サターンは2000年以上生きていた。
「お前はこの森で何をしていた?」
スギールの問いに魔族は応えようとしなかった。
「なら、他に何人くらい魔族が生きているんだ?そしてお前たちは今どこで生活している」
今度はロージアが聞いた。
「人間に秘密を明かしたら、殺されるかも知れんもんな」
カーメーがそう言うと、魔族がこう答えた。
「人間に見つかり、さらには敗北したなんて事が知られたらワシはルシファー様に殺される」
魔族は震えていた。
それほどまでにルシファーという魔族は恐ろしいのだろう。
「こいつ意外と臆病者だな」
と、ロージアが言った。
魔族はその言葉に怒るかと思ったが、魔族はもはやカーメーたちと争う気はないようだ。
それどころか自分が何しにこの森に来たのかを話した。
「ワシは他の魔族同様に人間を憎んでいた。ワシらは今場所は言えぬが、ある闇の世界で暮らしておる。ルシファー様は必ず人間に復讐する。そのために生き延びた魔族の長老様達やルシファー様がワシらのような子孫を増やしたのだ。そして100年くらい前からワシら若者に人間たちがどう生活しているのか?どのような文明を持っているのか?何人の人間がいるのか?弱点は何か?などを調べるためにこの国に来て、ばれないように森の中で村の様子を心眼を使って見ておった。そんな時にお前たちに見つかった」
「心眼なんて使えるなら、お前らのいる所から見ればいいじゃないか」
ロージアの問いに魔族はこう答えた。
「心眼で見れる範囲はそう広くない。だからこうやって森に来て心眼を使っても、せいぜいこの近くの村々などしか見えない」
「そうか…で、アジトは言えないなら何人今魔族はいるんだ?」
ロージアが聞いた。
ちなみに魔族は一人、二人と数えるのではなく、1魔、2魔と数える。
「それも言えない。いやそれ以前に今どれだけの魔族がいるかはワシ自体もしらん」
「となるとかなり魔族はいるわけか」
「魔族たちが私たち人間を憎むのは当然。でも私は出来れば魔族も人間も共存し、平和な世界が作れたらいいのにと思ったわ」
リシェールの言葉に魔族は驚いた。
「共存…平和な世界…確かにワシみたいな臆病者は争いは好まない。でもそれは無理。ルシファー様がそのような世界を望んでおられないから」
「…だったらまず、私たちで共存できるって証明しましょう」
「どうやって?」
「あなたが私たちと仲良く暮らすの。そうすれば他の魔族の人たちも人間と共存しようと思う者が出てくるはず。そうすればそのルシファーという魔族も考えを変えるかも」
「お前はいい人間だ。だが、他の者は俺を見たら驚くかあるいはこいつらみたいに攻撃をしてくるだろう」
「大丈夫。私が守ってあげるから」
「ああ…」
「私の名はリシェール・オルヴォーワよ」
「ワシはビルダー」
「よろしくねビルダー」
「こちらこそ」
だが、現実は甘くはない。
ビルダーの事を村の人たちに話したら、魔族と一緒になるならお前も村から出て行ってもらう。
「今までリシェールのおかげでどれだけの人間が救われたんじゃ?」
カーメーたちも説得した。
だが、村の者たちは魔族がいるということを王国に報告しようとしていた。
リシェールは心の傷を癒すために忘れろ薬を持っていた。
村の者たちの記憶から魔族の存在を消すため、飲み物や食べ物に忘れろ薬を入れた。
村長は水を一杯飲んでまず王国軍に連絡しようとした。
だが、薬が効いてきたのか今まで何をしていたのか忘れることになった。
村人たちもちょうど昼食を食べようとしていた。
「魔族が他にもいるのかしら」
「リシェールの気持ちは分からないでもないが、やはり魔族と共存なんて…あれ?私たち何の話をしていたかしら?」
「さあ?それどころか、いつの間に昼食の用意が出来ていたのかしら?」
薬の影響で村人は記憶が混乱していた。
中には二日前のことまで覚えていない者もいた。
リシェールは森で待っているビルダーの所へ向かった。
ロージアたちが追いかけようとしたが、カーメーが止めた。
その後、二人で森の中で生活を始めた。
だが大きな問題があった。
ビルダーが戻らなければ、別の魔族がビルダーの担当している村を調べにくることだ。
そして4か月後…
ビルダーたちのいる森に、4魔の魔族が現れた。
ビルダーはとリシェールは4魔に説得し始めた。
だが、当然聞く耳を持たず、二人に攻撃してきた。
ビルダーは1魔で戦った。
臆病者だが実力はかなりのものだった。
だが、相手の数の方が多い。
そこへカーメーたちが不気味な魔力を感じたため助けにやってきた。
激しい戦いの中、4魔の魔族は退却していった。
ロージアは追いかけようとしたが、カーメーに止められた。
カーメーたちやビルダーの傷はリシェールによって完治した。
それから数時間後…
ある場所で4魔がルシファーや長老たちに全てを報告した。
「フン…何が人間との共存だ」
「どうしましますか?」
「しばらく泳がせておけ」
「よろしいのですか?」
「ビルダーが人間のメスから人間の情報をそれなりに入手した時、奴を拷問して人間たちの情報を手に入れる。そのあとは謀反者として粛清する」
「はっ」
ビルダーとリシェールが出会って2年が経とうとしたときに、二人の間に女の子が生まれた。
名前はルーナ。
リシェールに治癒系の魔法を教えた女医がルーナという名前だったため、恩師の名を付けたのだ。
だが、この親子も3人で幸せな時間を過ごしたのはごくわずかな期間だ。
再びビルダーたちの前に魔族たちが現れた。
しかも今度は7魔いる。
しかもカーメーたちは村を出ている。
念のためにテレパシーカードを渡されていた。
リシェールはカーメーに連絡した。
その間もビルダーは一人で戦っている。
「リシェール!お前はルーナを連れて逃げろ!」
「そんな。あなたを置いていくなんて」
「ルーナのためにもここから逃げろ!」
その言葉にリシェールはルーナを抱き森の中を逃げ回った。
だが、追ってきた2魔の魔族の攻撃を受けてしまった。
「なんだ。一発で死んじゃった。人間なんて一人だけならこの程度だろう」
2魔の魔族はビルダーの方へ戻っていった。
「ううっ…」
リシェールはまだ生きていた。
「ルーナ…」
ルーナはリシェールが必死で守ったため、かすり傷程度で済んだ。
それからしばらくしてカーメーたちがリシェールとルーナを発見した。
だが、リシェールはすでに死んでいた。
その後、ビルダーの死体も発見し、カーメーたちは二人のお墓を作った。
「ルーナ、これからお前はワシの孫じゃ良いな」
その言葉に大笑いしていた。
「しかし師匠、ルーナはまだ赤ん坊…なのにもうすでに魔力を感じます」
スギールがそう言うとカーメーはこう答えた。
「人間と魔族との間に生まれたからかもしれん」
さらに5歳くらいの時にはとてつもない魔力を持つようになった。
カーメーは幼いルーナがとてつもなく高い魔力に不安になった。
そのため、魔力を弱める指輪を作った。
この指輪はかなり特殊な材料で作られている。
頑丈なのだが、ルーナの指の成長に合わせて、指輪も大きくなるのだ。
現在…
「私は人間と魔族の間の子…」
さすがにルーナも動揺している。
「ロージアもそのことを知っているから、お前を殺そうとしたんだろう」
ジェーソンがそう言うとジンヤーがこう言った。
「何でだよ。あいつは破門される前まで、ルーナを妹のように可愛がっていたんだぞ」
「私が魔族になるといけないから…?」
「お前はワシらが守る。心配するな。とにかく父親は魔族であったが、リシェールもビルダーも人間と魔族の共存を夢見た優しい両親じゃ」
その言葉にルーナは微笑んだ。
魔族と人間はこの先どうなるのか?
共存か?
それとも争いか?
今は「神のみぞ知る」




