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Last EVIL - for fear -(更新停止)  作者: 山茶花久
序章「学び舎の崩壊」
9/17

相思の花弁

振り返り(適当):長ったらしい解説も終わり、解決かと思いきや、名前すら出ていない女子高生に亜神が潜んでいた!腹部を刺され、ピンチな優紀ちゃん!どうする、慎一郎!?

 女子高生の首から生えた奇妙なつぼみ。そのつぼみは、《美食家》を吸収したことでさらに大きくなったように見えた。


「ウム、ヤハリ人間ヨリ馴染ムナ」


 もはや完全に《冬虫夏草》に乗っ取られた女子高生の口から、無機質な声がでる。


「てめぇ、なんで《美食家》を…?」


 仲間じゃねぇのか?と庸介が言った。


「仲間、カ」


 嘲るように庸介を見る《冬虫夏草》。

 

「人間ノ感情ヲ我々ノ考エ方ニ持チ込マナイデ貰オウカ」

「なに?」

「我々ハ新タナル種、貴様等ノヨウナ無駄ナ情ナド持タン」


 庸介はなにもしゃべらない。代わりに持っていた拳銃を握りしめる。


「じゃあ、なんで協力した?」

「協力デハナイ、利用ダ」


 慎一郎の問いもあっさりと一蹴する《冬虫夏草》。


「利用スル価値ガナクナッタカラ、我ノ養分ニナッテ貰ッタ。ソレダケダ」


 言い終わるか、《冬虫夏草》はツタのように変形した両腕を二人に向けた。


「貴様等ノ中ノ亜神エヴィルモ、我ノ養分トナルガイイ」

「やってみろよ」

『ぎゃはははははっ!!ぶっ殺してやるぜぇ!!』


 慎一郎がつぶやき、スカルが吼えた。


××××××××××


「ココハ狭イナ」


 この場で戦闘開始か思いきや、《冬虫夏草》はガラスを破り、階下に降りていった。


「庸介は蛍袋をみていろ」


 そういい残し、慎一郎も《冬虫夏草》を追って窓から飛び降りる。

 窓の先には校庭が広がっていた。

 《冬虫夏草》は腕を鞭のようにしならせて慎一郎の前に立った。

 慎一郎も右腕だけではなく、左腕に《隠者》との戦いで見せた狂い咲きマッドネス・ピンクを発動していた。

 前は《隠者》を貫くのに使ったそれを、今度は剣のように長くのばしている。

 バチバチと腕の上で火花が散った。


「……はっ!!」

『ひゃはぁっ!!』


 慎一郎の方から《冬虫夏草》につっこむ。

 素早く《冬虫夏草》の両腕を切り落とし、がら空きの腹部をねらう。


「無駄ナコトヲ…」


 《冬虫夏草》は静かにつぶやいた。同時に慎一郎の背後から太い植物の根が襲いかかってきた。


「くっ!」


 間一髪で慎一郎は根をかわし、《冬虫夏草》と距離をとった。

 根は地面から突き出し、うねうねとうごめいている。


「我ノ本体ハコノ体全テナリ、腕一ツナド、スグニ再生デキルワ」


 《冬虫夏草》の言葉の通り、慎一郎が切り裂いた両腕からはすでに新しいツタが生え始めていた。

 おまけに制服の袖口からは新しい腕が伸びてくる。


『ぎゃはははははっ!!こりゃあめんどくせぇなあ!』


 スカルはそう言って笑う。

 慎一郎は《冬虫夏草》の超再生には特に驚いた様子も見せず、再び接近していく。


「無駄ナ事ダト言ッテイルダロウ!」


 《冬虫夏草》も、再生した腕と地面から生えた二つの根。

 合わせて四本が慎一郎を取り囲む。


「ふっ!」


 慎一郎はその場で体をねじって跳躍。空中で回転する。

 回転に合わせて右手の爪が、左腕の刃が、慎一郎を捕らえようとする腕たちを切断していく。


『ぎゃははははははははははっ!!』

「コノ……人間風情ガアアアァッ!!」


 《冬虫夏草》はさらに腕を増やし、慎一郎を攻撃する。しかしそのことごとくが切って落とされていく。


『もらったぁ!!』


 スカルの声に合わせ、これまで腕を切り続けていた慎一郎が再び《冬虫夏草》に接近する。


「コノォッ!!」


 《冬虫夏草》もそれを追って腕を伸ばすが、届かない。

 自ら伸ばした腕が邪魔になっていた。


「貴様…コレヲ狙ッテ……?」

『気付くのが遅せえんだよぉっ!!』


 すでに慎一郎は《冬虫夏草》の目の前。

 本体を切り裂こうと腕を振り上げた。


「やめてっ!!」

「っ!?」


 《冬虫夏草》にとりつかれた女子高生と目が合う。既に意識がないはずの少女の目に涙が浮かんでいた。

 悲痛な表情を浮かべた女子高生に、慎一郎の動きが止まってしまう。


「やめてよ……センセェ!!」


 一瞬にしてその表情は崩れ、声も元の無機質なものに変わってしまう。


「愚カ者ガァッ!!」


 慎一郎が気を抜いたその時、一本の腕が慎一郎に巻き付き、動きを封じ込めた。


××××××××××


『おいおいぃ!何やってんだよぉ!!』


 スカルの叫びもむなしく、慎一郎は空中に持ち上げられてしまう。


「クハ、クハハハハハハ!」


 気味の悪い笑いが《冬虫夏草》から発せられた。


「アノ程度デ動揺スルトハ…所詮人ヨ!」

「……ぐっ…が」


 腕は慎一郎を締め付ける。ミシミシと体中の骨が悲鳴を上げた。


「シカシ、我ヲコレホドマデ追イツメタコトハ評価シヨウ」


 そう言って《冬虫夏草》は慎一郎の体を高く放り投げた。


「ソレヲ称シ、我ノ本来ノ口カラ取リ込ンデヤロウ」


 そう言うと、女子高生の背中に生えたつぼみがぐんぐん大きくなっていく。その色も青白いものから薄桃色になり、花弁が開いていく。

 数秒の内に、《冬虫夏草》は一気に満開状態まで成長する。

 百合の花を連想させる形をした花は、しかし雌しべも雄しべもなかった。 それらがあるはずの場所は、何かの液体で満たされていた。


「骨マデ溶ケ、我ノ一部ニナレ!」


 花は落下する慎一郎の真下に来た。


『おいおい、こりゃあやべぇんじゃねえのぉ!?』


 慎一郎の耳元で、スカルがつぶやく。

こんな時でも陽気な口調は崩さない。むしろいつもよりうれしそうにすら聞こえる。

慎一郎自身もうろたえることなく、次第に視界を埋めていく花に右腕を構えた。


「黙って手伝え、あれ・・をかますぞ」

『ぎゃはははははっ!待ってましたぁっ!!』


 「バチン!」と、ひときわ大きな火花が鳴った。

 右腕の形をとっていた赤い霧が、形を変える。

 体積を増やし、慎一郎を包み込んだ。

 慎一郎の体が完全に霧に覆われたとき、慎一郎の声だけが聞こえてくる。


相思の花弁ロンリー・レッド!」


 瞬間、校庭にもう一つの花が咲いた。


××××××××××


「ナ、ナンダコレハ!?」


 落ちてくる慎一郎を待ち構えていた《冬虫夏草》は、上空に出現した赤い花に驚愕の声を上げた。

 《冬虫夏草》の作り出した百合に似た薄桃色の花に対し、慎一郎の花は赤。

 彼岸花のような細長い花びらが広がっていき、《冬虫夏草》を飲み込まんとするまでになっていた。


「小賢シイ!」


 《冬虫夏草》は腕を伸ばして花弁を引きちぎろうとする。

 《董仲舒》の腕が花弁に触れた途端、跡形もなく腕は消滅した。


「グ…」


 《冬虫夏草》は腕を再生しようと意識を込めるが、腕は復活するそぶりを見せない。


「ドウイウコトダ!?」


 うろたえる《冬虫夏草》。

 遂に慎一郎の出した花は、《冬虫夏草》を覆い尽くし、無数の花弁で《冬虫夏草》を破壊し始めた。

 勢いは凄まじく、それて地面にぶつかり、そのまま地面を大きく抉るものもあった。


「グ、ガアアアアア!」


 苦しげにうめき、花から逃れようとする《冬虫夏草》。

 目の前には、ドクロの面が浮かんでいた。スカルである。


『無駄だよ!!この相思の花弁ロンリー・レッドは存在を喰らう花!!一度捕まったら逃げられやしねぇ!!』

「ガアッツ!」


 嬉しそうに解説を始めるスカルにツタを振り下ろす。

 そのツタもスカルに触れた瞬間、ぼろりと崩れ、砂のように消えていった。


『この能力は元々俺のもんだ・・・・・!俺自身がこの花同然の存在なのは当然だろぉ!?』


 分かってねえなぁ、と頭を振ったスカルに、それでもツタを振るう《冬虫夏草》。

 大きく咲いた百合の花も赤い花弁に飲み込まれ、残るは女子高生に憑りつく一部のみになっていた。


「貴様ハッ!何故アノヨウナ下等生物ニ味方スル!?」

『簡単さあ!』


 スカルはそう言って笑った。カチカチと骨だけの顎がなる。


『仲間を平気で殺すお前らと、敵の俺ですら介護しようとしたシンイチローアイツ……つくなら断然シンイチローだな!!』

「ナ……」

『ここまでだなぁ!!』


 スカルはそう言って慎一郎の元へ戻っていく。

 スカルを追って見上げた《冬虫夏草》の目に、真っ赤な花が映った。

 花は《冬虫夏草》の視界を覆い尽くし、そのすべてを喰らい尽くした。

 《冬虫夏草》が消えた校庭には、爪痕のようにも見える数多の地面の抉れだけが残った。


××××××××××


「おう、戻ったな」


 教室では、庸介が待っていた。


「蛍袋はどうした?」

「………………」


 庸介は黙って床を指さした。そこには横たわる優紀。

 目は閉じられていたが、かすかに息をしているのが分かった。


「蛍袋っ!」

「しん…いちろ……さん?」


 慎一郎の呼びかけで、薄く眼を開く優紀。かろうじて慎一郎の名を呼んだが、それ以上の声は出てこない。

 慎一郎の手が優紀にかぶさると、優紀はかすかに笑った。


「すまない……こんなことになって……」


 慎一郎の言葉に、優紀はゆっくりと顔を振る。そして声の出ない唇を動かして何かを慎一郎に伝える。


「……伝わった……ありがとう」


 慎一郎はそう言って、優紀の頬を撫でる。優紀はそれに驚いたかのように眉をピクリと動かした。

 すぐに嬉しそうに微笑み、目を閉じた。


××××××××××


 誰もいない学校の廊下を、庸介と慎一郎は歩いていた。


「慎一郎、その……すまん」

「……気にするな、あの状態じゃあどのみち助けることはできなかった」

「……そうか」


 庸介も、今度ばかりは開く口が重い。

 暫く黙って廊下を歩く。


「なあ、最後に優紀ちゃんはなんて言ったの?」


 突然庸介が聞いた。


「聞こえてなかったのか?」

「俺は読唇術はできないんだよ」


 再び沈黙する二人。しばらくして慎一郎が口を開いた。


「楽しませてもらいました、だとさ」

「なにそれ」


 ふふ、と庸介が笑う。しかし一瞬でその顔は真剣になる。


「優紀ちゃんは助けられたはずだ」

「ああ……」

「俺は二度同じミスはしない」

「それはこっちだって同じことだ」


 慎一郎も庸介に応じる。


「とにかく、かえって報告だ」

「だな」


 そして三度の沈黙が訪れ、廊下には二人の足音だけが響いた。

これにて序章は終了です。

ここまで読んでくださった方々、本当にありがとうございます!これからもよろしくお願いします。

次はこれまでのキャラのまとめか、新章突入となります。

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