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Last EVIL - for fear -(更新停止)  作者: 山茶花久
序章「学び舎の崩壊」
8/17

芽生える亜神

振り返り:オール会話

「いやぁっ!!」


 悲鳴が上がった。

 突然の悲鳴に優紀は身構えた。

 慎一郎もどこからかナイフを取り出して構えていた。

 庸介は未だに落ち込んでいる。

 悲鳴を上げたのは、いつの間にか意識を取り戻していた女子高生。

 亜神エヴィルの襲撃ではないとわかり、とりあえずは胸をなで下ろした優紀。

 しかし、女子生徒の恐怖に満ちた表情は変わらない。必死の形相でこちらを見据えている。


(何を見ているの?)


 女子生徒の視線の先には、慎一郎。さっきの武器を構えた慎一郎の記憶が残っているのかもしれない。


「大丈夫、あの人は悪い人じゃない」


 優紀はとりあえず慎一郎のフォローにいった。

 この女に気を使うのは嫌だ。

 一回生贄にされかけたし。

 でもそれに慎一郎が関わっているなら、早急に取り除かないと、という気持ちになったのだ。


「い、いやあっ!」


 それでもなお後ずさりをする女子高生。


(今朝はキャーキャー言ってまとわりついていたくせに)


 頭を抱えて震える女子高生を優しく抱きしめ、なだめる。


(……くさっ!)


 血にまみれたこの教室においてもしっかりと優紀の鼻を刺してくるのは、香水だろうか?

 優紀はこのテのものには疎いが、これは付けすぎなんじゃないかと疑ってしまうほどキツかった。


(もはや悪臭の域ね…)


 形だけのフォローを続けながら、心の中ではとんでもないことを言う優紀。ここまで接近していなかったら口に出していたかもしれない。

 優紀がそんなどうでもいい心の罵倒をしている間に、もう一つの生き物が目を覚ました。


「ぐ、うう…」


 《美食家》である。


「あれ?倒してなかったんですか?」


 なんとなく「殺す」と言うのが怖くなり、「倒す」と誤魔化す優紀。

 殺し合いが終わり、現実の思考に戻ってきたためだろう。


「さっきも言ったが、亜神エヴィルは死ぬとその肉体も一緒に消滅してしまう」


 慎一郎は、起きあがる《美食家》にナイフを突きつけながら優紀に答えた。


「だからこいつには、いろいろと聞かないといけないことがあるんだよ」


 ナイフを持つ左手で《美食家》の首を軽く絞め、動きを封じる。

 そしてまだ放心状態だった庸介を蹴りとばして現実に引き戻す。


「いだぁっ!?えっ?なになに?」

「黙ってこいつを縛れ」

「え?ああ、はいはーい」


 軽い口調でもプロはプロ。状況を素早く理解し、《美食家》を縄で縛る。 特注品なのか、あの《美食家》でさえその縄を引きちぎることはできないようだった。

 それが終わると、庸介は銃を構えた。

 これまでの失敗を反省してか、《美食家》が口を伸ばしても届かない距離をとる。

 今日だけで二丁も食われている庸介。慎重になるのも当然だ。

 それを見届け、ナイフを離す慎一郎。


「さて、尋問再会だ」


××××××××××


「……もう一度聞く、おまえ等はどこから来た?」

「黙秘権っていってんだろぉー?いい加減に諦めろよぉー!!」


 あれから数十分。意識を完全に取り戻した《美食家》相手に質問を繰り返す慎一郎だが、これと言った有益な情報は得られていないようだった。

 再び戦闘モードに入り、右腕を出現させて威嚇しているが、あまり効果はないようだ。

 なかなか泣きやまない女子高生をなだめつつ、横でその様子を見ていた優紀だったが、《美食家》の口から出たのは、先程慎一郎から聞いた事の繰り返しがほとんど。

 肝心な質問になると、さっきのように黙秘だと騒ぐばかりだった。


「俺たちは新しく生まれた新人類、神に近づくことを許された生命だ!」


 イライラと喚き散らす《美食家》。


「てめぇらみたいな下等な旧人類ごときがおいそれと話しかけていい存在じゃねぇんだよぉ!!」

「それはもう聞いた…」


 やれやれとため息をつく慎一郎。


『ぎゃははははははははははっ!シンイチロー、遊ばれてんじゃねーか!』

「誰っ!?」


 優紀は聞きなれない声にビクリとした。


『ひでーなぁ!さっき一回会ってんじゃねーかよお』

「あ、お面の……」


 妙にハイテンションな声はあのドクロの面だった。慎一郎の能力が発動すると、同時に出てくるらしい。


「これはなんなんですか?」

『せめて誰って言ってくれよぉ!』


 ドクロが何か言っているがスルー。


「コイツは俺のサポーターみたいなもんだ。安直だがスカルと呼んでいる」

『よろしくな!じょーちゃん!!」

「よ、よろしくです……」


 ふわふわと浮かぶドクロに頭を下げる優紀。他から見れば実にシュールだ。


『ぎゃはははははっ!礼儀正しい女は好きだぜぇっ!噛みついてやりてえよ!』

「か、噛みつ…?」


 陽気な口調でとんでもないことを言い出すスカル。慎一郎に「あれは褒め言葉だ」と言われなかったら、逃げ出していただろう。

 褒め言葉だとしても、とんでもないことに変わりはないのだが。


××××××××××


「まあいい、尋問を続けるぞ」

「もう言うことなんてねえんだよぉ」

「?」


 先程までとは違い、妙に余裕のある物言いをする《美食家》。口元には笑みすら浮かんでいた。


「っつーか、お前等俺にばっかかまってていーのぉ?」


 下品な声で慎一郎達に問いかける《美食家》。


「なんの話だ?」


 なかなか吐かない《美食家》に切れ気味の庸介が銃のハンマーを上げた。 《美食家》の脳天に焦点を合わせ、いつでも撃てます、と息巻いている。


「いやぁ?べつにぃ、ただ……」


 そこで一呼吸おく《美食家》。


「まだ終わっちゃいないのになあ、ってな」

「……終わっていない…だと?」


 《美食家》の言葉に、何か引っかかるものを感じた慎一郎。


(《美食家》は俺が保健室で戦った後、教室に来て生徒を虐殺した……)


 これまでにあったことを素早く反芻する慎一郎。


(なにがおかしい?……保健室…教室…美食家…隠者…………教室?)


 何かが慎一郎の頭でカチリと合わさった。そこから生まれたのは不安。

 頭に浮かんだ疑問を、そのまま口にする慎一郎。


「お前、どうやってこの教室に入った……?」


 それは、一度慎一郎が聞いた質問。

 それを聞いた《美食家》はいっそう奇怪な笑みを深めた。


「さっきもいったろぉ、親切な人に、入れてもらいましたってなあ!!」

「うっ!」


 《美食家》の感極まる叫びとほぼ同時に、優紀がうめいた。


「おいっ!!」

「優紀ちゃん!?」


 二人の視線の先で、優紀が床に倒れていく。慎一郎が優紀に駆け寄り、血の流れ出る腹部に目をやった。

 慎一郎の目の前には、倒れた優紀を冷たく見下ろす女子高生の姿があった。


「!?」


 女子高生の視線は優紀をそれた。


「ふ、ふははははははっ!」


 そして狂ったように笑う《美食家》に注がれる。

 次の瞬間、女子高生の身体がビクンと跳ね上がった。慎一郎や庸介を超え、《美食家》の横に降り立った。


「やっと起きたな!|《冬虫夏草》(トウチュウカソウ)!!さあ、コイツ等を殺しちまえええええええ!!」

「分カッテイル」


 さっきまでとは違う、片言に近い口調で、《冬虫夏草》は腕を構えた。

 普通の女の腕があるはずの場所には、優紀の血で濡れた植物のツタのようなものがうごめいていた。

 そして《冬虫夏草》はその腕を、縛られて動けない《美食家》の腹に突き立てた。


「あ?」


 予想していなかったのだろう。《美食家》は呆けた顔で《冬虫夏草》の顔を見つめ、ツタが突き刺さった自らの腹を見下ろした。

 慎一郎たちも、その異様な光景に、動くことができなかった。

 「ごきゅん」と音がして、ツタが《美食家》から何かを吸収し始めた。


「が、ああああああぁぁぁ…………」


 縛られているので抵抗もできず、《美食家》の身体はみるみるうちに干からび、ミイラのような姿になっていった。


「ウム、旨カッタゾ」


 そう言って《冬虫夏草》はツタを《美食家》から抜き取った。

 《美食家》の身体はガサリと乾いた音をたてて倒れ、そのまま風化したかのように消えていった。


「改メテ自己紹介ト行コウカ」


ずるり


 女子高生の背中から、青白い花のつぼみが姿を現した。よく見ると、本体である女子高生の顔には生気はなく、操り人形のようにつぼみに支配されているようだった。


「ワガ名ハ《冬虫夏草》、貴様ラノ気ヲ吸イ尽クシテクレヨウ」

この場合は冬「虫」夏草でいいんでしょうか…?

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