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Last EVIL - for fear -(更新停止)  作者: 山茶花久
序章「学び舎の崩壊」
6/17

黒い影、赤い霧

振り返り(適当):教室に突っ込む教師と少女。一度は敵を追いつめる透百合だったが、うっかり気を抜いて攻撃されてしまう!絶体絶命のその時、透百合の腕から赤いナニかが!

『ぎゃはははははははははぁっ!!』


 血に濡れた教室。

 血が飛び散った床を砕き、切り裂き、二つの不定形の生き物が戦っていた。

 黒い影は《隠者》。

 全身を漆黒に染め上げ、腕と思われる場所からはそれぞれ小刀のような鋭い突起をもっている。

 忍者を思わせる素早い身のこなしで床、壁、天井を蹴って縦横無尽に飛び回る。

 赤い霧は透百合。

 右肩から生えた化け物じみた腕。時折バチンバチンと弾けるような音が聞  こえる。

 その指の真っ赤な爪は鉄であろうとコンクリートであろうと、構わず切り 裂いた。

 端正な顔は腕と同じ真っ赤なドクロの面で隠され、面の口からは、絶えず狂気を孕んだ笑い声が吐き出されている。


ギャイン!ギィン!!


 小刀と爪、それらはまるで本物の金属のような音を立ててぶつかり合う。


『いいねぇ!いいねぇ!最高だねぇ!!』

「少し……黙っていろ」

「……く」


 平行線に見えたぶつかり合いは、透百合に傾き始めていた。

 一撃の威力が弱い手数勝負型の《隠者》に対し、透百合の腕は時に霧のように形を変えて透百合を守る壁になる。

 しかも、より攻撃を多く当てなくてはならない《隠者》は、絶えず透百合の周りを動き続けなくてはいけない。

体力的にも、決定力的にも、《隠者》の不利は明らかだ。


「……ふっ!」


 自らの劣勢を悟った《隠者》はドアを蹴破って廊下に飛び出す。


『おおっとぉ!?逃げるきかぁい!!』

「……逃がさんっ!」


 ドクロの叫びに反応して透け百合も廊下に出る。

 背を向けて走る《隠者》の姿がみるみる離れていく。


『おいおい、亜神エヴィルともあろうものがホントに逃げんのかよぉ!!』


 後を追って走る透百合。

 教室には大量の死体と二人の少女。


「え……?」

「バカかぁ?アイツは」


 そして一体の化け物が残された。


××××××××××


〈透百合side〉


 《隠者》は廊下を駆け抜ける。純粋なスピードならば、いくら常人離れした透百合であっても亜神エヴィルである《隠者》には勝ち目がない。 二人の差はぐんぐん開いていった。

 そのまま《隠者》は角を曲がって透百合の視界から消えた。

 しかし、透百合は慌てない。スピードを落とさずにドクロの面に問いかける。


「どうだ?」


 聞かれたドクロの口は動かない。しかしどこか楽しそうに声は答えた。


『いいカンしてるねぇ!あと三秒だ!』

「……………………」


 透百合は口を閉じ、走る足に力を込めた。

 次第に曲がり角に近付く。


『いまだぁっ!!』


 ドクロが叫んだ。それに合わせて透百合は腕を壁に突き刺した。

 腕は瞬時に槍のように細く鋭い槍状に変化する。

 腕は壁を通り越して曲がり角の向う側を切り裂いた。


「……?」


 不意を衝いた透百合の攻撃。

 しかし、その透百合は眉をひそめて腕を引き抜いた。


『どしたぁ!?不景気な面しやがって!』

「手ごたえが……ない?」

『はぁ!?』


 敵を見失い、動きを止めた透百合。その背後、透百合の影から突如として 《隠者》の刀が浮かび上がった。


「っああ!?」


 透百合に突き刺さる直前、違和感に気付き回避する透百合。完全には避けきれず、わき腹から鮮血が流れ出した。

 続いて腕を狙う《隠者》。その素早さで二つ、三つと切り傷を増やしていく。異形の腕を持つ右側では分が悪いと踏んだのか、左半身に攻撃を集中させてきた。

 たまらず透百合は後ろに下がる。


「わが名は《隠者》、影に《隠れる》者」


 ずるりと透百合の影から抜け出し、構えの姿勢をとる《隠者》。


『一本取られたってやつかぁ!?ぎゃははははははははははっ!!』

「……やかましいっ」


 なおも興奮状態のドクロ。宿主(?)の透百合が負傷しているこの状況でもその大声は変わらない。

 教室と透百合、その間には《隠者》が立ちはだかる。

 二人の間に緊迫した空気が流れる。

 どちらが動くか、というこの状況。

 初めに動いたのは《隠者》。構えたのはただの刃ではなく言葉の刃。


「よいのか?」

「……?」


 急な問いかけに、疑問符を浮かべる透百合。


「我らがあの部屋を飛び出してから既に数分」


 そんな透百合に構わず、《隠者》は言葉を紡ぐ。


「その時間の中で、《美食家》がいったい何人の人間を殺せる……?」

「っ!!」

『あ、すっかり忘れてた』


 凍り付く透百合。本気で忘れていたらしいドクロ。そして、


「所詮、人間よ」


 再び陰に身をひそめる《隠者》。


 この《隠者》と呼ばれる亜神エヴィル、その本質は影の中での瞬間移動にある。

 影が続いている場所であれば、それがどれほど離れた場所であってとしても瞬時に向かうことができる。その時間は数秒にも満たない。

 教室での透百合とのぶつかり合いにおいても、その影移動を駆使していた。相手こそ悪かったものの、そこから繰り出される圧倒的な手数は瞬時に相手を仕留めることができるものだ。


 そんな能力を有する《隠者》。これならば透百合の前から逃げ出すことも可能なはず。

 しかし、先程の悪役感バリバリのセリフにもわかるように、人間を見下すことに何の疑いも持たない《隠者》。

 戦略的撤退はあっても、しっぽを巻いて逃げるなどできるはずがない。


「これで、終わりだ!」


 一気に透百合との距離を埋め、また右側を狙って影から飛び出した。

 そこで、《隠者》は奇妙な出来事に出会うこととなった。

 先に自らが切り裂いた透け百合の左半身。

 腕に刻まれた傷の切り口が赤く輝いた。

 その光、まさしく透百合の右腕に生える右腕と同じ赤い光。


「な……に…………?」

『ぎゃはははははっ!!くらいやがれぇっ!!』

狂い咲きマッドネス・ピンク……!」


 ドクロが叫び、透百合が唱えた。

 瞬間、傷口からでた真っ赤な刃が《隠者》を貫く。


「がっ……!!」


 腕に出現した無数の刃は、《隠者》を透百合の腕に張り付けにした。


「が、ああ……」

『ぎゃははははははははははっ!クリーンヒットだぁ!!』


 苦しげに唸る《隠者》。

 透百合はそのまま《隠者》に話しかける。


「おれが動揺すると踏んで、揺さぶりをかけたんだろうが、残念だったな」

「貴様……あの小娘どもを見殺しに…………?」

「まさか」


 そう言って透百合は腕を振り、《隠者》を空中に放り投げた。


「俺は、初めから一人じゃない・・・・・・・・・・

「……どういう」


 「ことだ」

 その言葉が発せられる前に、《隠者》の身体は透百合の右腕に切り裂かれた。

 バラバラと透百合の足元に体積を持った影が落ちていく。

 影は床に落ちると同時に砂となって消えていった。


「ここまでだ」


××××××××××


〈優紀side〉


 時は少し遡って教室


「はは、はははははっ!!」


 なんとも不快な高笑いが響いていた。

 優紀は震える女子生徒の前に立ち、不気味に笑う《美食家》と対峙していた。

 透百合に付けられた《美食家》の怪我は、どういうわけか塞がり、《美食家》は教室の中央で仁王立ちしていた。


「バカだ……マジでバカだよあの野郎ぉ!!大事な教え子置いていきやがった!」


 頭の悪そうな叫びを尻目に、優紀はここから逃げる算段を立てていた。

 透百合への文句?

 そんな呑気なことを考えている暇はない。

 何か考えがあるにしろ、見捨てられたにしろ、今は優紀だけでなんとかししなくてはいけないのだ。


「……ひっ………ひっ」

「…………」


 正直なところ、後ろで泣いている奴を囮にして逃げるのが一番の得策ではないかと優紀の中では考えているが、そこは人間だ。同類を見捨てるのは心が痛む。


「さてぇ?」


 ゆらりと《美食家》がこちらを向く。それだけで後ろの女は体をビクつかせる。


 ……やっぱり生贄に……いやいや。


「とりあえず、味見してやるよぉ!どっちか来い!」


 乱暴に叫ぶ。こんな時なのに、優紀の頭には「パターン」という言葉が浮かんだ。

 いかにもな敵、それに相対する自分、そして後ろで震える善良(笑)な一般人。この構造から導き出せる「パターン」は……。


「わたしが……」

「あんたが行きなさいよぉっ!!」

「……………………」


 えっ?

 思わず口に出してしまうところだった。

 まさかの裏切り。いや、そもそも仲間のつもりなんてさらさらなかったが。


「あんたが、あんたがいなけりゃこんなことにはならなかったのよぉっ!!」


 そんな馬鹿な。なんという責任転嫁。

 いざとなったら自分だけでも助かる。これが人間……なのだろうか?


「……私が行く」


 なんだかバカらしくなってきてしまった優紀だったが、命の危機が目前にあることを思い出して気を引き締める。

 ここで少しでも話を引き延ばせば、時間稼ぎになるかもしれない。


「そうだなぁ、さっき喰いそこなったし、お前でいいか」


 《美食家》はうんうんと頷き、


「いただきまぁす!!」


 跳びかかってきた。


「……ちょっ」


 考えていたのとは違う!

 優紀は心の中で叫ぶが、もう遅い。なんの訓練もしていない優紀では《美食家》から逃げることもできない。

 目の前に《美食家》の口をもった右手が迫る。


「……っ!!」


 頭を抱える優紀。優紀にかかろうとしていた右手は、


パァン


 優紀には触れずに横へとそれた。


「ぎゃっ!」


 短い《美食家》の悲鳴。

 次々に銃声が響き、そのたびに《美食家》は叫び、のけぞった。

 銃声がやむと同時に《美食家》はゆっくりと床に倒れた。


「……どういうこと?」


 優紀は周りを見渡した。そこには人はおろか、銃すらも見当たらない。

 唯一、《美食家》に食いちぎられた銃があったが、まさかあれが打てるとは思えない壊れ方だ。


「おつかれー!よくがんばったねぇ!」

「!?」


 急に男の声がした。なんというか、透百合のとは違って軽そうな男の声。


「あれ、見えてない?」

「だ、誰?」


 慎重にあたりを見回すが、やはり人の姿はない。


「ここだよ、ここー」


 不意に、バチャバチャと水をはじくような音が聞こえた。

 その方を見た優紀はぎょっとした。女子高生はとっくに気絶している。

 血の池で魚のように跳ねている物体。この死体の山と化した教室にはあってもおかしくない、しかし、どう考えても動くはずのないもの。

 数分前に《隠者》に切り落とされた透百合の右腕だった。


「よっ」


 右腕は手首のしなりを上手く使って跳びあがった。空中でその切り口と思われる場所、そこが盛り上がり、体積を増やしていく。

 ぽっこぽことこの場に釣り合わない間抜けな音を立てて、右腕だけだったそれは人の形になる。


「あーっ!けっこー疲れるねえ!」


 しっかりと生えた二本の足で立ち、その男は言った。

 透百合と比べると平均的な身長。しかし髪の毛をオレンジ色に染め、肩口近くまで伸ばしていた。

 透百合と同様に整った顔をしているが、透百合よりもチャラい印象を受ける。耳にはじゃらりとピアス。


「えーと?蛍袋優紀ちゃん?」

「は、はい!」


 なんで名前を?

 そう思った優紀だったが、原理は分からないがこの男はついさっきまで透百合の右腕になっていたのだ。

 話を聞いていてもおかしくはない。


「慎一郎がお世話になりました!アイツの相棒やってます!甘菜庸介アマナヨウスケでーす!」


 よろしくね、と言いながら握手を求めてくる庸介という男に、優紀は問いかける。


「あの……あなたたちは、何者なんですか?」

「お、ズバリ聞いてくるねぇ」


 なぜか嬉しそうに庸介は答えた。


「俺たちは神殺しレべリオン


 聞き慣れない単語が耳に入る。


「人を喰らう亜神エヴィルを、逆に喰らった・・・・・・存在だよ」


 軽い口調に重い意味を含ませて庸介は言った。

やっと、やっと庸介君が出てきた……

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