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Last EVIL - for fear -(更新停止)  作者: 山茶花久
序章「学び舎の崩壊」
5/17

63㎡の戦場

振り返り(適当):はじめての、ころしあい

 三階へと続く階段。

 はじめに透百合、少し遅れて優紀が走る。


「入れないんじゃなかったんですか!?」

「俺にも分からん!!」


 静かな校舎内に二人の叫び声と足音だけが響く。

 階段を上がりきって三階に到着する。

 そこでスピードを落とし、足音も消す透百合。すぐ側にいる優紀にはその技術の高さが分かった。


(全く聞こえない……)


 透百合は一体何者なのか。

 彼の人を越えた技術は、一瞬ではあるが優紀に亜神エヴィルと呼ばれたあの化け物を連想させた。

 教室前、二人はドアの脇にアクション映画の突撃隊よろしくへばりついていた。

 なぜか、ドアに付いた窓からの教室の景色はいつも通りだった。生徒の姿は一人として見えなかったが。


「どういうことなんですか?」

「恐らく奴らが作る領界エリアが発動している」

領界エリア……ですか?」

「ああ、その中なら何をしても本来の世界に影響はない」


 さっきまでいた保健室にも、それができていたんだろう。それならこれほど戦い慣れしている透百合が、あの距離まで来て、血のにおいに気付かないはずがない。


「さっきはこれがないのに気付けなかったからな……っ!」

「え?」


 無かったらしい。


「じゃ、どうして……?」

「保健室ならあり得るかな……と……」


 ありえねぇよ!!

 叫びたかった。せめて確認ぐらいしろよ!


「入るぞ」


 ごまかしやがった。

 優紀を無視してシリアスモードに突入する透百合。

 いつの間にか右手には先程とは別のタイプの拳銃。左には大振りのナイフ。刀身には網目のような模様。


「外にいろ」


 そう言うが早いか、透百合はドアを蹴破り教室に飛び込んだ。


××××××××××


 大体は予想通りだった。

 引き裂かれた死体。すべてバラバラなので何人分あるのかもわからない。 一部にはそれが積まれて小さな山になっていた。

 机もイスもそこら中に散らばっている。床は何十人分かの赤い血で池のようになっていた。正に血の池地獄さながらの光景。

 予想できなかったことはただ一つ。生存者がいたこと。


「ひっ……」


 彼女は小さな悲鳴を漏らし、血だらけの顔を上げた。


「あ」


 あの女子生徒(バカ女)だった。


「透百合…せん、せい?」


 自分以外の生存者の登場、しかも知っている人物とあって、安堵の表情を見せる女子生徒。

 しかし、その両手の武器を見て再び顔をこわばらせる。


「あ、ああああっ!!」


 透百合から距離をとろうと後ずさる。


「…………」


 透百合は何も言わず、女子生徒の手をとろうとした。


 瞬間、死体の山がはじけ、中からあのサラリーマンが飛び出す。向かう先は透百合の背中。


「先生!!」


 思わず優紀は叫んだ。そのの脳裏に首を喰いちぎられる透百合の姿が浮かぶ。

 しかし透百合は動かない。サラリーマンに背を向けたまま女子生徒をたたせる。

 サラリーマンは両手をかざし、透百合の首を狙う。


「あばよぉっ!!」


 サラリーマンの手が透百合の首筋に触れた。


パン


 小さく銃声が鳴り、サラリーマンはのけぞった。


「…かはっ!」


 すかさず回し蹴り。革製の堅そうな靴は、見事にサラリーマンのわき腹に命中した。


「がああああああっ!?」


 サラリーマンは黒板に激突し、崩れ落ちた。


「な……なに、が?」


 困惑するサラリーマン。それもそのはず。隠れて見ていた優紀にすら、一瞬しか見えなかったのだ。恐らくサラリーマンには見えていなかっただろう。

 サラリーマンが透百合に飛び込んだ瞬間、優紀は透百合の左脇腹が膨らんでいるように見えた。

 そしてサラリーマンがつかみかかった瞬間、一瞬でそこに穴があいたのだ。

 映画なんかでよく見る服の下からの背後打ち。

 まさか現実にできる人間がいるとは思わず、優紀は何よりもそこに驚いた。


「さて、ここからは尋問の時間だ」


 そう言って銃をサラリーマンに向ける透百合の冷酷な顔にはもっと驚いた。

 あの無表情の奥に、これほどの憎悪の感情が眠っていたのかと思うほど、その顔は歪み、殺気をまとわせていた。


「おまえ、名は何だ?」

「おいおい、名を名乗らせるにはまず自分から……があっ!!」


 足に一発、弾丸が命中する。


「が……ああっ…」

「まあいい、大体の調べは付いている。《美食家(ビショクカ)》だな?」

「は、ははっ……以後ヨロシクゥ」

「……っ!!」


 絶体絶命の状況において、なおも透百合を挑発してくるサラリーマン。いや、《美食家》。


「次だ、どうやってここに入った?」

「親切な人にいれてもらいましたぁ」


 ビキリ、と透百合の額に青筋が浮かぶ。


「ま、そう怒らないでよぉ、慎一郎さぁん?」

「!?」


 その名は優紀の知る名前ではなかった。しかし透百合には大きな効果をもたらした。一瞬隙が生まれる。

 《美食家》の狙っていた隙が。


「っはあ!!」


 《美食家》の両手が伸びる。狙いは透百合の腕。武器が狙いか?

 透百合は銃を捨てた。銃を持つ右腕を前に出し、《美食家》の口にくわえさせる。

《美食家》の口は銃をくわえこんだ。

 一方の武器が塞がれ、《美食家》は残りの左腕を伸ばす。その腕に透百合はナイフを突き立てた。


「ぎゃあっ!!」


 《美食家》の悲鳴が漏れた口は、笑っていた。


「なにが」


 「おかしい」と言おうとした透百合。

 自分の体の異常に気付く。自分の重心が、先程までよりズレていることに。


すとん


 そんな音が聞こえた気がした。

 あっけなく、さも当然のように、透百合の右腕が右肩から落ちた・・・


「がっ……?」

「お返しだぁっ!!」


 《美食家》足が透百合を蹴り飛ばした。

 人間を超えたそのパワーは透百合を死体の山に突っ込ませる。

 右腕はばしゃりと音を立てて血の海に沈んだ。


「は、ははははっ」


 高笑いをする《美食家》の影、それが次第にぶれはじめ、やがて二つになった。

 一方は平面から立体へと次元を変える。


ずるり


 ヘビがはいずるような、トカゲがのたくったような、そんな音を立てて影が人型になった。

 ある程度はっきりとした形が現れるが、完全に変化はしない。


「我が名は《隠者(インジャ)》」


 影はそう言った。どこに口があるのかもわからない漆黒の存在。

 手と思われる部分は鋭い刃物のようになっていた。


「てめぇ、それで俺を……」

「いかにも」


 透百合の苦しげな問いに《隠者》は答えた。


「会って早々だが、死んでもらおう」

「……っ!」

「だめっ!!」


 優紀は思わず飛び出した。

 二体の亜神(エヴィル)たちは優紀の存在に気付いていなかったのか、驚いてそちらを見た。

 優紀はかまわず透百合をかばい、二体の前に立ちはだかった。


「んだぁ!?てめぇ、何様のつもりだぁ!?」


 下品な威嚇をしてくる《美食家》。

 足が震える。歯がカチカチと鳴る。

 それでも優紀はそこを動かない。


「女、そこをどけ、貴様を殺すのは後からだ」

「いやっ!」

「ならば、貴様からだ」


 《隠者》は鋭い腕を振り下ろした。

 優紀はぎゅっと目をつぶった。


ギィン!!


《隠者》の腕は、優紀には届かずに何かに弾かれる。


「ぐっ!?」

『ぎゃははははははははははっ!!』


 甲高い声が聞こえた気がした。優紀は目を開ける。


 視界が、赤かった。今日何度も見た血の色ではない。もっと禍々しく、しかし神々しくもある深い赤。

 優紀はがその赤い霧の中に包まれていた。

 霧の外では《隠者》が赤い霧を破壊しようと剣を打ち付けていたが、それが不可能であるのは明らかだった。


「怪我はないか?」


 後ろを振り返ると、透百合が立ち上がるところだった。


「っ先生!まだ立っちゃ…」


 そこまで言って、自分を包むこの赤い霧が、透百合の切断された後から出ているのが目に入った。


「大丈夫なら、後ろの方に行って、」


 ぽんぽんと残っている左手で優紀の頭を軽くなでる透百合。


「離れていろ」


 さっきも聞いたこの言葉。これを最後に、透百合は二人を包む赤い何かを退かせていく。

 なでた手が離れることに名残惜しさを覚えつつ、優紀は後ろに下がった。

 霧は透百合の右手を形作った。本来人間が有するものよりも、もっと大きく、悪意に満ちているもの。

 はっきりとした形は見せないものの、五本の指先には大きなかぎ爪が延びていた。腕を構成する霧からは時折バチバチと放電するような音が発せられている。


『ぎゃはははははっ!一日ぶりのシャバの空気はうまいぜぇっ!!』


 耳を塞ぎたくなるような笑い声。

 ずるん、と透百合の右の肩口付近、つまりは生身の体と霧の境目からドクロが飛び出した。

 声はそのドクロの無いはずの喉から出ていた。


『何だぁ!?随分洒落たとこじゃねぇかぁ!!』

「騒ぐな、まだ戦闘中だ」


 イヤに陽気なドクロを冷たくあしらう。


『わりぃわりぃ!どうしても殺し合いとなると、テンションが上がっちまってなぁ!!』

「今から好きなだけやってやる」

『そいつはありがてえやぁ!!』


 そう言ってドクロはすっぽりと透百合の頭に被さった。

 瞳のない二つの眼孔からのぞく透百合の目は、左目だけドクロや右腕と同じく赤く発光していた。

 対峙するのは体勢を立て直す《美食屋》と《隠者》。


「さて」


 ドクロに隠された透百合の声が険しくなる。


「殺されたいなら」『かかってこいやぁ!!』


 透百合とドクロ、二人は同時に叫び、亜神(エヴィル)達に襲いかかっていった。

タイトルの63㎡とは、一般的な教室の面積だそうです。

正確には7m×8mだそうで。

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