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Last EVIL - for fear -(更新停止)  作者: 山茶花久
序章「学び舎の崩壊」
4/17

battle and rest

振り返り(適当):保健室でHENTAIに襲われた優紀ちゃん!そこへ駆けつけたのは法に触れるような黒くて長いアレを構えた透百合先生だった!

 異質な光景だった。

 床という床、壁という壁に満遍なく血が飛び散った部屋。

 そしてその中央で対峙する二人の男。

 片や一見普通のサラリーマン。しかしその口からは人の物とは思えない鋭い歯が見えていた。口を中心に広がる血痕が、この男がただの、少なくとも正気の人間ではないことがうかがえる。

 片や学校の臨時教師、透百合一輝。その右手には回転式のリボルバー。銃口はサラリーマンに向けられている。


 勝負は一瞬の内に終わっていた。

 最初に動いたのはサラリーマン。

 優紀を襲ったときと同じく常識を逸した口を開き、まっすぐに透百合へと突っ込んでいく。

 距離は数メートル。あっという間に距離は縮まってしまう。


パァン!


 サラリーマンの牙が銃口と重なった瞬間、乾いた音とともに透百合の拳銃から弾丸が発射される。

 しかし目の前にいたはずのサラリーマンの姿はなく、弾は部屋を駆け抜け窓ガラスを砕いた。


「くあっ!」


 消えたサラリーマンを探そうとはせず、透百合は体をひねって回転を加え、バックステップで後ろに後退する。

 一瞬遅れてしゃがんで銃弾をかわしたサラリーマンが、カエルのように透百合の頭があった空間を噛み切った。

 ガチン!、と金属がぶつかるような音がする。

 空中に飛び上り、身動きの取れないサラリーマンの腹に銃口が向けられる。


パンパンッ


 二発分の銃声。人間離れした身体能力を持つこのサラリーマンでさえ、空中にいる状態、しかもこの距離ではかわせない。

 だが、倒れない。

 血まみれの口を不気味に歪ませ、即座に右の拳を透百合に打ち込んでくる。


「っ!!」


 透百合もそれに反応し、即座に拳銃でガード。

 この拳を上手く受け流し、カウンターで今度こそその頭に鉛玉をぶち込む!

 そう考えていた透百合の目に、おかしなものが映った。

 次第に大きくなるサラリーマンの拳。

 極度に先頭に集中した透百合の、ゆっくりと動く世界の中で、その握られた手が開いていく。

 現れた手のひら、その中央にはもう一つの口。


「う、おおおおおっ!?」


 とっさの判断。透百合は重荷になる銃を手放し、腕を引っ込めた。


ガリィン!!


 金属と金属が擦れるような音。

 その音が耳に入る前に透百合は横に跳び、サラリーマンと距離を取った。 後ろには隠れていた優紀。

 右腕は皮膚の皮一枚ほど噛み切られ、白いワイシャツがみるみる赤く染まっていく。

 サラリーマンは入り口前に不恰好に着地した。逃げ場はない。


「くっ……」


 優紀を守るように一歩前に出る透百合。

 しかし、追撃はこなかった。


「質はいいが賞味期限が切れていやがる……不合格だなぁ」


 がりがりと右手にある口で何かを咀嚼しながら、本来の口で呟くサラリーマン。


「畜生っ……お前らじゃ…………喰い足りないっ」


 次の瞬間、サラリーマンの姿は消え、「ダンッ」という音が遅れて聞こえた。


(逃げた……助かった……の?)


 自分の認識能力を超える攻防、それが終わったと頭が理解するまで優紀はそこを動けなかった。


××××××××××


 激闘から数分後、なんとか我に返った優紀は透百合の腕を治療していた。

 二人の間には沈黙が流れている。

 負傷した腕に包帯を巻きながら、透百合を見る。

 この一週間、様々な表情をする透百合を見てきたが(といっても、そのほとんどは今日のものだったが)、今ほど冷たい顔の透百合は見たことがなかった。

 まるでマネキンのように表情がなく、どこを見つめているのかもわからないその瞳は虚ろだった。優紀は不気味さすら感じた。


「あれ、追わなくてもよかったんですか?」


 居心地の悪さを感じ、優紀は質問した。


「心配ない……特殊な仕掛けで人がいる部屋には入れないようになっている」


 「それに中の人間も眠らせてある」と平坦な声で答えが返ってくる。


「あれは……人間なんですか?あれと先生は……何か関係があるんですか?」

「銃弾を手で受け止めるような人間がいてたまるか」


 ごもっともだ。

 戦闘の一部始終を見きれていたわけではない優紀にも、その光景は不思議と見えていた。

 透百合がサラリーマンの腹に打ち込んだ二発の弾丸。それを彼(?)は左手で受けていた。恐らく左手にも右手よろしく口がついていたのだろう。

 ふと、優紀は戦闘のあった床を見た。そこには透百合が使っていた拳銃。 しかし残っているのはその持ち手だけであり、銃弾を込めるシリンダーから銃口にかけては綺麗に抉り取られていた。

 あんなことをやってのける口を、しかも手のひらに持っているなんて……


「俺たちは亜神(エヴィル)と呼んでいる。お前ら一般人が最近テレビで騒いでいる奴らだ。」


 まるで自分は一般人ではないかのような物言い。

 亜神(エヴィル)……。なんとあの生き物を表すにふさわしい言葉か。


「俺は奴を仕留めるためにここに来た」

「潜入捜査……と言うことですか?」

「……そんなところだ」

「名前とか、身分とかも偽物……なんですか?」

「まあな」


 優紀の問いかけに素直に応じる透百合。しかしその表情に起伏は見られない。

 まるでさっきまでの透百合とは別人だ。こんなロボットのような人間が、あの青年を演じていたというのが、未だに優紀には信じられなかった。


(いや、逆なのかも……)


 ロボットのような人間だからこそ、あのように多様な表情を作ることができたのだろうか。

 本物のロボットがデータをダウンロードするがごとく。


「なあ、世界に大陸は……いくつある?」

「え…四大陸(・・・)じゃないんですか?」


 唐突な質問に戸惑う優紀。ユーラシア、北アメリカ、南アメリカ、アフリカの四大陸。

 最近の授業でも透百合本人がそう言っていたのを覚えている。


「まさか、ムー大陸なんて言うつもりですか?」

「いや、そんなことじゃない」


 優紀としては精一杯の冗談のつもりだたが、それを聞いた透百合の顔は暗かった。


「じゃあ……」

「ここまでだ」

「えっ?」


 優紀の声を遮る透百合。起伏のない声だが、どこか威圧感を感じた。


「あまり深入りしないでくれ」

「どういう……ことですか?」

「………………」


 何も言わずに透百合は立ち上がった。包帯が巻かれた腕をさすり、動きやすさを確認する。そして


「助かった」


 ぽつり、ともらした。


「それって……」


 お礼?

 表情も声も変わらず、視線すら合わせようとしないこの男に?

 優紀は混乱してきた。

 さっきから目も合わせず、どこかを見つめるばかりである。


(……まてよ?)


「あの、先生?」(すすっ)

「まだ何かあるのか……」(ついっ)


 優紀が前に回り込むと同時に、透百合の顔が横に動く。


「不思議ですね」(すっ)

「なにがだ」(つっ)

「目線が合いません」(ばっ)

「不思議だな」(さっ)


 視線を合わせようと透百合の周りをぐるぐる回る優紀。

 血みどろの現場で何をしているんだという話だ。

 しかし、元々の太い根性に加え、衝撃の連続で少々常識の概念があいまいになってしまった様子。

 若干楽しんでいるようにさえ見える。


「照れなくてもいいんですよ?」

「誰に照れる必要がある」


 回るのを止め、正面に立つ。

 それでも透百合の顔は明後日の方向を向いたままだ。


(照れ隠しであんな態度になってたんだ……)


 そう確信する。

 一旦謎が解けると、途端にこの男が身近にいるように感じた。思い返せば、透百合と顔を合わせたのも今朝の教室前とさっきの保健室前の二回だけだった。

 それ以外で、彼はずっとよそ見をしている。

 よく見ていたわけじゃないが、ほかの生徒と話をする時も、決して目を合わせようとはしていなかった。


「先生、いいですか?」

「なんだ」


 いたずらっぽい表情で優紀は言う。

 優紀自身、自分がこんな表情ができるのか内心驚いていた。


「お礼が聞きたいです」

「さっき言ったろ」

「あんなものはお礼ではありません」


 ばっさりと否定する。


「私の目を見て、はっきりと言ってください」

「それに何の意味が……」

「包帯、まいてあげたでしょう?」

「っ……!」


 さっきまでの鉄仮面は嘘のよう。

 今日一番の苦々しい表情を浮かべる透百合。露骨に嫌そうな顔だ。


「ほら、早く言ってくださいよ」


 少し楽しくなってきた優紀は催促を開始する。


「悪女め」

「自覚してます」

「………………」


 しばらく目線を泳がせていた透百合だったが、諦めたように顔を優紀に向けた。そして


「……ありがとう」


 と言った。かなり顔が歪んでいたが。

 初めて納豆を食べた外国人みたいだ。


「酷いですね」

「!?」


 意外なコメントに驚く透百合。動揺すると表情がそのまま出てしまうようだ。


「まあ、いいです……今は」

「まだ言わせる気なのか」

「もちろん、私が納得するまでやってもらいます」

「鬼め……」

「分かります?」


 それから少しの間だったが、二人(主に優紀)の他愛もない会話が続いていた。

 それが降ってくるまでは。


××××××××××


 最初に見たのは優紀のほうだった。なぜ透百合に見えなかったか?単純に透百合の背後で起こったからだ。

 優紀から見て透百合のさらに奥、校庭の見える保健室の窓。そこも一面赤かったが、一か所だけ、先程の争いで割れた窓。そこに奇妙なものが映った。

 上から黒い、ボール状のものが落ちてきたのだ。それはそのまま下に落ちていき、小さくドシャッと音を立てた。


「あっ」


 優紀はそれを視界にとらえたものの、一度は見間違いと判断した。

 そしてそれに反応して振り返った透百合に「何でもない」と言おうと口を開く。

 しかし喉から声が出る一瞬ほど前に、もう一つ落ちてきた。

 今度の物は赤く、太い棒状のものだった。その太さは陸上のバトンよりも太い、まるで優紀の二の腕のような形をした………………二の腕だった。

 血に染まったそれは黒い何か同様、階下に落ちていく。


「…………っ!!」

「…………!?」


 優紀は、そして透百合でさえ、その一瞬の出来事を頭の中で上手く処理できていなかった。

 優紀は開きっぱなしだった口から、頭に浮かんだ言葉を述べる。


「この上、私のクラス………?」

バトルシーン、状況的には一瞬とか言ってましたが、文章にすると長いですね。

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