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Last EVIL - for fear -(更新停止)  作者: 山茶花久
二章「デパート襲撃」
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戦場の外側

振り返り(適当):狂化する紫苑、マイクを叩き付ける日和。

お前らヒロインじゃなかったの!?

あと、庸介が跳びました。


これから少し投稿のペースが落ちるかもしれません。

〈日和、平八郎side〉


 日和は雑音しか受け取らなくなったマイクには目もくれず、車を出た。


「おい!どこ行く気だ!?」

「もう少し周りの調査をします!」


 そう言って日和はデパートが接している道路に出ようとした、が、直ぐに平八郎に止められた。


「まあ、落ち着け。」


 平八郎は日和の肩をたたき、いかにも年長者な余裕を見せる。


「お前がそんなんじゃ、ウチの支部はやっていけんのだぞ?」

「……すいません」


 日和はやっと声を落とし、怒らせていた肩から力を抜いた。


「それに、ちゃんと教えたとおりに動けていない」


 平八郎は日和の手を取り、彼女の目の前に差し出させた。手は冷たくて固い何かに触れる。

チッチッ


「……あ」

それ・・を忘れたら駄目だと教えたはずだぞ?」


 日和の数十センチ先には電信柱。あのまま突き進んでいたら、そのままこのコンクリートの塊にぶち当たっていたことだろう。


「………重ね重ねすいません……」


 今度は本当に申し訳なさそうな日和。

 平八郎は彼女の頭をポンポンとたたき、何も言わずに車に戻った。日和もまたそれに続いて車へと向かう。


「さて、改めてこれからどうするつもりだ?」


 平八郎の言葉は、作戦会議をする仲間というより、思案する教え子に話しかけているようだ。

 日和の顔もまるで師と話す弟子だ。


「……もう一度《聞いて》みます」


 平八郎は頷き、日和の行動を見守る。

 日和は見えない・・・・目を閉じ、意識を両の耳に集中させる。


ヒイィィィィィィ………


 そんな音に合わせて日和の髪が揺れ、重力に反発して浮かんでいった。

 平八郎は日和の様子を見守っている。


××××××××××


 小車日和は盲目である。先天的なものではなく、後天的なもの。

 亜神エヴィルに、奪われた。

 しかし、奪われた視力の代わりに常識を逸した《聞く》力。つまり聴力を手に入れた。

 日和の口から出る「チッチッ」という舌打ちの音を反響させ、帰ってくる時間から周りと自分の位置関係を推測する。

 また彼女も微弱ながら領域エリアを作り出すことが可能だ。

 日和の領域エリアの中に入ると、彼女に行動が筒抜けになってしまう。



「《聞こえ》ました…………!」


 日和の額にはうっすらと汗が浮かんでいる。


「庸介君は四階………でしょうか……慎一郎君と紫苑ちゃんはその上です…………」


 まるで今見てきたかのように正確に仲間の位置を把握している。


「デパート全体に心臓が動いていないのに活動している個体が多数あります…………!」

「やはり今回は《支配型》が関与しているのか!」

「……恐らくは……!」


 そう言った後、何に気付いたのか日和は目を閉じたまま、首をかしげた。


「……あれ、二体いた亜神エヴィルが分かれて行動しています」


 最上階付近に一体、そしておそらく地下に一体。


「ここは下にもフロアがあるが、そこはスタッフルームしかないぞ?」

「あと、ゾンビと思われる集団は一様に上を目指して動いています……」


 そう言って日和は目を開けた。

 額の汗はより大粒になっており、吐く息もさっきまでより荒い。


「お前はあそこの阿呆共みたいに身体が丈夫じゃねぇんだ、気ぃつけな」


 平八郎は日和にタオルを渡した。

チッチッ


「……分かってます」


 素直にタオルを受け取り、汗をぬぐう。


「しっかし、周りの連中が覚えていないんじゃ、どうしようもねえよなあ……」


 貫録のありそうな平八郎は、ため息にもそれっぽいオーラを持っている。


「でも、どうしてでしょう……折角の研究対象のデータを取れそうなのに……?」

「それが疑問だよなぁ……」


 《洗脳師》をはじめとする《機関》の本部連中は亜神エヴィル達の行動に関する情報をあらゆる場所から採取している。

 亜神エヴィルそのものの身体は死ぬと消えてしまうため、調べることができないそうだ。

 そうなるとより多くの行動サンプルを集め、行動を予測できるようになることが奴らからの攻撃を防ぐ最適な方法のはずなのに。


「……そこまでして消したい情報があった?」

「どういうことだ?」


 日和のつぶやきに平八郎が疑問符を示す。


「ですから、《機関》の上層部にとって、サンプルをなくしてでもなかったことにしたいことがあったとか……?」

「……まさか、な」


 《機関》はかなり大きな組織だ。日和たちのような末端部隊だけでも相当数ある。

 そんな組織、しかも表だって動くことはめったにない。

 一枚岩で行動できるわけがないのだ。

 過去にも幹部同士の争いで末端構成員が数十名死亡したこともあったと噂されている。

 これを初めて聞いたとき、日和は相手に


『あくまでこれは噂としてだが』


 と前置きされた。つまりはそういうことなんだろう。


「これ以上はやめておこうか」


 平八郎はそう言ってたばこを取り出した。

 もちろん日和も同意見だ。

 先程《洗脳師》はいきなり通信を送ってきたうえ、その直前までの会話をしっかり理解した口調だった。

 どこで誰が聞いているかわかったもんじゃあない。

チッチッ


「あ、あとハチさん、たばこは車外でお願いしますねー」

「…………固いこと言わんでくれよ」

「駄目です」


 笑顔なのに何だか怖い。

 平八郎もそれ以上文句を言うことなく車外に出た。


「たばこのにおいが付くと、庸介君しゃべってくれないんですよねー」

「相変わらずあの坊主を気に入っていやがるのか」

「私、子供っぽい人間が好きなんですー」


 日和の楽しみは庸介の任務が終わるごとの武勇伝を聞くことだ。

 同じくらい出発前の意気込みを聞くのも好きだった。

 しかし、今日は現地での集合なうえ、庸介の元気がなく、あまりしゃべってくれなかったのだ。


「これで帰りまでだんまりだったら困るんですー」


 だからお願いしますね、と平八郎の背中に呼びかけた。


「全く、あの坊主の---」


 そう言って日和を見た平八郎は、日和が自分を見ていないことに気付く。

 正確には自分の言葉を《聞いて》いない、か


「おい、ヒヨちゃん?」


 そう言って日和の視線を追うと、そこには例のデパート。


「どうした、何か見つけ………おいっ!!」


 デパートを見た平八郎の脇をすり抜け、日和は駆け出した。

 平八郎もそのあとを追う。


「どうした!?何事だ!」

「庸介君が!」


 平八郎の問いに日和は叫んだ。いつもの余裕は再び消え去っていた。


「庸介君が……落ちました」

紫苑より日和の方がヒロインっぽい……?

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