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Last EVIL - for fear -(更新停止)  作者: 山茶花久
二章「デパート襲撃」
15/17

斬撃、銃撃、口撃

振り返り(適当):次々に起き上がるゾンビたち。紫苑、ついに刀を振るうか!?

そして一人寂しい庸介にも死人の手が伸びる!

〈慎一郎、紫苑side〉


「…………ふふ」


ザシュ


「……ふふふふ」


ザシュッ!ザシュッ!


「ふふふふふふふふふふ」


 決して精神病院ではない。

 場所は五階、紳士服売場。

 季節物のスーツを身にまとったマネキンが、棚にずらりと並べられたネクタイが、カーテンが開け放たれた試着室が、見るも無惨に切り盛れ、床に積もっていく。

 しかし、それはあくまで副産物でしかない。


「ふふふふふふふふ」


ズシュン


 また一体。紫苑の振るう刀の元、ゾンビが腰のあたりからまっぷたつになる。すぐ後ろのスーツかけがついでとばかりに切り倒された。


「ふふふふ……またきったよ」


 服が汚れるのも気にせず、ゾンビに馬乗りになった。

 紫苑は自分の下でうごめくゾンビの首に刃を突き立てる。それでも動き続けるゾンビに、


「ふふ、しつこい」


 今度は小型のナイフを左胸にぶすり。それが止めとなり、ゾンビは活動をやめる。


「とまっちゃった」


 そうなるともはや紫苑は興味を示さない。胸に刺さったナイフすら置き去りに、次のゾンビにターゲットを変える。

 ゾンビたちもそこそこ素早い動きで紫苑を取り囲むが、刀を振るう回数を数回から一回に減らしただけだった。


『ぎゃはははははっ!相変わらずイケてるねぇ!』


 フロアを駆け巡る紫苑を見て、スカルが嬉しそうに叫ぶ。


『それに比べて、シンイチローの影の薄いことといったら!!』

「やかましい」


 腕をスカルにぶつけるが、当たることはなく、そのまま通り抜けた。


「紫苑、抜刀後の豹変ぶりはいつも通りだな」

『いつ見ても惚れ惚れするキレッぷりだぜぇ!』


 せっかく発動した腕は人間のサイズに収まり、慎一郎は腕を組んでそこらのイスに座っていた。

 数十人はいたゾンビたちも、ものの数分でほぼ全滅だ。


「ふふふふふふ」


 紫苑の表情に変化はない。しかし、よく見ると口元が僅かに緩み、笑っているようだ。

 その僅かな口の隙間から、先ほどからの奇妙な笑いが発せられていた。


「ふふふ……あ、おわっちゃった」


 最後のゾンビと、後ろの澄まし顔のマネキンが縦に割れると、フロアの中は静かになった。

 途中でマイクを紫苑が切り落としたせいで、音楽すら聞こえてこない。


「…………終わったよ、慎一郎」


 刀をしまうと同時に、いつもの紫苑に戻る。

 さっきまでの俊敏な動きが嘘であるかのように、危なっかしい足取りで慎一郎の元まで歩いてくる。


「ありがとうな、一人でやってくれて」

『おっかえりーぃ!今日も輝いてたぜ、シオン!』

「…………スカル、久しぶり」


 そして慎一郎の前に立ち、慎一郎の顔をのぞき込んだ。

 紫苑は長年の癖その1で、人と話すときには相手の顔をのぞき込もうとしてくる。

 当然、慎一郎は逃げるように顔をそむけた。


「…………慎一郎、ありがとうって言った」

「……言ったな」


 慎一郎が苦い顔をする。


「…………ご褒美」

「………」


 慎一郎はため息をついた。

 これも癖だ。といっても、こっちは一部の人間にしかしないが。

 癖その2、「ありがとう」という言葉に反応して、ご褒美を求めてくる。もちろん、ご褒美は金のような生々しいものではない。


「ほら」


さわさわ


「…………ん」


 慎一郎が頭をなでてやると、紫苑は気持ちよさそうに目を細めた。

 この人物が、つい数分前まで鬼神のごとくゾンビを切り捨てていたとは思えない。


「もういいか?」

「…………まだ」

「はあ……」


××××××××××


〈庸介side〉


「ひぃ………ひぃ……ふぅ………」


 庸介は産気づいたときみたいな荒い呼吸を繰り返していた。

 あたりには額や胸に穴を開けたゾンビの死体(?)が積み重なっている。


「くそ……意外と素早い上に数も多いときてやがる………」


 庸介の足元には空になったサブマシンガンが転がっている。

 入っていた弾を一瞬にして打ち出したのだろう。ゾンビから流れ出る液体が銃身に触れると、ジュワッつと音を立てて蒸発した。


「やっぱこれ、水だよなあ」


 庸介は足元の水たまりに手を突っ込んだ。

 銃を握りしめていた手に冷たい感覚が広がる。

 少なくとも、人体に有害なものには見えない。即効性がないだけかもしれないが。

 階段を上るゾンビたちの姿はない。庸介に蜂の巣にされたか、そのまま階段を昇って行ったかのどちらかだ。


「本体の所に引き寄せられているのか、もしくは…………」


 本体から遠ざけているのか。

 庸介は考える。

 考えて、考えて、諦めた。


「ごめん慎一郎、俺頭脳労働は無理っすわ」


 そして庸介は非常階段へと出た。上の方にゾンビの姿が見える。

 しかし、庸介はゾンビとは逆方向、つまり下の階に向かって階段を降り始めた。


「上には慎一郎も紫苑もいるし、大丈夫っしょ!」


 二段飛ばしで階段を駆け下りていく。

 カンカンと言う音に、上のゾンビたちが反応するものの、庸介の姿を確認できずに階段へと視線を戻した。


「はっはっはっは!庸介様の秘策、亜神エヴィル共に見せてしんぜよう!!」


そう叫んだ庸介は、らせん状の階段の策に飛び乗り、勢いよく空中に飛び上った。


「ひゃあああああぁぁぁぁぁ…………」


気味の悪い庸介の叫びは次第に小さくなり、やがてズシャンと鈍い音と共に聞こえなくなった。


××××××××××


〈日和、平八郎side〉


「畜生、ここらはダメだ」


 平八郎はそう言ってポケットからたばこを取り出した。

 慎一郎らがデパートの中に消えてからかれこれ数十分。彼らからの連絡はない。

 こちらとは完全に隔離された領域エリアの中にいるのだから、それはむしろ当然のことだ。

 外に残った二人は、領域エリアを張った亜神エヴィル達の情報を集めるべく、行動していた。

チッチッ


「ダメって、どういうことですか?」


 日和は平八郎に聞く。彼はついさっきまでこのデパート周辺での目撃情報を探していた。

 東京に出没する亜神エヴィル達は、皆一様に数人に目撃されている。元々隠れるつもりがないせいだろうが、これは日和たちにとって大きな情報だ。

 その姿や行動を調べることで、どのタイプの亜神エヴィルかを調べることができる。

 しかし、今回はそう上手くはいかない。


「どいつもこいつも噂すら聞いたことがないとさ」


 煙と共にため息を吐き出す平八郎。


「流石はレベルAの亜神エヴィル、といったところでしょうか」

「これだけ歩き回って収穫ゼロとは………疲れ倍増だぁ」


 日和も予想外の結果に少々驚いていた。

 平八郎は元々警察にいた人間だ。彼持ち前の情報網でも引っかからない噂はない。そんな彼が聞くことができなかったということは、本当に噂になっていないのだろうか。


『いえ、噂は広がっていた模様です』


 突然、二人の会話に割り込む声がする。合成音声による機械的な声。

 日和は車に据え付けの通信機に目を向けた。

 通信機は着信のランプが灯り、画面には《B-controller》の文字。


ブレイン・コントローラー…………)


チッチッ


「………《洗脳師センノウシ》ですね、こちら第七支部小車です」


 通信機のマイクに向かって話しかける。


『第七支部、オグルマ……認識しました』


 無機質な声が二人の耳に響く。

 《洗脳師》。その名の通り、人の精神に干渉し、記憶の確認、改ざんを得意とする《機関》所属の神殺しレべリオンだ。


「広がっていた、とはどういうことでしょうか?」

『言葉通りの意味ですよ、オグルマ』


 日和の言葉に淡々と答える。人間と話しているのか疑いたくなるような機械的な話し方に、日和は居心地の悪さを感じた。


「第七支部の金銀木だ、もしかしてあんた、既に記憶を《削除》しちまったってことか?」


 日和は平八郎の言葉を疑った。


「えっ?」

『第七支部、キンギンボク……確認しました』


 《洗脳師》は日和と同じく冷静に平八郎のデータを取り出す。


『キンギンボク、その通りです。私が彼らの記憶に手を加えました』

「なぜです!?」


 マイクを今にもへし折りそうなほど握りしめ、日和は叫んだ。普段のおっとりした彼女からは想像できない剣幕だ。


「目撃者以外の記憶の改ざんは禁止ではないんですか!?」

「おいっ!落ち着け!」


 平八郎が周りの視線に気付き、車の扉を閉めた。ちょっとした防音機能付きなのだ。

 日和はそれも気にせず、画面の向こう側の相手に食って掛かる。

 それでも《洗脳師》は動揺したそぶりを見せない。


『今回の事例はレベルAと判断されています。これにより、《機関》本部長が判断されました』

「本部長が………?」


 本部長。《機関》の上層部に存在する席の一つだ。主に支部の管理を任されている。


(そんな上の人間が……なぜ?)


「本部長と直接話すことは可能ですか?」

『許可できません、今はこの事例の解決を急いでください』


 日和が何か言う前に、『以上です』と、通信は強制的に切断された。

 日和は、苛立たしげにマイクを運転席に投げつけた。

 マイクは運転席の強化ガラスに当たり、鈍い音を立てて床に落ちた。

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