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Last EVIL - for fear -(更新停止)  作者: 山茶花久
二章「デパート襲撃」
14/17

department of the dead

振り返り(適当):新たな敵はチャラ男な亜神、《壁蝨》!

負けるな、慎一郎!

戦え、紫苑!

単独行動は死亡フラグだ、庸介!

 コモンデパート五階、紳士服売場。

 スタッフや客でにぎわっているはずのそこには、無数の死体が転がっていた。

 その全てが体のどこかに穴が空き、前進の水分という水分を抜かれ、今にも崩れ落ちそうだ。

  そしてその惨状の中に立つ三人。一人は隻腕の男。一人は刀を腰に差した女。そしてもう一人はレジの上で仁王立ちする全身真っ赤の男。


「ヒャハッ!はじめまーしてっ」


 妙に甲高い声を上げる。

 赤いジーンズに赤いロングコート。下には何も着ていないため、男が動くたびにコートの下から腹筋が見え隠れする。

 髪も赤いので見ているだけで目がチカチカする。


「起きろ、スカル」


 相手が一般人ではないと分かり、慎一郎は腕を発動させた。

 バチンと慎一郎の肩のあたりで放電が起こる。

 肩口から垂れ下がっていた上着の袖が波打ち、内側から引き裂かれた。

 中からは赤黒い霧が吹き出る。霧は次第に異形の腕へと形を整えていった。


『ぎゃはははははっ!!呼ばれて飛び出てってかぁっ!?』


 デパートの中にスカルの笑い声が響く。

 紫苑も抜刀。身の丈の半分ほどの刀身が現れる。


「ちょっとちょっとぉ、そんなにカリカリすんなよぉ」


 戦闘態勢に入った二人を見ても、《壁蝨ダニ》と名乗った亜神エヴィルは特に動揺する素振りを見せない。


「俺は仕事ついでに挨拶に来ただけだってぇ」

「……仕事?」

「そ、仕事仕事!俺ってばマジメだから!」


 首を傾げる紫苑に手を振って答える。何が気に入ったのか、さっきから《壁蝨》は紫苑ばかりに話しかけているようだ。


「なんの仕事だ?」


 慎一郎が《壁蝨》に話しかける。すると、《壁蝨》は紫苑と話すときとは打って変わって凄まじく嫌そうな視線を向けてきた。

 イケメンなどと言われそうな顔、その額に青筋が浮かんだ。


「あんですかぁ?それは俺とぺったんチャンとの時間を無駄にしてまでする話なんでしょうねぇ!?」


 敵意、というか殺意まるだしで慎一郎を威嚇。


「…………ぺったんって?」

「気にするな」

『なんだコイツ、趣味の悪い服来てやがるぜ!』


 空気を読まないスカルの言葉に、《壁蝨》の青筋が増える。漫画のように血が吹き出そうだ。


「俺のファッションセンスがなんだってぇ!?」


 《壁蝨》は近くの買い物かごを壁叩き付けた。

 プラスチック製のかごはコンクリートの壁にぶつかり、ぐしゃりと潰れた。


「ったく!なんなんだよてめぇ!!」


 今度は足下のレジを蹴りつけた。亜神エヴィルの強力な蹴りでレジ台はみるみるスクラップとなり、床に落ちた。

 マイクから流れる流行の曲が垂れ流されるフロアに、その音は嫌に響く。


「まあ、いいですよ!どうせ後で殺すから!」


 そう言って《壁蝨》は身を翻してレジから飛び降りた。そして階段に向かって走る。


「っ待て!」


 《壁蝨》を追って階段に向かう。


「ヒャハ!俺にばっかかまってていいのかなぁ!?」


 《壁蝨》はちらりと慎一郎を見、下品に笑う。

 慎一郎がその言葉の意味を理解する前に、慎一郎の足を何者かがつかんだ。


「くっ!」


 すぐにふりほどくが、勢い余って床に転がる。


「…………慎一郎!」

「ぺったんチャン!またあとでねぇー」


 その言葉を最後に、《壁蝨》は上の階へと姿を消した。


『ぎゃはははははっ!シンイチローかっこわりーっ!!』

「っ・・・黙れ」


 うまく受け身をとり、転がった勢いで起きあがる。その慎一郎と退治するように起きあがる者がいた。


「噂のゾンビの正体……か?」


 《壁蝨》の攻撃によって死んだはずの店員、客。その全てがむくりと起きあがってくる。

 血を吸われ、カサカサになっていたはずの肌は青白く濁り、不気味に膨れていた。

 血液以外の何かが血管を通っているらしく、肌には生前のみずみずしさを取り戻していた。決して健康には見えないが。

 眼球は、正常な状態とは思えないほどせわしなく動き回っている。しかし、慎一郎と紫苑を見ると、急にその眼が停止する。

 フロア全体のゾンビたちははっきりと慎一郎と紫苑をターゲットとして認識し、二人に近づいていた。


「…………大丈夫?」

「ああ、すまんな」

「…………気にしない」


 紫苑が慎一郎に掛けより、慎一郎の死角をカバーするように背中を合わせた。


『さてぇ!?ゾンビ狩りの始まりだぁ!!』


××××××××××


 慎一郎達がゾンビと接触する数分前、庸介は階下の雑貨コーナーにきていた。


「…紫苑、ちゃんとやってっかなあ……」


 庸介が単独行動を名乗り出たのはもちろん気分的なものではない。

 紫苑が慎一郎をどう思っているかぐらい庸介程度の頭でもわかる。

 のんきに他人の心配をしながらも視線は周囲の様子をうかがっている。


「なんか…人が少ないかな?」


 庸介の言う通り、一階や五階と違って人の姿が見えない。

 明かりは付いているし、新商品の説明を繰り返す映像も動いているが、それを見る人間がどこにもいない。

 念のためスタッフルームものぞいてみる庸介だったが、結果は変わらなかった。


「みんなゾンビになっちまった…とか?」


 それにしたってそのゾンビすらいないのはおかしい。

 庸介は頭は悪いが鼻は利く。

 ゾンビがいれば腐臭や血の香りがあってもおかしくはないのだが、鼻にはそのような臭いは漂ってこない。

 隠れていることも考慮し、三度目の正直だとばかりにマシンガンを構える。

 フロアを一周し、ついでに階段を確かめた。


「あとは…ここだけだな」


 庸介はエレベーターの前に立つ。ここのデパートはエスカレーターが三階までしかない。

 何かがくるとすれば、階段かエレベーターのどちらかだ。


「……」


 とりあえず、庸介は上へのボタンを押す。何もなければそのまま上へ行き、慎一郎たちと合流するつもりだ。


「あれ、俺って結構有能?」


 そのセリフは有能からは程遠い。

 残念ながら、そんな庸介の考えは崩れた。

 なめらかに四階へ到着した最新式のエレベーターは、音もなく扉が開く。 そこには客と思われる四人の男女がいた。


(またかよっ!!)


 あわてて銃を《しまう》。

 ごまかすように口笛を吹きながらエレベーターに乗り込もうとする陽介は、中の四人の奇妙な行動に気付いた。

 四人とも帽子をかぶっているので目元を確認することはできなかったが、誰もが時折痙攣するかのように体をふるわせている。

 口はだらしなく半開きになり、首吊り死体のように舌を出している者もいた。

 そして全員が、青白い肌を持ち、体全体が水を含んだスポンジのごとく膨れていた。


「な、なんだぁ?」


 庸介はエレベーターに踏み込もうとした足を引っ込める。センサーが庸介の行動を感知して扉が閉まっていく。

 扉が閉まり、四人がやっと見えなくなろうとしたとき。


ガリィッ!


 扉と扉の隙間に誰かの指が挟まる。


ギギ…ギギィィ………


 指は、庸介の目の前で少しずつ扉をこじ開け、再び四人が庸介の視界に現れた。


「……キモッ!」


 隠れていて見えなかった八個の視線が庸介に集まった。

 瞳孔が開ききっている瞳は血走り、一度は庸介を見るが、すぐに視線はそれて別の場所に移る。

 それらは数分後に慎一郎等が目にするゾンビ達そのものだった。

 ゾンビ達はゲームさながらにゆらゆらと庸介に迫ってくる。


「…マジでゾンビかっ!!」


 庸介はもう迷わない。マシンガンを構え、引き金を引く。


ズダダダダダダダダダダダダダダ


 拳銃とは違って軽い音が響く。

 前にいた二体は銃弾の雨を浴び、血の代わりに透明な液体をまき散らして倒れた。


「ちょ、そもそも人間なのかこいつら!?」


 しかも倒れた二体も這うようにして庸介に接近してくる。

 庸介は少し驚いたものの、頭、心臓、脚を撃ち抜く。ゾンビは謎の液体まみれになって動かなくなった。


「おお!ゲームと同じ構造なのか!?」


 後退しながら庸介は残った二体にも銃弾を浴びせる。者の十数秒で動く者はいなくなった。

 庸介は小さくため息をつき、弾の少ないマシンガンを《しまう》。


「ちゃらららっちゃらー!ワルサーP99!!」


 そう言って拳銃を取り出す。


「ついでにベレッタちゃんも」


 開いた手には別の拳銃。


「やっぱり二丁拳銃はロマンだよねー」


 そう言って銃弾を確認する。

 しっかり弾が入っていると分かると、エレベーターのボタンを再び押す。

 しかしエレベーターは最上階へ行ってしまっているため、戻ってくるまでの間、庸介は暇になった。

 庸介は目の前に転がる透明な液体で濡れた死体を調べる。

 死んでから時間がたっていないせいか、まだ腐臭はしてこない。

 死体から流れ出る液体を見て、庸介は気づく。


「………これ……水?」


ギギギギギィ………ガリガリガリ…………


 庸介が液体を調べようと死体を覗き込んだとき、再びフロアの奥から物音がする。

 庸介は死体から出る水を気にしながらも、拳銃を手に取る。


「今度はなんだよ………」


 物音はフロアの端から聞こえる。

 庸介は棚を盾にしながら、次第に音のする場所に近付いていった。


「……チッ」


 音の正体を見つけ、庸介は舌打ちをした。

 そこは非常階段。デパートの外に付いている鉄製のもの。

 今、そこにはさっきのゾンビが群れを成してひしめき合っている。

 腕時計やらネックレスやらが壁にあたり、ガリガリと金属音が出ている。庸介が聞いた音だ。


「ここの存在を忘れてた………っ」


 フロアと階段を挟む扉は開きっぱなしになっていて、上へと昇る集団とフロアに入ってくる集団に分かれ始めた。

 フロアに入ってきたゾンビたちは、目をぎょろつかせながら庸介に向かってくる。


「……単独行動とか…やめときゃよかったぜチクショー!!」


 庸介が叫び、二丁の銃口から鉛玉が飛び出した。

最初はミイラの予定でした。

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