第七支部
振り返り(適当):ニューヒロイン登場!そして、うさんくさそうなおばさ……お姉さん登場!
「さて、報告を聞かせてもらおうかしら?」
そう言って初伊は椅子に座りなおす。
吸っているたばこの臭いが慎一郎のところまで漂ってきた。それに顔をしかめながら、慎一郎は口を開いた。
「報告は小車が提出してくれているんじゃ?」
「彼女はちょっと今手が離せなくてね、報告をさせている場合じゃないのよ」
言いながら、初伊は灰皿にたばこを押し付け、また新しいたばこを取り出す。
「……危険レベルB、発生場所は明比高等学校、出現個体は三体です」
一応頭に入れておいたデータを羅列する慎一郎。普
段報告などはしないため、細かい作法が分からないのだ。それを知っている初伊も特に突っ込むこともなく慎一郎の話を聞く。
「個体名は《美食家》、《隠者》、《冬虫夏草》。《冬虫夏草》のみが《支配型》で、後は《独立型》でした」
「《支配型》が《独立型》と手を組んでいたの?」
「いえ、《支配型》に利用されていた、といった風でした」
驚いた初伊に、慎一郎は付け足した。
文字通り単独行動の《独立型》、能力で相手をコントロールする《支配型》など、亜神にもいくつかの種類がある。
同じ種族同士で行動するという記録は多いが、それぞれの種族同士はあまり仲が良くない。
たとえギブ&テイクの関係であっても、滅多に協力しない。
「《美食家》は元からデータを取ってある個体だけど、《隠者》と《冬虫夏草》は初めて聞く名前ね」
「《隠者》は物体の影に隠れて移動する能力を所持していました、《冬虫夏草》は生贄にした相手の体内に潜伏し、一定時間後に出現するタイプのようです」
生贄とは、亜人、特に《支配型》にコントロールされた生き物の総称である。
こうなると自我は失われ、元の状態に戻ることはない。
「あともう一つ……」
慎一郎は報告を続ける。しかし、入り口をノックする音がそれを遮った。
「どうぞ」
「…………失礼します」
初伊の了承を聞き、入ってきたのは一人の女性。
クセのある黒髪を高い位置でポニーテイルにしている。
女性にしてはかなり大きく、庸介と同じくらいだ。かなり整った要望だが、そのジト目のせいか若干眠そうに見える。
格好はいかにも大学生というものだが、腰に差している大ぶりの日本刀がそれを台無しにしていた。
「紫苑か、しばらくぶりだな」
「…………あ…慎一郎」
ゆらりと慎一郎に顔を向け、あいさつのつもりなのか、右手をあげて見せた。慎一郎も手をあげ返す。
彼女は衣川紫苑。慎一郎、庸介と同じく、この第七支部のメンバーである。
「室長、どうして紫苑を?」
慎一郎は初伊に視線を戻す。この第七支部では二人一組での行動が基本だ。
「ああ、それなんだけどね」
初伊はそう言って気だるげにたばこの煙を吐き出した。
「レベルAの事件が発生したわ」
××××××××××
「レベルA?かなり久しぶりですね」
初伊の言葉を聞いても慎一郎の口調は変わらない。
横の紫苑も、言葉の意味を理解しているのかいないのか、ぼんやりと初伊に視線を向けている。
ちなみに庸介はまだ喋らない。視線を下に向けて押し黙ったままだ。
「……あなたたちだとリアクションが乏しくて緊張感が出ないわね」
「そう言われましても」
「…………ん」
同意、というように紫苑が首を縦に振る。
「……まあいいわ、詳細はもうハチさんに伝えてあるから、直接聞いて」
じゃ、行ってちょうだい、と初伊は手をたたく。
紫苑と庸介はすぐに室長室を出ていくが、慎一郎はそこに残っていた。
「どうしたの?」
「…いえ………」
何かを言おうとした慎一郎だったが、諦めて部屋を出た。
部屋の外では庸介と紫苑が、「仮眠室」と書かれた部屋に入っていくところだった。慎一郎もそのあとに続く。
仮眠室の中は、廊下や室長室とは打って変わって小奇麗に掃除されており、向かい合ったソファや業務机など、仮眠室というより応接室のような様子になっていた。
そこには古いトレンチコートにハンチング帽を持った初老の男性が立っていた。
「よう、若造ども」
気さくに三人に笑いかけてくる。
温和というか、とっつきやすいという印象のこの男は金銀木平八郎。第七支部の最年長者である。
「お久しぶりです、ハチさん」
「…………どうも」
「どもー!」
三者三様の応対をする。いつの間にか庸介もいつもの調子に戻っていた。
「お前、相変わらず室長室だと元気ないな」
「しょ、しょうがないだろ!たばこ駄目なんだから!!」
不満そうに言う庸介。
このチャラ男、髪を伸ばし、オレンジに染め上げているような外見のくせにたばこにはめっぽう弱いのである。吸うのもダメだし臭いも嫌い。
室長室であんなに静かにしていたのも、極力呼吸を減らしてたばこの臭いを吸わないようにという涙ぐましい努力の結果だった。
「…………庸介が室長と話してるの、見たことない」
紫苑の言う通り、慎一郎さえも庸介と初伊の間に会話があった記憶がない。
「それは室長が室長室にいるのが悪い!!」
よくわからない理屈をこねる庸介。そんな三人に平八郎の声がかかった。
「若造、談笑もいいが、今回はちょっと急ぎの用だぞ?」
白髪交じりの平八郎の言葉には、不思議と年長者の重みが入るのだろうか。三人は即座に出発の用意を整え始めた。
「今回はレベルAだそうですね」
懐にナイフをしまいながら、慎一郎は平八郎に尋ねた。
「ああ、何でも二つ隣の駅近くのデパートがやられたとかなんとか」
「二つ隣ってことは……コモンデパートっすか!?」
俺ポイントためてたのにーっ!と頭を抱える庸介。
「今ヒヨちゃんが見張ってるから、俺らもすぐに行くぞ」
平八郎は庸介の悶絶をスルー。
「作戦名は…………デパート奪還大作戦だ!」
そして放たれた作戦名に、三人の若者の手が止まる。
デパート奪還大作戦?
(ひねりがなさすぎるな)
(…………なんで「大」をつけたんだろ)
「古くせぇ……」
慎一郎、紫苑、庸介と各々の感想を出した。庸介だけは口に出した。
ズダン!
瞬間、庸介の頬をカッターナイフがかすめた。
「因みに、名前を決めたのは私よ」
「「「!?」」」
気が付くと、仮眠室の前には初伊が立っていた。手にはカッターが握られている。
一見笑顔だが、額に青筋が幾つも浮いている。
「古くさい……って聞こえたんだけど?」
「…………!」
その視線は、殺気を含んで庸介に向けられていた。
しばし、沈黙が流れる。
「…………い」
「い?」
「いってきまあああああすっ!!」
叫ぶが早いか、庸介は初伊の脇をすり抜け、一目散にエレベーターへ飛び込んでいった。
それを無言で追いかける初伊。ただの人間とは思えない瞬発力だ。
間一髪、エレベーターが閉まる瞬間に中に滑り込み、慎一郎の視界から消える。
「い、いやあああぁぁぁっ!!」
庸介の悲鳴と共に、エレベーターはゆっくりと上がっていく。やがて悲鳴は聞こえなくなった。
「あー、俺たちも行くか…………」
仮眠室に残された平八郎が言い、二人はそれに従う。
廊下を歩いているとき、紫苑がぼそっと呟いた。
「…………初めての会話」
投稿が遅れてしまいました。すいません。
これからもペースは変えないつもりなので、次回は明日投稿する予定です。
キャラが増えて名前が覚えにくくなってきました……