表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
86/124

その剣の意味(17)

ちょっと短いですが投稿します。

 グラムベルクの夜は遅い。駅近くの繁華街は、真夜中過ぎまで人であふれている。両肩を支えられつつ、血の気のない顔で歩いている若者がいても、酔い潰れているようにしか見えまい。


「アンコールはいつも通り『ハートゲイザー』か。いい曲なんだがな。また次の機会にするしかねえか。休み取るの大変なんだよなあ。……おい、いつまで寄りかかってんだ。一人で歩けや」


 カイラルの体は、人気のない路地に放り捨てられた。こらえていたものが弾け、溜め込んでいた酒が戻される。セリアはカイラルに駆け寄りつつ、ザトゥマを睨みつけた。


「卑怯者」

「あ?」

「邪魔はしないと、言ったはず」

「だからしてねーだろ、『ライブの邪魔』はな。だがお前らに手出ししないと誰が言った? それとも何? 俺ってばそんなに信用されてんの? 光栄だねえ」


 万歳の格好でへらへらと笑うザトゥマ。しかし殺気は微塵も薄れていない。


「俺だって、ただライブを楽しみに来たんだぜ。それなのにどいつもこいつも、甘っちょろいこと言いやがって。そりゃあ気分も悪くなるってもんだ。おかげでつい手が出ちまった」

「……糞野郎」


 荒い息をつきながら、カイラルは立ち上がった。セリアを後ろ手にかばい、殺人鬼と対峙する。得物はホールに置き去り、ナイフも持っていないから、二人とも丸腰だ。この男がセカイ使いなら、セリアは前に出せない。自分が盾になるしかないのだ。


「あんた、純粋にあいつらが好きだって言ったよな。それも嘘か」

「ああ、好きだぜ。女としても、バンドとしてもな。でもよ、あんな寸劇は期待してねーんだわ」


 なるほど。純粋に、という部分は間違っていないのかもしれない。偶像は偶像たれ。思想を掲げ、民衆を煽り、復興の旗印となる必要はない。一人の常客の意見としては認められるべきだろう。活動を妨げてよい根拠にはなりえないが。


 四人はリバーブルグの崩壊によって今の立場まで落ちた。街の復興は自分達の復活でもあるのだ。己の姿を街に重ね、いつか再び羽ばたく時が来ると信じて、懸命に生きている。それが気に入らない、とザトゥマは憤る。


「一度落ちちまった人間が、そう簡単に這い上がれるわけがねえ。滅んだ街があっさり復活するわけもねえ。滾るんだ。ぞわぞわするんだよ。あの希望に満ちた目を見てると」


 ザトゥマは震える両手を見つめた。


「全部ぶっ壊して、目から光を奪って、俺と同じ側に引きずり込んでやりたくなる」


 狂った笑みはすぐに粉砕された。全力で放たれた拳が、殺人鬼の顔を殴り飛ばしていた。カイラル自身も知らぬうちに、全身から黒い霧が溢れ出している。感情を抑えろと言う方が無理だ。今すぐにこの外道の口を塞いでやりたかった。


 ザトゥマは大の字で転がったまま、しばらく動こうとしなかった。やがてよろよろと立ち上がると、


「そういや、この前はてめえとやらずじまいだったな」


 血を吐き捨て、左の頬へ手を添えた。殴られた場所が痣のように黒く染まっている。手でこすると、痣は肉を焼くような音を立てて消えた。痛え、とつぶやき、構えを取るザトゥマ。手招きすると同時に、強い閉塞力が解き放たれた。


「来いよ穴掘り野郎。よちよち歩きの主人公がどこまでやれるか、俺が試してやる」


 争いを避けるという選択肢はあった。背後に走れば大通りはすぐだし、この男に付き合う義理などない。何より、セリアを守りながら実力の知れない相手と戦うなど。尻尾を巻いて逃げても恥にはなるまい。身の安全を考えるなら、それが確実なのだ。


 しかし、カイラルは戦いを選んだ。漂う死の気配の中で確信していた。この男が、自分の物語における最大の敵の一人になることを。故に、ここで決着はつくまい。この先きっと、幾度も刃を交えることになる。だからこそ今戦う。自分の力がどこまで通用するのか、敵の手の内をどれだけ明かさせらるのか。誘いに乗ってみるしかない。


 目で促すと、セリアは頷いて下がった。ご武運を、と小さく言っていた。ザトゥマを死の気配が取り巻いているのが見える。黒い影が斑に広がり、相手の隙を浮き彫りにする。カイラルは拳を振りかぶって突進した。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ