表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
69/124

ある商人の記録・6

「職業に貴賎というものが存在するのであれば」


 尼僧は緑茶をすすりながら言った。


「人を生かす職業は、誰もが尊ぶことでしょうね。人を弔う職業もまた同じ。私もその端くれですが……では、人を殺す職業は?」


 商人はすぐには答えなかった。しばらく腕を組み、考える。そのふりをしていた。頃合いを見計らって、軍人や警察官ならやむを得ない場合もあるだろう、と答えた。尼僧もまた黙っていたが、やがて薄く笑った。


「余計な手間をおかけして申し訳ありませんね」


 商人はぎくりとした。が、そう来るだろうなとも思った。見透かされていないはずがないだろう、この女性には。


「関係あるようで関係ない答え。話題の逸らし方としてはまずまずですが……逃げてはいけませんよ。今こんな話題を振ったのですから、先程の話に絡んでいるに決まっているじゃないですか。口にしたくないのはわかります。ええ、十分にわかりますとも。ですが、そういう職業は確実に存在するのですよ。まあ、都市同盟は禁じているようですがね。ああ、一都市だけ存置しているところがありましたっけ?」


 商人は汗を拭きつつ頷いた。


「各都市の独立性の強さ故、ですか。それがこの国のいいところであり悪いところであり、あの災害の後始末には、いい方向に作用していたと。おかげでこの街はあっさりと見捨てられたわけですが」


 尼僧の勧めに従って、商人は水に口をつけた。別にこちらを責める意図もないのだろうが、どうにも気圧されてしまう。


「首切り役人、人斬り包丁、神罰の代行者……色々と呼び名はありますが、結局は殺人者なわけです。殺人者に違いはありませんが……それは法の内のことなのです。法に認められた殺人者。法に則った行いに、何ら罪のあるはずもない。さて、彼らは貴き者でしょうか? それとも、賎しき者でしょうか?」


 ここで答えられるなら、先程ごまかしてなどいない。そもそも自分は、商売のつてを求めて非合法組織に接触した人間なのだ。他人の行いにとやかく言える立場ではないだろう。それを察したのか、尼僧も「やめましょう」と言った。「私も半分以上は賎しい側ですから」と。


「そう、法です。規則です。決まりです。お約束事です。守らなければなりませんね。例えそれが、どんなにねじ曲がったものだとしても。私達が、枠組みの中で生きていくのであれば。私生活でも。学校でも。職場でも。……物語を進める上でも」


 休憩は終わりだな、と商人は思った。まったく休めた気がしないが。


「少年は戦うことを決意しました。どうすればいいのかはわかりませんが、とにかく決めました。その矢先に新たな事実を突きつけられてしまいましたが。彼がこの先、思うように話を展開させるためには、学ばなければなりません。物語の動かし方を。立ち回りというものを。……その辺りも、話していきましょうか」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ