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介入の狼煙(13)

 シャロンがいた廃墟の辺りに戻ってきた時である。


 角を曲がった瞬間、カイラルは殴り飛ばされた。


「勝手な行動は許さないって言ったわよね」


 キエルの爆発寸前の形相がそこにあった。


「ミンツァーの挑発にまんまと引っかかって。こんな見え透いた罠に」

「……悪かったよ」


 頬をさすりながら立ち上がるカイラル。こうなることはわかっていた。組織としての命に背いたのだから、殺されようが文句は言えない。しかし、「でも」という言葉が口から出た。


「あんただって結局間に合わなかったじゃねえか。俺が行かなかったら、セリアはどうなってたんだよ」

「それは……まあ」


 キエルはばつが悪そうに目を逸らした。何かあったな、とカイラルは察した。この女に限って、単なる遅刻があるものか。そういえば、ダウルに会いに行っていたはずだ。ペリットも何やら妙な様子だった。問い詰めるべきか、カイラルは迷った。


「そう責めないであげてくれ。私の都合で『待ってもらって』いたんだから」


 廃墟から出てきたのは、ミンツァーであった。ザトゥマもいる。カイラルとセリアは咄嗟に身構えた。


「ああ、安心してくれ。もう戦う気はない。シャロンとナクトも先に帰した。そちらのお嬢さんが怖がるといけないからね。無礼を働いてすまなかった」

「よかったな。これでこの間の件はチャラだとよ」


 ザトゥマがにやにやと笑う。あのごろつきどもを殺して埋めたことを言っているのだ。どこかほっとした自分に、カイラルは腹立たしさを覚えた。


「先日の件で、君がセカイ使い化したことはわかっていた。その力の性質もな。それを少し試させてもらっただけさ。まあ、予定とは違った流れになったが、それも含めていい勉強をさせてもらったよ」


 ただの遊びや腕試しとは呼べない。セリアを拉致したのは、彼女がカイラルにとってどういう存在か、確かめる意味もあったのだろう。すべては物語の主導権を得るために。ハイリの乱入も、視野から外れていた要素を早めにあぶり出せたという点で、何一つマイナスになっていない。


 すでに一手先を行かれている。キエルの腹立たしげな視線が痛かった。


「しかし、あの鎧を撃退したのは見事だった。ここからでも、君の迸る力が感じられたよ。これなら十分当てにできる」

「何が言いたいんだ」

「我々は、あの【穴】の先へ進出する」


 何を言っているのかと思った。数秒後、その意味を理解した時、カイラルの頬を汗が伝った。


「君も世界の構造を知ったなら理解できるだろう。あれはセカイの傷跡なんだよ。十年前に開いた傷が、塞がりきらずに残っているんだ。しかるべき力を持った者がそろえば、こじ開けることは不可能ではない」

「こじ開けて、外に出て、どうする」

「決まっている」


 ミンツァーは両手を掲げ、天を仰いで言った。


「この世界を制御している連中を打倒し、【閉塞世界】を破壊する」

「それで俺に協力しろってのか。そんな滅茶苦茶な……」

「そうかね。お嬢さんは興味を示してくれたようだが」


 カイラルは横を見た。セリアははっと顔を背けた。その目がぎらぎらとした輝きをたたえていたのを、カイラルは見逃さなかった。剣の柄を握る手にも、青い筋が浮いていたような。


「自覚に乏しいようだから言っておこう。君は【セカイの中心】だぞ? そういう展開を君が望めば、可能性はいくらでも生まれるのだ。それはれっきとした世界のルールに則った行いだ。まあ、システムの不具合だからと力ずくで止めにかかってくる可能性もあるが……なるべく穏便に、無理をしない方向で来るだろう。君が選ばれたこと自体が、この世界が破綻をきたしていることの証明なのだから。よしんば今の事態が何らかの意図によるものだったとしても、結局は同じだ。奇策というのは、追い詰められている状況だからこそ打つものではないかね」


 敵は余裕を欠いていると。こちらに流れが来ているのだと。誘惑するようにミンツァーが語る。


「そう、今こそが好機だ! 連中はこの事態でも、正面から物語の展開で勝負してくる! これは千年ぶりにやってきた反撃の機会なんだよ! いや、別にそこまで大きく考えてくれなくてもいい。君自身の興味の及ぶ範囲で構わない。君も知りたいだろう。十年前、何があったのか。誰がそれを引き起こしたのか。……自分にかかっている呪いが何なのか」


 カイラルの眼前をあの光景がよぎった。頭痛をこらえているのがわかったのか、ミンツァーが嫌らしく笑う。


「まあ、今すぐどうこうという話じゃない。我々も準備が間に合っていないのでね。君もしばらく考えておくといい。【セカイの中心】として、自分が何を成し遂げたいのか」


 言いながら背を向けるミンツァー。その背中に、何か得体の知れない影が取り憑いている。カイラルにはそう思えた。ただの嫌味な金持ちの二代目だとしか思っていなかったが、どうやら途方もないことを考えていたらしい。


「近いうちに一度調査に出る。その時は声をかけさせてもらおう。では」


 ザトゥマを伴い、ミンツァーは手を振って去っていった。


 キエルがぼやく。


「どうしようかしら」


 嵐が去って力が抜けたのか、怒りも苛立ちも消え失せていた。セリアは、わからない、とでも言いたげに首を振った。カイラルは腹に手をやって答えた。


「とりあえず……昼飯だな」


 太陽はすでに、午後の傾きに入っていた。

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