表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
61/124

介入の狼煙(8)

「強いな」


 ザトゥマが舌なめずりをする。ナクトを一蹴した鎧騎士を見て、欲求が膨れ上がってきたようだ。


「だけどどうすんだ? いきなりのイレギュラーだぜ」

「ふむ。困ったものだね」


 わざとらしく肩をすくませながら、ミンツァーは廃墟の折れた柱に腰を下ろした。困ったとは言うが、焦る様子は少しもなく、この状況を楽しんでいるようですらある。窓からは、少し離れた場所で気絶しているナクトと、鎧騎士に槍を突きつけられるシャロンの姿がうかがえた。


 ミンツァーの目論見は、カイラルを危機に陥れて、セカイ使いとしての覚醒を促すことにあった。あの娘を拉致してカイラルをおびき寄せ、ナクトなりザトゥマなりに相手をさせる。そうすれば嫌でもカイラルの力は引き出される。そう踏んでいた。


 不安要素があるとすれば、母親の存在だったのだが、


(なかなか追いついてこないな)


 どうやら『協力者』が上手く足止めしてくれているようだ。無論、狙ってやったことだが。


 いささか強引ではあるが、そうでもしなければ物語はいつまで経っても進行しない。キエルは明らかに、カイラルを戦闘から遠ざけるつもりでいる。それではミンツァーの筋書きに差し支える。同じ閉塞世界に仇なす血筋でありながら、両者の立場は割れていた。


(君は甘すぎるんだ。そうそう簡単にはいかないことを教えてやる――と言いたいところだったが、私も少しばかり舐めてかかっていたようだな)


 ともあれ、この程度は予想の範疇。もうしばらくはシャロンに任せるのがいい。


 それにしてもこの一件、不可解な点が多い。『協力者』に預けた彼によれば、先日の崩壊に巻き込まれた全員が【森の魔女】の血縁者だという。そしてあの娘は、極めて特殊な身の上だとも。事実シャロンが言うには、娘からは閉塞の力が感じられないらしかった。極めて近い気配はあるものの、セカイ使いとして目覚めてはいないのだ。


 その娘が『偶然』このセカイにやってきた――。


(老害どもめ。何を企んでいるのやら)


 この物語の真の鍵とはカイラルではない。あの娘だ。だとすれば、彼女を懐柔しつつあるカイラルは、絶大なアドバンテージを得ていることになる。それをどう活かすかで、今後の展開は変わるだろう。


 窓の外に目をやると、変わらず鎧騎士とシャロンが対峙していた。


「ザトゥマ、向こうばかりに目をやるな。警戒を続けろ」

「同じようなのがまだいるってのか?」

「先生に預けた彼のこともある。どこまでキャストが増えるか予想はつかんよ」


 つまり、今後もさらなるイレギュラーの発生を考慮に入れねばならないということ。


 膠着状態のまま五分が過ぎようとしている。ザトゥマはいい加減痺れを切らし始めた。


「何やってんだシャロンは。俺が出てもいいか?」

「気が早いな。主役の登場もまだなのに」

「今更出てきて何ができるってんだ。遅すぎんだよ」


 ザトゥマの舌打ちを尻目に、ミンツァーは窓の外を注視していた。


 まだ力を使いこなせていない分、事態の進行に遅れを取っている感はあるが、セカイの中心はあくまでカイラルなのだ。余程のことがない限り、カイラルは常に事態の只中にいるはず。つまりこの重大な局面で『遅刻』はありえない。問題はその後どうするかだが。


「来た」


 遠くにちらついた、小さな黒い点が大きくなってくる。シャベルを携えた少年が、全速力で駆けてくるのが見えた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ