表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
51/124

病み上がりの闇(8)

 広々としたリビングで、ビデオゲームに興じている者達がいる。壁一面を専有した大画面を舞台に、四人のキャラクターが殴り合っている。


「親父殿ー、もうちょいラッシュ手抜いてくれてもいいだろ」

「そっちこそ少し対空手加減しないか」

「何これ変なの出たんだけど」

「やめて範囲攻撃ぶっぱやめて死ぬ死ぬ死ぬ……あー」


 二人は早々に脱落してしまい、残る二人の一騎打ちとなった。ボタンを叩く音が絶え間なく響いている。その様子を、少し離れた場所で眺める者が一人。壁にもたれかかってあぐらをかき、刀を抱えていた。


「解せぬ」


 侍が呟くと同時に、画面内で決着がついた。ダウンした方がコントローラを放り捨てる。最後まで生き残っていたキャラクターの使い手に、侍は疑問を投げかけた。


「御大将。何を考えておられるのか」

「何を、とは何だ」


 対戦の勝者――ディオンは、どこまでもとぼけている。わかっているだろうに、と侍は頭をかいた。


「あの魔女の血族を別セカイに放り込んだと聞いた。理屈に合わぬ。要らぬ危険を冒すだけではないのか。そこまで状況が切迫しているとは、俺には思えぬ」


 ディオンは端末を操作した。画面が切り替わり、障壁の様子が映し出される。特に目立った異状はないが、先日の騒動のせいか、巡回しているセカイ使いの数も多いようだ。一通り確認をしてから、「その通りだが」とディオンは答えた。


「今回の結果がどうなろうと、俺は構わん」


 これにはむしろ、ディオンの隣にいた女の方が驚いたようだ。先日マリアナの救援に現れた、彼女と瓜二つの顔の女である。


「ひどい人ですこと。煽ったのはあなたじゃなくて?」

「乗れば面白くなるかもしれないと、そう言っただけだ。却下されるならそれでよかった」


 だが皆は選んだ。賭けに乗るか否かという、意図的に選択肢を狭めた問題に答えてしまった。他にも道はあっただろうに。末期症状というのはこういうものだ。どういう手段が正しいのか、もう誰にもわからなくなっている。だからこそ目の前の奇抜な案に飛びついたのだ。それこそ、発起人であるマリアナ自身でさえも。


「あいつの本当の狙いは、登場人物の回収だ。今回送り込んだ娘も、無事に生き延びたら手元に戻すつもりだろう。こんな面白い素材、手を突っ込んでくれと言っているようなものだが」

「俺を冥府の女皇のところから引き抜いてきたようにか」

「お前はむしろ放出されたのだと思うがね。……マリアナは自分の血にこだわりすぎて、この千年外の人材を入れてこなかった。それで今までは上手く回っていたのだろうが、ここにきて足枷になっている。新しい血が欲しいのだ」


 完結した物語の登場人物を召喚し、戦力として組み込む。本来この仕組みは、時を追うごとに厳しくなっていく閉塞世界の維持を、自分達で賄うために作られたものだ。しかしここ数十年、その意味合いが変わってきている。


 五人ともが見据えているのだ。閉塞世界が完成した暁に起こるであろう、頂点を決めるための戦いを。そのための戦力の確保を。これまでは穏便にやってきたが、マリアナはなりふり構わない姿勢を明確にした。当然、他の連中も動くだろう。


 だが、ディオンにしてみれば今更な話だ。こと精鋭の質については、確実に一歩抜きん出ている。今この場にも、四人。


 かつてセカイの中心だった者。


 セカイを滅ぼす災厄だった者。


 未完のまま忘れ去られた物語の残滓。


 そして、魔女の半身。


「これから先は、ますます争いが加速する。今回の物語にも、お前達の出番があるかもしれん。その時までは、力を蓄えておくがいい」

「……旅の途中にある者達を相手に、我らの力が必要とも思えぬが、まあよい。その時は」


 侍が刀を叩いた。


「一つの物語を駆け抜けた者の力、見せつけてやりましょうや」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ