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病み上がりの闇(3)

 長い夢の中にいた。何をするでもなく、白と黒の縞模様が流れる空間に座っていた。対峙するのは一人。大鎌を携え黒い布をまとった死神だ。


「どうした」


 先に口を開いたのは死神だった。外見よりも、ずっと人間らしい声だった。カイラルは頭を上げ、目をこすった。夢の中だというのに、やたらと眠い。


「……死んでないな、これ」

「何だ、死にたかったのか?」


 死神がけたけたと笑う。


「あんな場面で死んでみろ、お前は何もかも投げっぱなしじゃねえか。自己満足にしてもたちが悪いぜ」

「知った風なことを言うなよ」

「ああ、よく知ってるとも」


 死神が鎌の柄で地面を突いた。世界が一瞬で塗り替えられる。再現されたのはあの光景だ。廃墟の街。遠巻きに見つめる人々。死神自身は、物言わぬ死体となっていた。


 カイラルは思わず顔を背け、這うようにして逃げ出した。そこへげらげらと笑う声。振り向くと、世界は元通りになっていた。死神は腹を抱えている。


「そうら見ろ。お前はすべての出発点になったものすら克服できてないのさ。逃げ出すのは許さん。死ぬんなら抱えてるものを全部片付けてからにしてもらおうか」

「……まさか正体が死神とは思わなかったぜ」

「ああ、勘違いすんな。この姿は借り物だ」


 死神が顔を覆っている布を外した。黒い炎の中に、白い髑髏(どくろ)が透けている。本当はもっといい男なんだがな、と死神が言う。


「僕は元々お前の中にいた。そこへあの死神――閉塞世界の力が降りてきたもんだから、ちょいと混ざらせてもらったのよ。まあ、僕も『死』に属する存在だから、すんなりいったわけだ」


 ただ、それでも外部での独自性を獲得するには至らなかったらしい。いまだカイラルの内に留まる、精神の住人ということだ。


「だから今後、お前が戦いで『僕』を呼び出したとしても、話しかけたりすんなよ。それは単なる投影だから。会話するとしたらまた『ここ』に来るしかない。ま、その時は色々教えてやるよ」

「できれば二度と来たくねえな」

「僕を孤独死させようってのかい? それは無理だね」


 何故なら、カイラルは【セカイの中心】だから。物語はすでに動き始めている。あらゆる重大な出来事がカイラルを中心に発生することになる。エンディングを迎えるまで、それが止むことはない。


「僕と会わずにクリア目指すのは、相当難易度が高いと思うぜ。別にお前のプレイングを縛ろうってんじゃない、間借りしてる立場として、ヒントをやろうってのさ」


 カイラルは黙り込んだ。それで人死にが避けられるなら、何も言うことはない。死神は満足気に語り出した。


「一つ。お前は今後、全面的に閉塞世界の加護を受けられる。相当無茶をしても死にはしないし、色々な場面で無理を押し通すこともできる。主人公補正ってやつさ。……ただ、気をつけろ。あまり話を破綻させると、その歪みは全部自分に跳ね返ってくるぞ」


 トリックスターを望むならそれでもいいがね、と死神が笑う。


「二つ。お前の手に入れたのは、お前自身の命を削る力だ。だが、お前は元々この力と親和性が高いから、ある程度までは負担を抑えられる。僕の存在もあるしな。しかしこれも、調子こきすぎると本当に死ぬぜ。……『僕』が出てきたら、寿命が数年縮んだくらいに思っとけ」


 どの程度役に立つのかはわからない。役に立つ場面が来てほしくもない。だがそれは、望むべくもないのだろう。ならば、立ち向かうしかない。


 死神の話が終わったところで、猛烈な睡魔が襲ってきた。無理に顔を上げようとすると、そのままでいい、と死神が言った。


「お目覚めの時間だ。行って、安心させてやれ。あんまり心配かけるなよ」


 眠気に任せて目を閉じる。その後まだ何か言われた気もするが、よく覚えていない。ただ、再会を約束したのは確かだった。起きたら何をしようかと考えながら、カイラルは夢の中で眠りに落ちた。

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