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放たれた殺意(10)

「移動を確認後、障壁の修復を完了しました」


 マリアナは淡々と告げた。再び開かれた会議の席で、他の四人を相手に。


「そうか。行ったか」


 オズワルドが深く息をつく。壁は復活し、アルメイドの血統は異セカイへと送り込まれた。件の娘は確定として、元のセカイに帰還していない者も多数いるとのことで、もう少し数が増えるかもしれない。娘ほどの影響は与えられないだろうが。


 もう後戻りはできない。わかってはいたが、いざ状況が決まってしまうと後悔の念しか浮かばなかった。


「本当にこれでよかったんだろうか」

「議長がそれはないよ。最良の結果を出せるようにするまでさ」


 フォルスはそう言うが、これ以上何をすればいいのか。各セカイで展開する物語に大規模な干渉をすることはできない。事が上手く運ぶのを期待する他ないのだ。


「ひとまずお疲れ様、だ。どうする、何ならいい酒を開けてやるぞ」

「ふざけるな阿呆」


 まるで緊張感のないディオンに、詠子が頬杖をつきつつ睨みをきかせる。一番割りを食った挙句、マリアナに利用される形となった彼女の苛立ちは頂点に達していた。


「それはこの目論見を成し遂げた後にしましょう。早ければ数ヶ月で結果が出るのですから」

「そう都合よく行けばいいのだけれどね。案外あっさりと壁守に駆逐されているかもしれないじゃない」

「壁守に、ですか」


 それどころではない事実を、この中で自分だけが知っている。


 ヴェルニー。


 監視役からの報告によれば、あの娘を救った少年は、確かにそう名乗ったという。そして、死のセカイ使いとして目覚めたとも。


 単なる偶然とは思えない。かつて袂を分かった同志の血は、未だ閉塞世界に残されていたのだ。ありえない話ではなかった。誰も想定していなかったが。


 さらに言えば、少女を襲ったという死の風使いとは、恐らく――。


 マリアナは少しばかり昂ぶっていた。初手で定石外の手を打ったら、相手がさらにとんでもない手を打ってきたような。


 顔に出てしまいそうで、マリアナはうつむいた。


「言っておくけれどね」


 不審なものを覚えた詠子が釘を刺しに行く。


「お前が何をしようと構わないけれど、それでまたあたし達が余計な不利益を被るようなら、全力を以ってお前を潰す」


 例え閉塞世界が崩壊することになろうとも。


 死の色に染まった瞳がそう告げてきた。


 マリアナは顔を上げると、無表情に言った。ご自由に。


「さて、もういいだろう。報告も受けたことだし、終わったことを気にするのはやめよう。それより今後の計画について――」


 オズワルドが現実的な方向へ舵を切る。自分に言い聞かせるように。


 この後、会議は紛糾することもなく終わった。もちろん、全員の自重によるものではない。今は潜むことを選択しただけだ。今回のイレギュラーな事態を受け、誰もが腹に一物持っているに違いなかった。


 そして、五人が五人ともわかっていた。


 皆、他の連中を出し抜くことしか考えていないだろうと。

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