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ディサイド・フェイト・ワールド  作者: 七都
二章 ~記憶~
9/13

好奇心

 ……光? もう、朝か……。


 首を横に向けると、横のベッドで寝ていたはずのアウルはずり落ち、視界から消えている。

 ……あれ? ここどこだっけ?


 昨日素振りした後…ご飯食べて…そのあと早めに寝たんだっけ…?

 そうか、厳正さんの家の屋根裏か…

 まあいいや。そろそろ起きるか……。


 ……あ、あれ?

 体が動かない……えっ? …えっ!


「ア…アウル……アウル…!」


 なんとか声は出た。


「ん……」


 声がベッドの向こうから微かに聞こえる。

 まだ一押し足りない。


「ア、アウル…!」

「ん…。う~ん」


 ベッドの向こうから、目をこすっているアウルの顔が見えた。


「もう起きたのか…早いな。……って、起こしておいて、何で寝てんだよ?」

「いや……体が全然動かないんだけど……」


 手足に力を入れようとするが、体は全く反応したない。

 相変わらず寝ている状態だ。


「典型的な体の動かしすぎのようだな。昨日の素振りでだろう。……しかたがない」


 そう言い、立って一つ背伸びをするとこちらへ向かってきた。

 そして、私の前髪を上げ、おでこに手を当てる。


「……何するの?」

「まあ、黙って見てろ」


 そう言い、アウルは目を閉じる。


「 体躯の備力。治癒の昇華。魔法の助力の下、即今を以て身体を快癒させよ 〔 リピッドリカヴァリー 〕 」


 そう呟くような声で言い、おでこに触れていないもう片方の手で、頭から足先まで体の軸をなぞるように、手をかざしていった。


「……ほら、動かしてみろ」


 足先まで手をかざし終えると、アウルは顎でそう指示した。

 半分嘘と思いながらも、言われたとおり体に力を入れてみる。

 すると、


「……あ、あれ? あれ? 動く!」


 上半身を起こし、腕を回してみる。

 さっきまでストライキを起こしていた体が、嘘のように言うことを聞いてくれる。

 その上、いつもより軽い気もする。


「これも魔法なの?」

「そうだよ。見ての通り回復魔法だ。それより飯行くぞ! 腹が減って仕方ねぇ」

「えっ、ちょっと待っーー」


 私の声は届かず、アウルはまだベッドの上にいる私を放置し、早々と階段を下りていった。


 魔法のこと……聞きたかったのに。


「なによ!」


 感心の一部が怒りに変わったが、それでも私の感心は大きかった。


 魔法……使えるなら使ってみたいな……。




                         ◇




 朝食後は昨日と同じく素振りだった。

 厳正さんは朝食を食べるとすぐに畑仕事に直行したので、昨日と同じくアウルと二人だ。

 現在、昨日と同じように横から指導やじされながら素振りをしている。


「だから~楓。それじゃあ相手切れないって。こうだって。こう振るんだよ」


 横から棒を振りながらアウルが言ってきた。

 言ってきたけど、


「分かってるよ、そんなこと! 分かってるけど、出来ないものは出来ないの! 第一に人なんて薙刀で切った事ないし」


 アウルの言っていることは正しいんだと思うが、今までこんな事やった事ないから仕方ない。


「なんだよそれ? お前の国に確かあったぞ? 「為せば成る」って。お前らの国では常識じゃないのか? ……ん? それとも、使い方間違ってるか?

「いや……使い方は間違ってないけど。じょ、常識じゃないよ」

「そうなのか? 確かにお前の国の偉そうな奴が言ってたぞ?「人間皆、為せば成るって」


 何でそんな的確な言葉使ってくるのよ……。

 第一に、何をみたのよ……


「体動かすのが得意って訳じゃないの。部活してる訳じゃないし……、分かんないの?」


「それは、なんだ? 肌の黒い人間にブートキャンプして貰ってないのか?」

「……なんなのよ。もう!」


 覚えるならちゃんと覚えてよ……。

 ほんと……。


 ……そう思うと、アウルは私の事とか私の世界の事は知ってるのに、私、アウルの事な全然知らない……。




                         ◇




 今日の1日が終わり、屋根裏のベッドに入り、横になる。

 隣のベッドではアウルが横になっている。


「一昨日……私のこと一方的に見てたって言ったよね? アウルってどこから来たの?」

「ん? まだ言ってなかったけな?」


 何か小さなものでも忘れていたかのような返答。

 その言葉に私は、無性に腹が立った。

 そして、


「……アウルもゼウスさんと同じだよ。何も教えてくれない。私のことは知っていつも一方的。なんなのよ……」


 言った。

 鬱憤に近い言葉だ。

 こんな事言ってはいけない。

 そう、頭の中では分かっていても、体は正直な方の意見を聞いた。

 私は本当に感情に左右されやすい。


 私の名前を呟く声が聞こえたが、構わずにアウルとは違う方向へと向く。

 謝る気は起きなかった。


 このまま寝ちゃおう……。




 しばらく時間が過ぎた。

 部屋も暗く、時計もないので正確な時間は分からないが、おそらく15分程だろう。

 後ろの存在が気になり、結局寝れずにいた。


「……俺は妖精界から追放されたんだ」


 アウルが突然口を開いた。

 それに私は何も返答する事は出来なかった。

 しかし、アウルは構わずに話す。


「妖精界は、この世界とも、人間界とも違うまた別の世界だ。名前はアルフレイム。俺はそこで生まれ、育った。

 大体不自由なく暮らしていたが、物心ついた頃から、少しおかしい事が起こるようになった。

 毎晩、同じような夢を見るようになったんだ。その夢は、山を、谷を、町を、洞窟を、複数の仲間と旅するものだった。

子どもの頃は毎晩待ち遠しかったな~」


 今も十分子どもじゃないの……。

 私より背が低いくせに……。


「毎晩のように夢を見ていると、俺はあることに気付いた。毎晩の旅の中で、必ず出てくる仲間が一人いることを。

 その仲間が楓だった」


 えっ……


 声が出そうになったが、堪える。

 

「気付いた最初のころは、なにも思ってなかったが、だんだん思い始めた。 こいつはだれなのか? と。そして、それと同時に、俺はこいつと会って、夢のように旅をしなければならない。と幼いながら運命的なものも感じた。

 そう思ったときから、俺はお前を探し始めたんだ。

 妖精界からは人間界を、ランダムに見ることは許されているが、特定の人物を見ることは許されていない。特定の人物に情が湧いて、そいつの日常に介入することを防止するためだ。

 だから、最初のころはちゃんと規則通りに人間界を見ながらお前を探していた。しかし、いくら探してもお前は見つからなかった。

 そしてある日、俺はあることがきっかけで腹を立て、その腹いせで反抗してやろうと思って、お前をダイレクトで探した。すると、目の前に映ったのは、桐の棺の横で泣き崩れている少女だった。

 それが俺がお前と初めて出会った時だ」


 葬式……のこと?


 「その後、俺は掟を破った為、案の定妖精界から追放の身となり、この世界に飛ばされた。そう言う経緯で、こんな辺境の地で真っ昼間から寝ている時、幸運か不運か、お前が入界してきたわけだ」


  私を探す為だけに追放された…? な…何なのよ……。


「分かったか? 楓? て、寝たか……。まあ、いいか」

「ま、まだ寝てないよ!」



 寝ようとしているアウルを咄嗟に止める。

 このままじゃ後味が悪い。


「アウルはその…何でそこまでして私を探したのよ…?」

「ん? 何言ってんだよ。そんなの決まってるじゃないか。それは――」


 それは…?


「良いいたずらのカモになりそうだったからだよ」

「な……な、何よ、それ!」


「げ、現に…いい…カモだからな」



 アウルのカサカサと笑う声が聞こえる。

 なんなのよ、まったく……期待した私がバカみたいじゃない……。


 …ん? アウルはカサカサ言ってない……クスクスだ。それじゃあ、カサカサは?


 アウルの方を見るが、笑いを堪えているだけだ。

 ……何?



 いや…ちょっと待って……

 そう言えば、さっきから足下に何か触れてる……。


「ア、アウル……何入れたの……私のベッドに」

「何って、お前の種族より、物凄く長生きされている先輩を数人ちょいとお招きしておいたんだよ」


 それって……

 布団の隙間から何かが出てくる。

 それは平たくて、光沢があって茶色――

平たくて、光沢があって茶色のあのお方……

作者は苦手です。

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