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ディサイド・フェイト・ワールド  作者: 七都
二章 ~記憶~
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傍観する者される者

 ここは大陸のほぼ中央に位置している森、『サバート=フォレスト』。

 その森の東半分程の一帯は『明朝みょうちょうの森』と言われる。

 明朝というほど、明るい訳ではないが、サバート=フォレストの残り半分、『暗夜あんやの森』と呼ばれる一帯があんまりにも暗いので、対比していつしかそういう名前で呼ばれるようになったらしい。

 森と言っても、明朝の森にはリスや鹿などの動物などがうようよいる訳ではない。それどころかこの森には動物はいないのだ。

 しかし、先程から小鳥のさえずりがどこからともなく聞こえる。

 恐らく、無邪気な精霊族の類が声まねをして遊んでいるのだろう。


 明朝の森の中にある小道を見ていた。

 これと言って何かがあるわけではないが、何となくだ。

 すると、正午を過ぎた頃、そのの小道に大小二つの影が歩いてきた。

 この森を通る人は少ないと聞くので珍しい。


 低い方の影の持ち主は金髪の少年だった。

 少年は黙々と足を進める。

 もう一人、少年より少し長い影の持ち主は黒髪の少女だった。

 少女は辺りの目に映ったものからものへと目移りしながらも、少年の後に続いている。

 その少女の視線を受けている木々はというと、少女には無関心のようで、ただ、そよ風に身を任せ葉を震わせている。

 普通それが当たり前だ。突然動きでもしたら私でも驚く。


“「おい、楓」”


 今まで足を動かすことしかしていなかった少年が口を開いた。

 少年の周りに少女以外は、人影も亡霊も見あたらないので 楓 というのは少女の事らしい。

そして、楓という言葉に反応した少女は、木々の観賞をやめ、少年の方へ向く。


“「何? アウル?」”

“「足下見てないと転ぶぞ」”


 何か重大な事でも言うと思ったが、単に忠告だけだったみたいだ。


 ……つまらない。


 アウルと呼ばれたその少年の忠告に対し、楓は少し含み笑いしただけだった。

 行動は変わらず、周りの余り変化のない風景を見ていた。


 何がそんなに物珍しいのか。


 しばらく二人が歩いていくと小道の脇にもう一つ道があった。

 誰が何の目的で作ったかは見当もつかないし興味もないが、道の続く方角から見るに暗夜の森へと続いているらしい。


“「楓。そっちじゃない。こっちだ」”


 少女がその道へと行こうとするのを少年が阻止する。

 少女は少年にそう言われ、行くのを止め進路を直す。


 ……面白くないな。



“「あの道はどこに続いているの?」”

“「多分暗夜の森だろう」”

“「どんな所なの?」”

“「どんな所って言ってもな……。まあ、一言で言うと年中暗い森だ」”

“「何で年中暗いの?」”

“「森の木々の葉が真っ黒だからだ」”

“「葉っぱが真っ黒? どうしてなの?」”

“「詳しい事は知らないが、木が闇の魔力を吸ったかららしい。これ以上は俺も知らない。知りたいならお前の世界での“リカ”か何かで調べろ」”

“「何で“リカ”知ってるのよ?」”

“「何年もお前の世界を妖精界から見ていたからな。少しぐらいならお前らの文化は分かる」”


 どうやら少年は精霊族のようだ。あの種で男とは珍しい……。


 それより“リカ”とはなんだ?

 木に作用している魔力を調べると言った辺り魔法らしいが…白魔法ホワイト辺りか?

 そうだとしたらこの少女は高等な魔法人種ウィザードなのかもしれない。

 そう思えば、着ている服も見たことがないな……。

 う~む。興味深い…。


“「アウル。リカって言ったけど、それってショウ学校の授業を見たの? それともチュウ学校?」”

“「ん? お前はそのどちらでもないのか?」”

“「私は今はコウ校生だよ。ショウ学校とチュウ学校の上。コウ校ではリカは“ブツリ”とか生物とか“カガク”に分かれるの」”

“「それは知らなかったな」”


 リカと言うものは学校で学べるのか……。

 私も独学ではなく学校に行っていればすごい魔法を学べたかもな…。

 それよりショウ学校以外聞いたことがないな……。

 ショウ学校は確か、聖堂院学生校の略だったか?

 あの楓とかいう少女は、神童ばかり集まると言われる学校のまだ上を行っているのか……。


“「アウル~まだ着かないの?」”

“「もう少しだ」”


 少年のその返事に少女は顔をしかめる。


“「今から会う鬼瓦おにがわらさんってどんな人なの?」”

“「どんな人って――もな…――あ物分か――いい奴だ―」”


 届きづらくなった少年の声と共に、目の前の風景が崩れていく。

 どうやら千里鏡せんりきょうの魔宝石が切れたらしい。

 もう少し見ていたかったのに…相変わらず燃費が悪い。


 それより鬼瓦……どこかで聞いたことがあるな。

 手紙だったか…? う~む。


 思い出そうとするがその記憶が鮮明に出てくることはなかった。


 私も老いたものだな……。


 風景に変わり、白髪になった自分の顔を映す千里鏡に布を被せ、しばらく開いていなかった窓を開く。

 埃と共に目の前に海原が広がる。

 そして水平線には天まで届くような火柱が連なる。


 この風……近々訪問者が来るな……。

 まあ、その時はその時。あと半日…今日は何をしようか。


 少し錆びた十字架のペンダントを触りつつ、ゆっくりと窓を閉じた

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