表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ディサイド・フェイト・ワールド  作者: 七都
二章 ~記憶~
12/13

エデンの物語Ⅰ

※神話や、昔話などと似ている箇所が見受けられますが、作者が勝手に妄想、独自解釈をしただけですので、本物との関係は一切ありません。これからの話にも所々あると思いますのでご了承下さい!

 私は寝付けずにいた。

 うなされた訳ではなく、少し気分が高揚しているからだ。

 今日私は緑人に勝った。

 勝ちという言葉にこだわる人間ではなかったので、今までこんな気持ちは味わった事はなかった。

 でも、味わってみると良いものである。

 自分で考え、自分で行動し、自分で勝つ。

 今なら、スポーツ選手が、厳しい練習をしてまで、勝ちにこだわるのか少し分かる気がする。


「…………」


 静かだ。

 少し開けた窓からは月の光が射し、時々、心地よい風が吹いている。

 外からは、子守唄を歌うように、ふくろうが鳴いている。


 今思うと、みんなが私の前から消えだしてから、 こんなゆっくりとした時間感じることがなかったな ……。


 ゆっくりと寝返りを打つ。

 暗い部屋の中、隣のベッドの上にに微かにアウルの背中が見える。


 アウル……か。

 私を見つけるためだけに、この世界に飛ばされて ……私に会ったかと思うと、いきなり魔法ぶっ放すし……そうしたら次は選びし者だって……今考えるとほんと訳わかんない奴。


 でも、稽古の痛みは本物だし、厳正さんの料理はおいしいし、アウルの悪戯はうっとうしいし……これ本当に私の現実なんだよね……。

 違う世界に飛ばされるなんて空想たと思っていたけど、ほんとにあったのか……


「……アウル……起きてる?」


 なぜかアウルと喋りたくなったので、呼んでみる。

 しかし、返答はない。

 寝だしてから30分以上は経っているから仕方ないか……。


「……ん? なんだ?」


 諦めていると、気の抜けた返事が返ってきた。


「え? あ、いや、呼んでみただけ……」

「楓……もしかしてお前……」


 アウルは言葉を詰まらせる。


 え…?感づいてるって……も、もしかして以心伝心……てやつ?


「怖いから一人でトイレ行けないんだろ?」

「え…?」


 こちらの言葉が詰まった。

 やっぱり何も分かっていなかった。


「ね、寝られないだけよ! 勘違いしないで!」


 即座に反対方向へ寝返りをうつ。


 持ち上げて、突き落とす。

 アウルのこういうとこ……嫌いだ。


「怒んなってー。本当は寝られないんだろ?」

「…………」


 図星だが、もう遅い。

 答える必要はない。

 なので、黙る。


「素直じゃねーなー。それじゃあ、俺が寝かせてやるよ」


 そう言うと、アウルは呟きだした。


「……獣人族 通常種 羊が1匹、獣人族 通常種 羊が2匹……」

「寝れると思っているの?」

「だめか? 贅沢な奴だな~」

「もう!」


 頭から布団を被る。


 ほんと、馬鹿にして……


「かえで…楓…楓……」

「………何?」


 何度も私の名前を連呼するので、仕方なく返事をする。


「昔話してやろうか?」

「さっきから馬鹿にしているの? 私はアウルと違って、もうそんな年じゃないの!」


 強い口調で言うが、どうせ効かない。


「まあ聞けって。この世界に伝わる物語だ

「勝手にすれば?」


 物語って……どこまで馬鹿にするのよ……。


「そんじゃ、始めるぞ……




――遠い昔、何もない場所にたくさんの神々が生まれました。


 そのままでも神々は消えることはなかったのですが、これといってすることもなかったので、神々同士で協力し、まず光と闇が作られました。

 その光と闇の中に大地を作り、その大地の窪みに水を張って海を作り、光と闇の境界線が見えないようにするため、大地の上を青く塗り空を作りました。

 それだけで十分でしたが、殺風景で、何より暇だったので、大地に森を川を山を、空に風を雲を、海に波を渦を作りました。


 しかし、ある程度作り終えた頃、また暇になりました。

 神々があまりの暇で悩んでいると、ある時、想像力に長けた神が、水を進む者を作り、海に放してみました。

 それは、暇を持て余した神々に大層気に入られました。

 その神は次に陸を歩む者を作り、大地に放してみました。

 これまた気に入られ、その神は得意になりました。

 そして、空を飛ぶ者、地に潜る者、と次々に作り、大地へ、空へ、海へと放ちました。

 そして、次々に作った者もすべて気に入られ、その神は有頂天になりました。

 最後に自分達と同じ形をした、2足歩行の者『人間』を作りました。

 この人間は、今まで作ってきた者の中で、1番の人気を誇りました。


 しかし、その神の名声は長くは続きませんでした。

 理由は 飽きてきたからです。

 なぜ飽きたかと言うと、その神の作ったもの全てには知恵がありませんでした。

 そのため、感情は持たず、行動も単調だったのです。

 その神は、まだ他の神々に褒めて貰いたかったので、改善策として、食べた者に知恵が付く木の実を作りました。

 ですが、それを者に食べさせる事を、他の神々は認めませんでした。

 けれど、作ってしまったものは仕方ないので、他の人間達より少し賢くした男女1組を新たに作り、その木の実の生える木の、見張りを命令しました。


 その男女は、しっかりと言いつけを守り見張っていました。

 ですがある時、ある意地悪な神が2人を食べるようにそそのかし、木の実を食べさしてしまいました。

 2人は賢くなり、全てがおかしいと気が付きました。

 そして、現状を打開するため、ある時、自分達を作った神に意見を述べました。


 このことは、全ての神々に瞬時に広まり、神々はその2人を処分しようとしました。

 ですが、2人を作った神の必死の命乞いで殺されずに済みました。

 ですが、知恵を持った以上、危険な存在となりかねないので、この世界に留めておく訳にはいきませんでした。

 そこで、2人を作った神を中心に考えた結果、神々が住んでいる世界とは別の次元に、もう一つ違う世界を作り、そこに木の方舟で送ることになりました。


 そして送る時、2人を作った神は2人が寂しい思いをしないよう、今まで作った者達を、雌雄一匹ずつ方舟に乗せました。

 2人はこの事に大層喜び、新たな大地を『エデン』と名付けました。


――そして2人はたくさんの生きた者と共に幸せに暮らしましたとさ」


「………これって、アダムとイブ? それとも、ノアの方舟?」


 最初は聞き流すつもりだったが、最終的に聞き入ってしまった。


「おっ? 興味津々だな」


 暗がりで分からないが、恐らくアウルはにやけているだろう。

 なんかすごく負けた気分…。


「……いいから教えてよ」

「分かったよ。アダムとイブ、ノアの方舟…どちらも正解であり、不正解だな。この物語が人間界に伝わる際、何か捉え違いが起こったみたいだが 、これが本当の話だ」


 本当の話だ……って、肯定文?


「なんでこの話が本当だと分かるの? 証拠があるの?」

「そりゃあこの世界が……」

「この世界が?」


「神の世界だからだよ」


 神様の世界か……神様なら仕方……


「……えっ? ……嘘でしょ?」


 寝ている状態から、とっさに上半身だけ起こした。


「嘘も何も、この世界のは神が腐るほどいるし、人間界の運命を握っている時点で普通の世界じゃないだろ?」

「だって……神様達のいる世界って、もっとこう綺麗で、雲の上だったり……」

「その世界は、人間界の他の奴とは少し違う感覚の 違うハゲや、想像とはほど遠い神を純粋に信じる奴が勝手に考えただけだ。神の大半が住む、天界、地底界も、天界は普通より少し明るいだけだし、地底界は普通より少し暗くて寒いだけだ」

「………」


 私だけではなく、なんか私の世界の、色々な人達もさりげなくけなされた気がする……。

 というか、けなされていた……。


「それに、この話には続きがあるんだ」


 そう言い、アウルは物語の続きを話そうとした瞬間、


「主ら、こんな遅くまで起きて、亡霊族でも観察するのか?」



ランプを持った厳正さんが、ドアを開け入ってきた。


部屋が少し明るくなる。


「読み聞かせは結構じゃが、そろそろ寝なさい」

「分かってるよ。それより、厳正も早く寝ろよ?」

「分かっておらんな主は、老人の夜はこれからじゃというのに

「老人の夜って……一体何すんだよ?」

「ん? 徘徊じゃよ」

「なんだよそれ」


 厳正さんのボケ? に、アウルは隣のベッドで肩をすくめている。


 そういえば、気になっている事があったんだ……

 話も途切れた所で言ってみる。


「ずっと気になってたんですけど、厳正さんは毎晩どこで寝ているのですか? 私達がベッド2つとも取っていますけど……?」


 この家は見たところ、ここの屋根裏以外、寝れるスペースはない。

 一階の広間に布団を敷くと、寝れないこともなさそうだが、布団を入れることの出来そうな押し入れもスペースもないし、何より洋室だ。


「大丈夫じゃ、屋根でしっかり睡眠を取っているぞ?」

「いや、明らかにしっかりじゃなさそうですけど…?」

「そうかの?なかなか寝心地がいいがな?


 厳正さんは当たり前そうに言ったが、私なら寝返り打って確実に落ちる……。


「それに、近頃は狂獣が活発になっている。 見張りをしとかねば、アウルはともかく、主が食われる」


「俺はともかくって、まあ、そうだけどよ……」


 ちょっと腹立つが仕方ない。

 ……けど腹が立つ。


「まあ、早く寝るのじゃぞ」

「はぁい」     「ん」


 厳正さんは私達を再度見直した後、部屋を出て行った。

 部屋に暗闇が戻る。

 起きている意味もないので、もう一度布団に潜った。


「……アウル?」


 厳正さんが出て行ってから、しばらく経った後、アウルの名を呼んでみる。


 悔しいけど、さっきの物語の続きが気になる……。

 すると、隣からアウルの声が聞こえてきた。


「グカァ~、ヒュ~」


 ……隣からアウルの寝息が聞こえてきた。


「……はぁ。何でそういうとこだけ素直なのよ? 」


 私の少し大きめの呟きに返答はない。

 ……本当に寝ているようだ。


「まあ……おやすみ」


 暗闇の中、木々の微かなざわめきと共に、だんだん意識が遠のいて行った……。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ