エデンの物語Ⅰ
※神話や、昔話などと似ている箇所が見受けられますが、作者が勝手に妄想、独自解釈をしただけですので、本物との関係は一切ありません。これからの話にも所々あると思いますのでご了承下さい!
私は寝付けずにいた。
うなされた訳ではなく、少し気分が高揚しているからだ。
今日私は緑人に勝った。
勝ちという言葉にこだわる人間ではなかったので、今までこんな気持ちは味わった事はなかった。
でも、味わってみると良いものである。
自分で考え、自分で行動し、自分で勝つ。
今なら、スポーツ選手が、厳しい練習をしてまで、勝ちにこだわるのか少し分かる気がする。
「…………」
静かだ。
少し開けた窓からは月の光が射し、時々、心地よい風が吹いている。
外からは、子守唄を歌うように、ふくろうが鳴いている。
今思うと、みんなが私の前から消えだしてから、 こんなゆっくりとした時間感じることがなかったな ……。
ゆっくりと寝返りを打つ。
暗い部屋の中、隣のベッドの上にに微かにアウルの背中が見える。
アウル……か。
私を見つけるためだけに、この世界に飛ばされて ……私に会ったかと思うと、いきなり魔法ぶっ放すし……そうしたら次は選びし者だって……今考えるとほんと訳わかんない奴。
でも、稽古の痛みは本物だし、厳正さんの料理はおいしいし、アウルの悪戯はうっとうしいし……これ本当に私の現実なんだよね……。
違う世界に飛ばされるなんて空想たと思っていたけど、ほんとにあったのか……
「……アウル……起きてる?」
なぜかアウルと喋りたくなったので、呼んでみる。
しかし、返答はない。
寝だしてから30分以上は経っているから仕方ないか……。
「……ん? なんだ?」
諦めていると、気の抜けた返事が返ってきた。
「え? あ、いや、呼んでみただけ……」
「楓……もしかしてお前……」
アウルは言葉を詰まらせる。
え…?感づいてるって……も、もしかして以心伝心……てやつ?
「怖いから一人でトイレ行けないんだろ?」
「え…?」
こちらの言葉が詰まった。
やっぱり何も分かっていなかった。
「ね、寝られないだけよ! 勘違いしないで!」
即座に反対方向へ寝返りをうつ。
持ち上げて、突き落とす。
アウルのこういうとこ……嫌いだ。
「怒んなってー。本当は寝られないんだろ?」
「…………」
図星だが、もう遅い。
答える必要はない。
なので、黙る。
「素直じゃねーなー。それじゃあ、俺が寝かせてやるよ」
そう言うと、アウルは呟きだした。
「……獣人族 通常種 羊が1匹、獣人族 通常種 羊が2匹……」
「寝れると思っているの?」
「だめか? 贅沢な奴だな~」
「もう!」
頭から布団を被る。
ほんと、馬鹿にして……
「かえで…楓…楓……」
「………何?」
何度も私の名前を連呼するので、仕方なく返事をする。
「昔話してやろうか?」
「さっきから馬鹿にしているの? 私はアウルと違って、もうそんな年じゃないの!」
強い口調で言うが、どうせ効かない。
「まあ聞けって。この世界に伝わる物語だ
「勝手にすれば?」
物語って……どこまで馬鹿にするのよ……。
「そんじゃ、始めるぞ……
――遠い昔、何もない場所にたくさんの神々が生まれました。
そのままでも神々は消えることはなかったのですが、これといってすることもなかったので、神々同士で協力し、まず光と闇が作られました。
その光と闇の中に大地を作り、その大地の窪みに水を張って海を作り、光と闇の境界線が見えないようにするため、大地の上を青く塗り空を作りました。
それだけで十分でしたが、殺風景で、何より暇だったので、大地に森を川を山を、空に風を雲を、海に波を渦を作りました。
しかし、ある程度作り終えた頃、また暇になりました。
神々があまりの暇で悩んでいると、ある時、想像力に長けた神が、水を進む者を作り、海に放してみました。
それは、暇を持て余した神々に大層気に入られました。
その神は次に陸を歩む者を作り、大地に放してみました。
これまた気に入られ、その神は得意になりました。
そして、空を飛ぶ者、地に潜る者、と次々に作り、大地へ、空へ、海へと放ちました。
そして、次々に作った者もすべて気に入られ、その神は有頂天になりました。
最後に自分達と同じ形をした、2足歩行の者『人間』を作りました。
この人間は、今まで作ってきた者の中で、1番の人気を誇りました。
しかし、その神の名声は長くは続きませんでした。
理由は 飽きてきたからです。
なぜ飽きたかと言うと、その神の作ったもの全てには知恵がありませんでした。
そのため、感情は持たず、行動も単調だったのです。
その神は、まだ他の神々に褒めて貰いたかったので、改善策として、食べた者に知恵が付く木の実を作りました。
ですが、それを者に食べさせる事を、他の神々は認めませんでした。
けれど、作ってしまったものは仕方ないので、他の人間達より少し賢くした男女1組を新たに作り、その木の実の生える木の、見張りを命令しました。
その男女は、しっかりと言いつけを守り見張っていました。
ですがある時、ある意地悪な神が2人を食べるようにそそのかし、木の実を食べさしてしまいました。
2人は賢くなり、全てがおかしいと気が付きました。
そして、現状を打開するため、ある時、自分達を作った神に意見を述べました。
このことは、全ての神々に瞬時に広まり、神々はその2人を処分しようとしました。
ですが、2人を作った神の必死の命乞いで殺されずに済みました。
ですが、知恵を持った以上、危険な存在となりかねないので、この世界に留めておく訳にはいきませんでした。
そこで、2人を作った神を中心に考えた結果、神々が住んでいる世界とは別の次元に、もう一つ違う世界を作り、そこに木の方舟で送ることになりました。
そして送る時、2人を作った神は2人が寂しい思いをしないよう、今まで作った者達を、雌雄一匹ずつ方舟に乗せました。
2人はこの事に大層喜び、新たな大地を『エデン』と名付けました。
――そして2人はたくさんの生きた者と共に幸せに暮らしましたとさ」
「………これって、アダムとイブ? それとも、ノアの方舟?」
最初は聞き流すつもりだったが、最終的に聞き入ってしまった。
「おっ? 興味津々だな」
暗がりで分からないが、恐らくアウルはにやけているだろう。
なんかすごく負けた気分…。
「……いいから教えてよ」
「分かったよ。アダムとイブ、ノアの方舟…どちらも正解であり、不正解だな。この物語が人間界に伝わる際、何か捉え違いが起こったみたいだが 、これが本当の話だ」
本当の話だ……って、肯定文?
「なんでこの話が本当だと分かるの? 証拠があるの?」
「そりゃあこの世界が……」
「この世界が?」
「神の世界だからだよ」
神様の世界か……神様なら仕方……
「……えっ? ……嘘でしょ?」
寝ている状態から、とっさに上半身だけ起こした。
「嘘も何も、この世界のは神が腐るほどいるし、人間界の運命を握っている時点で普通の世界じゃないだろ?」
「だって……神様達のいる世界って、もっとこう綺麗で、雲の上だったり……」
「その世界は、人間界の他の奴とは少し違う感覚の 違うハゲや、想像とはほど遠い神を純粋に信じる奴が勝手に考えただけだ。神の大半が住む、天界、地底界も、天界は普通より少し明るいだけだし、地底界は普通より少し暗くて寒いだけだ」
「………」
私だけではなく、なんか私の世界の、色々な人達もさりげなくけなされた気がする……。
というか、けなされていた……。
「それに、この話には続きがあるんだ」
そう言い、アウルは物語の続きを話そうとした瞬間、
「主ら、こんな遅くまで起きて、亡霊族でも観察するのか?」
ランプを持った厳正さんが、ドアを開け入ってきた。
部屋が少し明るくなる。
「読み聞かせは結構じゃが、そろそろ寝なさい」
「分かってるよ。それより、厳正も早く寝ろよ?」
「分かっておらんな主は、老人の夜はこれからじゃというのに
「老人の夜って……一体何すんだよ?」
「ん? 徘徊じゃよ」
「なんだよそれ」
厳正さんのボケ? に、アウルは隣のベッドで肩をすくめている。
そういえば、気になっている事があったんだ……
話も途切れた所で言ってみる。
「ずっと気になってたんですけど、厳正さんは毎晩どこで寝ているのですか? 私達がベッド2つとも取っていますけど……?」
この家は見たところ、ここの屋根裏以外、寝れるスペースはない。
一階の広間に布団を敷くと、寝れないこともなさそうだが、布団を入れることの出来そうな押し入れもスペースもないし、何より洋室だ。
「大丈夫じゃ、屋根でしっかり睡眠を取っているぞ?」
「いや、明らかにしっかりじゃなさそうですけど…?」
「そうかの?なかなか寝心地がいいがな?
厳正さんは当たり前そうに言ったが、私なら寝返り打って確実に落ちる……。
「それに、近頃は狂獣が活発になっている。 見張りをしとかねば、アウルはともかく、主が食われる」
「俺はともかくって、まあ、そうだけどよ……」
ちょっと腹立つが仕方ない。
……けど腹が立つ。
「まあ、早く寝るのじゃぞ」
「はぁい」 「ん」
厳正さんは私達を再度見直した後、部屋を出て行った。
部屋に暗闇が戻る。
起きている意味もないので、もう一度布団に潜った。
「……アウル?」
厳正さんが出て行ってから、しばらく経った後、アウルの名を呼んでみる。
悔しいけど、さっきの物語の続きが気になる……。
すると、隣からアウルの声が聞こえてきた。
「グカァ~、ヒュ~」
……隣からアウルの寝息が聞こえてきた。
「……はぁ。何でそういうとこだけ素直なのよ? 」
私の少し大きめの呟きに返答はない。
……本当に寝ているようだ。
「まあ……おやすみ」
暗闇の中、木々の微かなざわめきと共に、だんだん意識が遠のいて行った……。