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ありがたかった言葉1

8、ありがたかった言葉1

あとで考えるとすごくいい言葉だった・・・と感じることはけっこうたくさんある。


このエッセイを書くときも昔を思い出してすごくいい言葉をボクは周りの人たちからもらっているなあと常々感じているのだ。

嫌な人間がいたらそれに耐えられなくなってすぐに仕事を辞めてしまうニートなボクだったが、そんなボクを周りは本当に気遣ってくれていたんだな、と思う。

今は、ケアマネージャーなんて仕事を『相談援助』と称して偉そうにやっているボクだが、この頃の経験が生きていると感じるときがある。

それは歩けなくなってADL、つまり日常生活動作が著しく低下した高齢者から次のように言われた時にそう思うのである。

『こんなに人に迷惑かけるようになったなら生きていても仕方ない。』

老いというものは悲しいもので、今まで当たり前にできていたことができなくなってしまうのだから、そんな自分を直視してしまうとそう思ってしまうのだろう。

しかし、『人に迷惑をかける』というのは形は違えど若者も十分に迷惑をかけているのだ。

ボクはそういう高齢者にはこう言っている。

『人間生きている限りお互いに迷惑かけあってるんですよ。ボクなんか今までどれだけ周りの人間に迷惑をかけてきたことか・・・(笑)』

人によって反応は様々である。

『なるほどねえ。』と感心してくれる人もいれば『あんたは分かってないんだ。』というような顔をする人もいる。

しかし、『生きていても仕方ない。』と言っている人に『そうですね。』というわけにはいかないので、まあ、ボクの言葉の正否は置いておいても、うまいはぐからし方だなあ、と我ながらに思うわけである。

しかし、もしボクが順調に生きてきたならたぶんこういう返し方はできなかったと思う。

『ボクなんか今までどれだけ周りの人間に迷惑をかけてきたことか・・・。』

という言葉はこの歳になるまでのボクの人生を総称して出た言葉だと思う。


あとで考えたらすごく思いの中に残っている言葉の話をしていたが、それが今回の話で時間的な話をするならば、前回の話の最後の頃の話である。

清川さんが嫌で、ボクは所長に話して以前の清掃の方の仕事に戻してもらった時の話。

結局、ここも清掃に戻してもらってから数か月で辞めてしまったのだが、今考えるとそんなにあせることもなかったなあ、とつくづく思っている。


清掃の仕事を以前に働いていた時よりも長い時間やろうと思ったのは、その仕事なら長くやっても大丈夫という自信があったから、というのと、いい歳をした男が昼間から家にいるのはどうも体裁が悪いという思いがあったからだった。

以前に働いていた時は半日だったので知らなかったことはけっこう多かった。

例えば、以前、ボクが帰宅する時間の後に働きに来る人がいたこと。

また午後から掃除する場所もたくさんあった。

それでも今、流行りの『想定外』のことはなにもなく、うまく仕事をこなすことができていた。


このころのボクはまだ自信があった。

自分はできる人間だと思っていた。

もちろんそれは大いなる間違いだったのだが、根拠もなくそう思っていたのだ。


今から考えてみるとその自信やプライドの高さはどこから来ていたのだろうか。

はっきり言ってアホである。

己を知るということは非常に重要だな、と気づいたのはつい最近で、その頃は知ったふりをして過大評価していたから、少し他人から厳しいことを言われるとすぐにへこんでいた。

なんでこんなにボクは打たれ弱いんだろう・・・と思うことが多かったがそれはたぶん、この何の根拠もないプライドの高さが原因の一つだろう。


ただそんなボクだったが、何の仕事をしても長続きしないことには本気で悩んでいた。


ある日、仕事の休憩時間に一緒に仕事をしていたおじいさんと話す機会があった。

歩き方から腰が悪いことが一目瞭然のおじいさんだったが昔は清掃の仕事ではなく、コンビナートでドラム缶を転がしたり、フォークを運転したりしていた人らしい。

そのおじいさんは自分の現役時代の話をしてくれた。

当時は介護の仕事にはまったく興味がなかったけど、おじいさんの話は面白かった。

人の話を聴いたり、自分の話をしたり・・・当時は無口でコミュニケーションが苦手なボクだったが、案外、当時からボクはそういうことが好きだったのかもしれない。


『あせるこたあないよ。』

おじいさんはボクにそう言ってくれた。

なんか自分を認めてもらえたみたいですごく嬉しかったことを覚えている。

『したい仕事が見つからないのが悩みなんですよ。やっぱりもっと先を見据えないといけないなって思います。』

そんなようなことを言った記憶がある。

『先を見据える』・・・そんなもん今でもできてない。

考えてみれば随分頭でっかちで融通の利かない若者だったと思う。

でもおじいさんはニヤリと笑いながら『そんな小難しいこと考えなくてもなんとかなるよ。オレなんか30過ぎまで定職になんかついてなかったしな。』と言ってくれた。

肩の力がちょっと抜けたことを覚えている。

人前で『できる自分』を見せ続けたいというプライドの高さは相変わらずだったが、おじいさんの言葉はボクの中で生きている。

『小難しいことを考えない。』とはありのままの自分の自覚して、悪いところは気をつけるように意識しいいところはそれを生かせるように意識して動く、ということだったことに気づいたのはつい最近の話である。


おじいさんの話はその時はそんなに強く感じることがあったわけではない。

でも若かったボクを支えてくれようとした気持ちは感じた。

それがとてもありがたかったことを今でも鮮明に覚えている。





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