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『逆襲』

  とある武家屋敷の大広間。


  複数室を障子を取り払い一室と使っているらしい、その場には数十名の人間達がいた。


  多くは三十代から中年までの男性だったが、一部にはまだ十代と見受けられる少年や、中年女性なども見受けられた。


  皆表情は様々だった。口を結び厳しい表情をした男、もの悲しげな目をした寂しそうな中年、三白顔になった眼の中に激しい憎悪が燃えた女性、陰惨な笑みを口元に浮かべた若者。


  皆が同じ表情を浮かべいるわけではないが、皆の顔が悪意や憎悪、殺意といった負の感情から来ているところは共通していた。


  各々刀や短刀、手槍などの武器を身につけていた。笑みを浮かべる若者などは抱えた刀を愛しそうに撫でて血みどろの闘争の予感に酔っていた。これらは彼らの抵抗の象徴である。


  ふと座敷に一人の男が現れ、皆がその男に顔を向けた。四十代前半と思しき男は、簡素な和服に袴姿、大小を腰に二本差しにしていた。鋭利な輪郭に強い意志を瞳に宿し、背中くらいで切り揃えた髪を後ろに束ねていた。そしてやはり彼も強い憎悪を持ちながらそれを発散させぬよう心の中に留めていた。


  男はこの集団のリーダーだった。


  「この幻想郷は人妖の平等と共存を実現した理想郷である」


  リーダーである男は静謐な口調で語り始めた。皆も黙って傾聴している。


  「皆もそう教えられて、いや刷り込まれて来ただろう。しかし私は疑問を抱いた」


  「妖怪は人を襲い人に恐れられる。人は妖怪を恐れて妖怪を退治する。そういうルールであるという」


  立ったままで男は皆に視線を送りながら、しかしあくまで静かに語る。


  「このルールの上で人妖は平等であると、人は喰われ、妖は倒され、そして共存していくと。かつての外の世界はそうだったのだと、この幻想郷(セカイ)もそうなのだと語る。しかしこれを語ったのは誰だ」


  静かで平坦だった男の口調が段々抑揚が付き強い口調になっていく。リーダーは今一度皆の顔を見渡す。皆段々眼光が強くなっていった。


  「ほかならぬ妖怪なのだ、我々はこの幻想郷(セカイ)で確かに喰われてきた。妖も倒しだろう。しかし!」


  「我々は死んだら終わりだ、死んだ人間は生き返らぬ。妖怪は退治などといって封印などが精々だ、完全に滅する事が出来るのは雑魚妖怪が精々」


  「そして、人間でありながら妖怪を斃す力のある者はあいつら妖怪を滅したか?我々人間を、皆の愛する者達を喰らった怪物達に復讐してくれたか?」


  「否ッ!」


  男はヒートアップするように強い口調と身振りで皆に語りかけ問いかけ、最後の一言は右腕を大きく振りながらの怒号に近かった。それを聞いていた皆の眼の憎悪が増した。


  「何もしてはくれない!やつらには我々の悲しみは無縁なのだ!スペルカードルールなどという遊びで退治したなどと宣う。博麗の巫女はどうだ!?」


  そこで男は一つ間を置いた。


  「妖怪退治屋などと自称しておきながら、神社であの巫女は妖怪と馴れ合っているではないか!!」


  激しい身振りと共に叫ぶように男は皆に言った。


  「妖怪の山の守矢神社の風祝はどうだ!?」


  「……人里では耳触りのいい事をのたまいながら、山の妖怪に崇められて信仰を得たなどと悦に浸っているではないか」


  今度は意思の籠ったしかしあくまで静かな口調で皆に視線をやりながら言った。


  「妖怪の巣窟の寺など語るに値しない」


  「妖怪を斃す立場にいる人間達の代表達が明らかに妖怪に通じている。この矛盾に何故誰も疑問に思わないのだ!?」


  そして、男は皆一人一人の顔を見渡し告げた。


  「この幻想郷(セカイ)は明らかに妖怪達に都合よく出来ている」


  男は絶望感の込めた口調で続けた。


  「認めたくない事実だ、だが認めなくば何も変わるまい。我々は妖怪達に飼われている家畜にすぎない」


  「里の人間の多くは皆気が付かない。あるいは認めたくなくて気が付かないふりをしている者もいるだろう」


  そこまで引くトーンで顔を伏せるように言った男は突然顔をあげ、眼を剥いて声をあらん限りに張り上げた。


  「それでいいのかッ!!」


  「ここにいる者達は皆気が付かないふりなど出来ないハズだ!自分の愛するものを殺されてなお気が付かないふりなど出来るハズがないッ!!」


  「思い出せ失った者達の声を!思い出せ!化け物どもに殺された愛する者の骸をッ!」


  話を聞いていた皆、愛しき人を妖怪に奪われた反妖怪派組織の構成員達の眼に憎悪と殺意が燃え上がった。


  「忘れるな!正しき怒りをッ!!」


  『おおおおぉぉォォォッッ!!』


  溢れんばかりの憎悪に酔いしれるように武器を握りしめその場の殆どのものが力の限り咆哮した。


  そして場がゆっくりと鎮まり返ったところで男は告げた。


  「やつらが平等を謳うのならその通りにしてやろうではないか」


  男は腰に差した刀を鞘ぐるのまま抜いて右手で突き出して吠えた。


  「皆、これは反逆である!私は化け物どもを許しはしないッ!」


  最後に自分の思いを告げて、男はレトリックを凝らした演説を終えた。



  演説の熱が冷めてきた頃、指針を決めるための情報交換がまず行われた。


  「稗田阿求を取り囲んだ同士が妙な男にやられた、だと」


  その中で一つ気になる話があるという幹部の言葉を聞いてリーダーの男はそれを傾聴していた。


  「義憤にかられた通りすがりか稗田の関係者ではないのか?」


  「それがどうも違うようです」


  幹部の男は神妙な顔で語った。


  「連中から話を聞くと、稗田阿求の言葉で稗田家の護衛だと思って突っかかったらしいんですが、冷静に考えてみるとおかしいみたいで」


  「関係者ではなかったと」


  「えぇ、なんでもその男は稗田を取り囲んでる所に通りすがっただけで素通りしようとしたそうで。どうも稗田に謀られたらしい、と」


  「あのガキが考えそうな小賢しいやり方だな。だが話は稗田ではなくその男の事か」


  男はすぐに話の筋を理解して先を促した。


  「はい、まず恐ろしく腕が立ったと。そいつは帯刀していたらしいですが刀も抜かずに、でして。三人の中二人はまだまともに動けません」


  「それだけなら特に気になる点はないな、まだ何かあるんだろう」


  先を促す男に幹部は一つ頷いて続けた。


  「はい。立見さんは里の外での野党団の事件はご存知で?」


  「無論知っている。里の人間からも殺掠する不逞の輩、当然の末路だ」


  問われたリーダーである男——立見はそう吐き捨てた。


  「それがですね、寺子屋に通じた知り合いから聞いたんですが上白沢の奴は奴らを殺した奴の目処が付いてるようなんです。まだ見つけていないそうですが」


  幹部の言葉を聞いて立見は思案しながら口を開いた。


  「殺した奴、だと?単身の仕業なのか、数十人やられたはずだ。いや、それより、まさか」


  話の流れに立見は気付いたらしい、幹部の男が告げた。


  「上白沢が目処を付けている相手は、名は清水。背格好はウチの連中をやった奴と全く同だそうです」


  「確実とは言えませんが。この話をしておかない訳にはいかないと思いまして」


  うむ、と一つ唸り思案する立見。十秒ほど考えて口を開いた。


  「その清水なる人間、どう思う」


  「連中の話を聞くと義憤だので動く人間ではなさそうですね。しかし里の者でもなし、注意すべきかと」


  立見は髭もない顎を撫でながら、慎重に言った。


  「危険はあるだろう。だが何事も効果があるのは劇薬だ」


  「立見さん」


  側近は意外そうに立見を見返して、意味なく名を呼んだ。


  「利用できれば、切り札の一つになる。あくまで可能性の一つだ、だがその清水なる男の情報は集めておけ」


  側近もまた考えこむ。自分の所の者がやられたから危険分子と決めつけていたが、立見の言う通りまだどのような者かわかっていないのだ。


  危険なモノというのは使い方によっては大きな武器となりえる。そこを立見は分かっていた。


  「わかりました。そのように」


  この人とならきっと化け物たちに一泡吹かせられる。そう確信めいたものを抱きながら敬意を込めて側近は答えた。


  幻想郷にいくつも燻っている火種。その一つが燃え上がらんと熱を蓄えつつあった。

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