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『守護』

 ――幻想郷、紅魔館前。



 ホウキに乗って飛んで来た魔理沙とホウキに同乗して来た川上の二人組がいた。




 そして二人の前にこの館の門番である中華風の服を着た、中国美人といった風の少女が対峙していた。




 「また貴女ですか、いい加減本を盗まれるのもうんざりとパチュリー様も仰ってましたよ。」




 「君は本を盗んでるのか?」



 川上が疑問を呈する、その口調に感情は籠められておらず、呆れているのかはたまた感心しているのかはわからない。



 「盗んでるなんて美鈴も川上も人聞きが悪いな、私は借りてるだけだぜ、ただ死ぬまで返さないだけだ」


 魔理沙はそんな傍若無人な発言をする、彼女は盗んでいる自覚すらないのか?。



 「つまり死んだら返すのか、じゃあ別に問題ないな」



 そして川上はなぜか魔理沙の言葉に同調する、まさか本気で同感なのか、あるいは一種の皮肉のつもりで言っているのかやはり口調からは判断がつきにくい。



 「だろう?だからそんな目くじらを立てる程の事じゃないぜ」



 「まぁ、そんな事はいいから早くその図書館とやらに行かないか?」



 例によって両切りタバコに火を付けながら川上はけだるげな目付きと投げ遣りな口調で言う、彼はとりあえず一緒に来たはいいが早速面倒くさくなってきたのかも知れない。




 「待ちなさい、私も門番としてみすみす賊を館に通す気はありませんよ」




 そう言って館の門番――紅美鈴は立ちはだかる。



 「だ、そうだ、通してくれないみたいだし、帰って昼飯にでもするか」




 川上は紫煙を吐き、通す気のない門番にあっさり思考を切り替えた、しかし彼は一体何しに来たのか?。



 「いやいや、わざわざ来て入らず帰るとかないんだぜ!」



 魔理沙はすかさず川上に突っ込む。



 「しかし先方は入れる気がないみたいだがどうするんだ?」



 「決まってるだろ、向こうに通す気がないなら‥‥押し通るだけだぜ!」



 「ふむ、それもありだな」



 やはり我を行く魔理沙の主張に何処かどうでもよさげに川上はそんな事を言った。




 「と、いう事で川上、門番を倒せ」



 と、そこまで言っていきなり魔理沙は川上に丸投げした。



 「いや、何故俺が?」



 当然の疑問を川上は返す。



 「お前、武術家って言ってたろ?美鈴も中国武術とかいうの得意らしいからな、相性がいいと思って」



 「その場合相性がいいと言うよりお互いが噛み合ってしまい危険なんだが」



 川上は短くなったタバコを投げ捨てげんなりと言う。




 「成る程‥‥その刀と佇まいといい貴方も武人でしたか」



 そこで美鈴は川上に初めて興味を向ける、食い付いて来ちゃったよ、川上はそう思い溜め息をついた。




 「自分は武人なんて名乗れるような正道の者ではない邪道の武だ、だから誇れるようなものではない」



 とりあえず川上はそう煙に巻く。




 「成る程、察するに古流武術‥‥邪道というからには忍術などの類でしょうか?」



 「もう、とりあえず帰っていいだろうか?」



 やたらと川上の武に興味を持つ美鈴に対して、早く終わらせたがり初めた川上だった。




 「だから、帰らないっての、本を借りてくんだぜ」


 「私としても貴方には興味がありますね」



 川上の言葉に魔理沙と美鈴から同時に返答がくる、二人の言葉はつまりはこのままいても終わらないと言う事だ。




 ――だから川上は踏み込みながら美鈴に腰の刀で抜き打ちに斬り付けた。  



 「くッ!不意討ちとは邪道とはよく言ったものですね!立ち合いの技術ではなく暗殺技法って訳ですか!?」



 しかし気の流れを読む程の中国武術の達人である美鈴もさること、完全に虚を突かれたにも関わらず川上の抜刀術をバックステップで紙一重、しかし危なげなく回避した。



 「そこッ!」



 美鈴は回避し刀身をやり過ごしたそこから一気に踏み込み川上を制圧しようとして――断念した、右片手で抜き打たれた刀、しかし初撃を放つと抜き打ちのさい鞘に添え鯉口を切り、鞘を引く動作をしていた左手をすぐさま柄尻に持っていき二刀目を放ってくる。




―――切り返しが早すぎる、美鈴はそう思った、並みの相手なら初撃の抜刀を外して刀を返す前に懐に踏み込み制圧が出来るはずだった、しかしこの男はそれを許さなかった、ともかく襲いかかる袈裟斬りを美鈴はふたたびステップワークで躱す、が――



 痛み、何故?相手の攻撃は確かに躱したはず、美鈴は疑問に思い大きくバックステップして川上と距離を開けると自分の身体を改めた。



 「はい、終わり」



 川上は追撃もせずに刀をだらりと下げた無構えでそう言った、なんて事はない、美鈴が感じていた痛みの正体は肩口に食い込んだ一本の棒手裏剣だった、一体いつ食らった?いや、いつ彼はこれを投げた?美鈴はそう思った、そして彼女には思いもよらなかっただろう、実は川上は最初抜刀する時には既に手裏剣を手の内に隠すようにして握りこんでいて二刀目の袈裟斬り自体がフェイクで斬る振りをした動作で美鈴に手裏剣を打っていた事など。



 「何を‥‥たかだか棒手裏剣一本、急所でもない、この程度の傷を負わせたくらいで勝ったつもりですか」



 確かに完全に一本は取られた、だがまだ戦闘不能の深手ではないのだ、ならばこのまま門を通すつもりもない、この時の美鈴はそう思っていた。



 「たかだか手裏剣一本‥‥か、確かにそうだがもう少し身体に異物が入る事への危機感を持ったほうがいいだろう」




 「何をッ!」



 美鈴はそうがなり大きく開けていた距離を僅か一歩の踏み込みで縮め突きを放つ、その突きは川上の水月を打ち抜く――はずだったがヒットの瞬間川上は自ら後方に転がり――柔術等に置ける受身の後ろ返りの応用である――ダメージを逃がした、転がった川上に美鈴は踵を落す事も考えたが後ろ返りのまま座構えに移行しつつ刀で頭上をガードした川上に追撃を断念した、深追いして踵落とし等していようものなら足首から先が無くなっていただろう。



 「くッ、しぶといですね‥‥こちらも棍等があれば仕留めきれるのに」



 流石に武術の達人たる美鈴でも無手では鋭利な刀という得物を持った手垂れ相手には責めあぐねた‥‥集中力も段々切れ初め息も切れる、旗色が悪いなと美鈴は思う。



 ‥‥いや、悪すぎやしないか?さっきから手足まで重くなってきた、自覚するととたんに呼吸が苦しくなり四肢が痺れてくる、これは異常だ、美鈴は思った。


 そういえはさっきあの男は何と言ったか?確か身体に異物が入る危機感を持つべきだと‥‥‥



 「くそ!」



 やっと美鈴は気付いた肩口に刺さりっぱなしだった手裏剣を抜き捨てる、しかし遅すぎた、最初からそのくらいの可能性を考慮にいれるべきだったのだ。




 「やっと効いてきたか、ちゃんと打ち込んだはずなのに平然と動くから効かないのかと思った、それをそこまで耐えるという事はお前も人間じゃあないのか?」



 「貴様‥‥仮にも武人が毒など使うか!?」




 「言っただろう?俺は正々堂々殺し合いましょうなんて正道のもんじゃないと、単にただの手裏剣を打つより毒を塗ったものを打った方が人を殺すには効果的なのは考えるまでもない、なら効率を考え使っただけだ。」



 「く、そ、邪道‥‥か、侮ってい、た」



 本当にこの男の武は人を効率よく殺す事のみを突き詰めた体系化された術なのだ、自分の武術とはそもそも別物じゃないか、美鈴は思った。




 そして美鈴は崩れ落ちた全身の麻痺は既に身体を支える事も出来ない程だった、人間なら既に呼吸が止まり死んでいるだろう猛毒だ、妖怪の美鈴とはいえ毒が抜けるまで暫く動けそうになかった。




 川上は刀をピュンッと血振りをすると静かに鞘に納めた、美鈴が抜き捨てた棒手裏剣も回収した。



 はぁ、と川上は溜め息を一つ吐きタバコに火をつけた――

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