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80

もう80だと!?

何故いけないのかと聞いても誰も明確には答えてくれなかった——





白玉楼、男女の前に別れの時がやってきた。


「もう、行ってしまうのですか」


「あぁ」


特にもう何も無いし、と小さく呟いたのは紅魔館使用人の川上である。


「あの、最後に一度だけでいいです・・頭を撫でてくれませんか」


そう、濡れた眼でねだったのは白玉楼の庭師兼剣術指南役である妖夢である。


その言葉を受け川上は左手を伸ばす、妖夢は眼を閉じた。


そして次の瞬間、妖夢は額を指で弾かれた、痛い、冗談じゃなく痛かった、と言うか脳が揺れて一瞬膝が折れた。


川上の指はコインや鉄球があれば所謂指弾すら出来る凶器である、妖夢は思わず額を抑えるが川上はくっくと笑いながらタバコを咥えた。


妖夢が顔を上げた時、川上はシースに納められたナイフを一つ妖夢に渡した。


ナイフを受け取りひどい人なのかなんなのか、と妖夢は呟く、そう、こういう人、妖夢が惚れたのは熱もなくただ鋭いだけの刃金のような人だった。


川上は踵を返した。


「あの!いつかもう一度、また・・」


「紅魔館」


言いかけた妖夢に川上は言った。


「俺はそこにいる、俺が欲しければ(斬りたければ)何時でも来い」


「っ、はい、必ず」


妖夢は再見(ころしあい)の近いを口にした、川上は紫煙を一つ吐き、石畳を降りていった。


「おい、歩いて降りても帰れないぜ、私の事忘れてるだろ、乗れよ」


そして、魔理沙に突っ込まれていた、締まらない別れである。




そうして二人が去ったあと、妖夢は鹿の角(スタッグ)の柄を握り、シースからナイフを抜いた。


現れた刃長15センチ程の鏡面仕上げの艶やかな刃、幻想郷では珍しい不銹鋼の輝き、その冷たいナイフに妖夢はあの男を思った——


「おかえりなさい」


「ただいま」


紅魔館に戻り、川上は廊下でバッタリ出会った咲夜に挨拶した。


「どうだった?」


「中々楽しめた」


「そう、それは良かったわね」


簡単な会話をして、二人はすれ違った。


「あっ、と」


ふと、背中越しに咲夜が何か思いついたように声を出し川上は首だけで振り向いた。


「何処かにナイフ落ちてなかったかしら?スタッグハンドルで鏡面仕上げのスレンレス鋼でこのくらいのなんだけど」


いいつつ咲夜は手で尺を示していた。


「いや」


「そう、困ったわね、何処に落としたのかしら」


小さく川上が否定すると咲夜は片手を頬に添え困った様子を見せる。


どう考えても見つからない理由として最も怪しむべき男が目の前にいるのだが、完璧なようで少し天然なメイド長は素で気付かない。


「見つけたら拾っておく」


「えぇ、お願い」


それだけ言って川上は自室へと歩いて行った。





「ねぇ、貴女」


フランドールはいつものように暇を持て余しており、そして暇潰しに一人のメイド妖精を呼び止めた。


「は、はい、なんでしょう」


メイドは萎縮しつつ答えた、フランドールは無邪気な笑みを浮かべているだけだが、存在自体から何か立ち昇るような熱量がメイドをたじろがせた。


「私、暇、遊ぼう」


フランドールは区切った単語で希望を伝えた。


「あ、あの、私掃除がありますので」


そしてメイドは目の前の吸血鬼への畏怖からか、断ってしまった。


致命的である。まず、主人の妹の希望に対し出来ないと答える等論外。


そして、単純な力関係において圧倒的な相手の機嫌を損なう事などあってはならなかった。


「へぇ」


すぅ、とフランドールの顔から笑顔が消えた。


「貴女、私と遊びたくないんだ」


そのまるで色のない表情と声にメイド妖精は自分の命運を知った。


「そういう訳では・・ありません、も、申し訳」


「じゃあいいよ」


震える声で弁明しようとするメイドの言葉を最後まで聞かずにフランドールは無造作に歩み寄るとまるで金縛りにあったかのようにぴくりとも動けないメイドの首を左手で掴むと腕一本で持ち上げ宙づりにした。


首が締まりメイド妖精はもがき、フランドールの腕から逃れようと両手で抵抗するが、妖精の細腕では吸血鬼の人智を越えた膂力をどうする事も出来るはずがなかった。


「貴女で遊ばせてもらうから」


一点、弾んだ声でフランドールはいいつつ思う、こんな折れやすい首を折らずに持ち上げられるなんて、自分は力の使い方が凄く上手くなった。


フランドールは右腕でもがくメイドの腕を握り潰した。


「っッ〜〜〜!!」


ゴギョリと前腕の骨が粉砕する男と共にメイドは絶叫したが、首を絞められてる為声なき悲鳴に終わった。


フランドールはそのままメイドの腕を引きちぎり無造作に千切れた腕を投げ捨て、ついで、右手をメイドの腹部に添えた。


「ッ〜〜ッ〜〜!!」


エプロンドレス越しに腹を無造作に引き裂いた、湯気の立つ臓腑がまろび出て床にびちゃりと音を立て落ちた。


フランドールはメイドを床に無造作に落とした。


メイドはもう荒い息を吐いて臓腑の溢れる腹を無事な片腕で抑え丸くなるだけだった。


フランドールは口元を三日月型に歪めてしゃがみ、メイドの頭を掴み引っ張るように、力を少しずつ込めた。


「あ、あ、あぁが」


みし、と首が軋み、メイドが恐怖と苦痛に声を上げる、フランドールがさらに力を込めるとメイドはまだこれほどまで力が残っていたのかと思うほどの凄まじい断末魔の絶叫をあげ、しかしゴキャという音と共に絶叫は止んだ。


フランドールは堪えきれぬという風にクスクスと笑いながら、立ち上がり無造作なサッカーボールキックを放つと血塗れで元は愛らしかった顔を断末魔の苦痛で歪めたメイドの生首が転がっていった。


一通り笑いが収まると、一変してフランドールは顔から一切の表情が消えていた。


「・・つまんない」


壊してる最中は楽しいのに終わってしまうと残ってるのは壊れた相手と血と屍臭で汚れた自分だけだ。


「つまんない」


繰り返した、誰も、何も彼女を満足させるものは無かった。


フランドールはそういうもの(・・・・・・)なのだ、彼女に並び立つものは後にも先にも何もない、欠けているのだ、それは手に入らない。


フランドールも自分自身の事だ、薄々理解していた、諦めていた、彼女の生は一人旅である。


フランドールは一人だけ、回りにあるのは人形だけ、そういう世界だ。


フランドールは誰からも理解されず、フランドールも誰も理解出来ない。


足元の死臭を放つ残骸に目を落とす、妖精は死なないらしい、だからいくら壊しても大丈夫、死なない、ところで


「死ぬってなに?」


どうでもよい疑問を口に出しつつ、フランドールは歩きだした。











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