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うさぎを食べてみたい

紅魔館正門前


門番として仕事中の美鈴は一匹の白猫の前でしゃがみこんでいた。


青い眼の長い尻尾を巻いて座ったスリムな体型をしま綺麗な純白の猫。


「おいしい?」


ニコニコとして自分のおやつである干し肉を少しづつ千切って差し出す美鈴の手から猫は無心で食べていた。


ふと次に差し出されは肉片に猫は座ったまま反応しなくなった。


「ん、どうしたの?お腹いっぱい?」


そう美鈴が猫な語りかけた瞬間うなじに冷たい感覚が走り、美鈴は咄嗟に振り返る。


黒い洋装に身を包み、腰に刀を二本差しにした、端正な顔付きだが無機質な眼をした男、川上が真後ろに立ち美鈴を見下ろしていた。


「と、これは川上さん、お帰りなさい」


「ただいま」


慌てて立ち上がり、迎えの言葉を発する美鈴に対して、川上は端的に挨拶を返した。


「恥ずかしながら不覚を取りました」


その言葉には返答をせずに川上は踵を返して門の方に歩こうとして彼には珍しい事にバランスを崩した。


川上が眼を下すと彼の足元にいつのまに近づいたのか先ほどの白猫がまとわりつきゴロゴロと喉を鳴らしながら足に顔を擦りつけていた。


川上はしゃがみこみ猫を持ち上げると黙って美鈴に差し出した。


「え、っと」


川上の顔と猫に交互に視線をやり、美鈴はとりあえず猫を受け取った。


そして川上は今度こそ正門をくぐり歩き去った。


美鈴は猫を抱いたまま壁にもたれてストンと座り込んだ。


「一本取られちゃったなぁ」


気を操る程の達人の美鈴に全く気取られず後ろを取り、殺気だけで頚椎を穿たれた。


戯れではなく同じ武芸を志すものとしての警告だったのだろう、容易く後ろを取られるものではないと。


事実不心得だったなと思う、猫に対して紅魔館、壁がある方を背にしゃがんでいれば後ろは取られたりしなかったのだ。


「常在戦場か、私もまだまだ修行不足だなぁ」


膝の上で丸くなった猫を撫でながら美鈴は呟いた。





紅魔館、メイド長で十六夜咲夜は今日も館内で仕事に奔走していた。


といっても廊下に面した窓ガラスを一枚一枚掃除する地道な仕事だったが、彼女がガラスを拭っている時ふと声がかかる。


「ただいま」


帰ってきたか、相変わらず神出鬼没な男だと思いつつ咲夜は振り返る。


「お帰りなさい・・ずいぶん愉快な帰宅ね」


そこにいた川上はメイド妖精のアニスを肩車して、いやされていたというべきか、いた。


「頼むまれた物だ」


川上はその事には触れずに永遠亭から貰ってきた薬を手渡した。


「お疲れ様、今日は自由にしていいわよ」


咲夜は労いの言葉をかけつつ薬を受け取った、眼では川上の腰の柄の焼けた刀と見たことのない刀の二振りを確認しながら。


「分かった」


「ちょっとまって」


踵を返そうとしたところを咲夜は静止した。


咲夜は立ち止まった川上の腕と上体に簡単に手を這わせ確認する。


「怪我はないみたいね」


「あぁ」


どうせ何か一悶着あったのだろうと確認したが無傷、実際の所川上は幻想郷に来てから今まで幾つか修羅場を潜りながら血の一滴も流してはいなかった。


「後、お嬢様に一言挨拶しておきなさい」


「わかった」


そして今度こそ川上は踵を返して立ち去っていった。


咲夜も薬を納めに行こうとしてふと呟いた


「あのメイドはなんで肩の上にいたのかしら?」




レミリアは私室で一人暇を持て余して読書などしていた、傍らのテーブルのティーカップの中で紅茶が冷め切っていた。


そこでドアがノックされた、暇なレミリアは誰だか知らないが来訪者に内心喜ぶ。


「入りなさい」


入りなさいのはい、辺りでドアを開けて入ってきたのは使いに出していた使用人の川上だった、何故かメイドを肩車した。


「先ほど帰った」


「お帰りなさい、お疲れ様ね」


「失礼する」


川上は挨拶を終えると回れ右して退室した。


レミリアは冷め切って渋みしか感じない紅茶を一口飲み、そして呟いた。


「・・それだけ?」




川上は当てられた自室に戻り、一息つく、手を肩の上に回してアニスをベッドの上に投げ、タバコを咥え火を点ける。


そのままクローゼットを開け、野太刀、そして焼けた奥州政長、輝夜から授かった青江次吉ともに刀袋に入れて中に納める。


そして差料にする刀をどうするかと思う、大和守安定か固山宗次、しかし宗次はまだ試していない。


ふと川上の目線がベッドで寝っころがりこちらを見ているアニスに向けられた、川上は少し考えたが、結局安定を刀袋から出して腰に差した。


そして、内ポケットに入れていた白いケースを取り出す、少し考え内ポケットに戻す。


タバコから伸びた灰が落ちそうになり慌てて灰皿に落とした。








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