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 ――幻想郷の魔法の森  



 「ここが私の家だぜ」



 「ふぅん」



 洋式の家の前でどこが自慢げに言う魔理沙に川上は気のない返事を返した



 結局食事欲しさに川上は魔理沙に誘われるままついて来たのだ。



 「しかし、お前飛んだ事あるのか?」



 「いや、ない」



 「始めてホウキに乗った奴なのに反応が薄いぜ」



 川上は神社からここまで魔理沙のホウキの後ろに乗せてもらって来たのだが川上は飛行中も危なげなくホウキに座りながら特に何も言わず、高みから遠くをボンヤリ眺めていた。



 「とにかく食事を作るか」



 そういいつつ魔理沙は家に入り川上もそれに続く、「お邪魔する」とやはり何処か形式的な言葉を言いながら。



 「まぁ散らかってるが気にせず寛いでくれ」



 そう言う魔理沙の言葉に偽りはなく入った家内は本を始めとして様々なガラクタ等が散乱し足の踏み場すら危うい程の散らかりようだった。



 「いい家だな」



 川上は感情の籠もらない声でそう言う、ある種の皮肉なのかあるいは本気で言っているのかも知れない。


 「だろう、まぁ今食事でも作るからまっててくれ」


 「ありがとう」



 相変わらず寝たげな眼をして感情の籠もらない礼を言った。



 キッチンに入って行った魔理沙を尻目に川上は室内のガラクタ類を漁り始めた何となく面白い物がないかと考えたのだ。



 懐かしいゲーム機ファミリーコンピュータを見つけた、しかしどうせ壊れてるし正常に作動してもそもそもここではテレビ、電気、足りないものがなさすぎる、ただのゴミだな川上は思った。



 孫の手を見つけた、背中がかゆいときに便利だろう。



 ナイフを見つけた、ストレートポイントの刃長13センチ程度のユーティリティーナイフだ、皮のシースに収めっぱなしで埋もれてた、しかしブレードに磨き跡を軽く残したサテンフィニッシュと恐らく鋼材はステンレス鋼、ATSだろうか?エッジは鋭利に研がれており腕にブレードをあてがい軽く滑らせると産毛がパラパラと落ちた、かなりの切れ味だ、フィールドで実用として使うにはかなりいいナイフに思えた、ガラクタの中に寝かせて置くのは勿体ないのし魔理沙はシースに入れっぱなしにしていた事からも扱いを知らないようなので勝手に頂戴する事にした、いい物が手に入ったと川上は嬉しくなった、感情があまり動かない彼には珍しい事だ。




 エロ漫画があった、どうやらロリータ物だ、川上はパラパラと中を見てそのまま元に戻した。



 灰皿があった、川上はキッチンの魔理沙にタバコ吸っていいか許可を得てタバコに火を付けゆっくりと一服した。



 一服しながら川上は部屋に一本差しの刀掛けが置いてあり打刀拵が一振り掛けられているのを見つけた、拵だけで中は木のツナギだろうか?川上は興味をもって拵を手に取る、重量と重心からして刀身が入っているのが川上には分かった、真剣だ。



 しかし、人の刀を勝手に抜く事は川上はしなかった、後で本人に許可を取ろうと川上は思った。




 「出来たぜー」



 一服したり部屋を漁っている間に食事が出来たようだ。



 料理はキノコ鍋だった、シンプルだがキノコの旨味を生かした料理、味は文句が無かった、とりあえずこれで満腹になった。




 川上は食後の一服をしつつ、魔理沙に聞いた。




 「あの刀は?」



 「あぁ、あれは私が拾ったりして集めた物の一つなんだぜ」




 「見せて貰ってもいいか?」


 「別にいいぜ」



 自分が持ってるくらいだから刀が好きなのだろうかと思いながら魔理沙は答える。




 許可を貰って男は刀掛けから刀を取り、作法にならって刀に一礼する。



 「拝見させてもらう」



 鞘から刀身をそっと抜く、拾ったと言っていた割には刀身は大きな錆や疵、刃零れは無くさほど状態は悪くなかった、流石に細かいヒケ疵は多かったが。



 袱紗はないだろうから変わりにハンカチを借りてそれを使い刀身に手が触れないように持ち、鑑賞する、‥‥刃紋は中直刃、沸出来だ、鎬造り、切っ先はふくらかれる、反りが浅く恐らく新刀期に打たれた物か?。



 「ずいぶん畏まった見方をするんだな」


 魔理沙の言葉には答えず鼻を効かせる、刀身からはバニラに似た甘い香りがした、これは刀剣用の丁字油の匂いだ、ちゃんと錆止めはしてあるらしい、と、いう事は手入れ用具もあるらしい。



 「目釘抜きを」



 静かにそう言って魔理沙から受け取った目釘抜きで柄と刀身を繋ぐ目釘を抜き、柄を軽く叩き緩んだ刀身を抜き出し柄分に納められていた茎を見る銘は切られておらず作者はわからない、無銘、名無しか、川上は何処か皮肉げな笑みを浮かべた。



 茎も鑑賞した後は柄に戻し目釘を打ち柄にふたたび固定する、そこまで見ていて魔理沙は言った。



 「どうだ、私にはよくわからないんだがいい刀なのか?」



 「そうだな‥‥」



 魔理沙の質問に川上はいきなり左手一本で刀を一閃させた、片手打ちにも関わらずヒュリッ、と風切り音のような鈴のような音がした、樋も掘られていないのにそんな音がするのは余程正確に刀線刃筋を立てられているのと振られるスピード故か、目を丸くする魔理沙の前に飛んでいた蛾が一匹、真っ二つになって落ちた。




 「寸も長すぎず短すぎず柄も手に吸い付くようにしっくりくる、人を殺すのに適したいい刀だ」



 そう暗い眼で川上は言う、鑑賞の仕方こそ作法にならっていたが彼は刀に美術的価値等求めていないようだ、川上に取ってはただの武器か、彼の口元は何処か面白がってるような笑みが浮かべられていた。




 「そ、そうなのか?まぁいい物なら良かった」



 魔理沙はそういいながら川上は何処かズレてると理解した、まぁ普通の奴より面白いからいいか、魔理沙は思った。


 「だが、これはいい刀だな‥‥」



 川上はそう思った、何だかんだ彼は刃物を好むのだ。



 「くれ」



 川上は魔理沙に簡潔に要求した。



 「だめだぜ」



 魔理沙もさらりと却下した、もっとも川上もその答えを想定していたが、なんならここを出ていく時に勝手に頂戴してしまえばいい、川上はそんな事を思った、何処か魔理沙と似通った思考だ。



 「まぁいい、ところで手入れ用具はあるのだろう?打ち粉と油を貸してくれないか」



 川上はそう言った、ちなみに魔理沙は刀の手入れの仕方は知り合いの香霧堂の店主に教わり手入れ用具も貰ったものだ。



 「いいけど、お前の刀は手入れが必要なのか?」



 「知っているだろうが森をさ迷っていた時に一匹化け物を斬り殺した、その時刀身は血脂を拭っただけだから手入れをしないと錆が浮く」



 川上は生き物を斬りっぱなしだった刀に打ち粉を打ちたかったのだ。



 「まぁいいぜ」



 魔理沙は引っ張り出して来た手入れ用具を川上に渡す。



 「ありがとう」


 川上は礼をいい妖怪を斬った打刀の方を鞘から抜き放つと拭い紙で刀身を数回拭った、そして打ち粉をポンポンと刀身に裏、表、峰へと均一に打ちネルで打った粉を拭いさり刀身に付いた古い油や妖怪を斬ったさいの脂等を完全に拭いさる。



 「‥‥ふむ」



 裏、表と刀身を改めてて拭い残しがないか確かめると錆止めの丁字油を刀身に新しく塗る、そしてネルで余分な油を軽く拭い刀身を薄い油膜で保護した状態にして終わりだ。



 「その刀見せてくれ」



 魔理沙が興味を持ったのかそう言ってくる、川上は特に何も言わず刀を手渡す。




 「へぇ」



 魔理沙は特に刀剣の鑑定眼は無かった、しかし川上の刀は目立った疵もないし――もっとも魔理沙の刀同様、実用に使われてるため刀身に線のような細かいヒケ疵はあったが――綺麗な刃紋をしており、何て書いてあるか分からないが鍔元付近に梵字が一文字切ってあった、面白い刀だな、魔理沙は思った。



 「サンキュー」



 ひときしり眺めると刀を川上に返しつつ魔理沙は指摘した。



 「そっちの馬鹿長い刀はいいのか?」



 「こっちはここに来てから抜いてもいないから大丈夫だ」



 「ふーん、そうなのか、しかしそんなでかい刀使えるのか?お前見るからに力なさそうだぜ」



 細身の川上に対して魔理沙はそう言う、確かに身長こそあるが細い体の川上に長大な野太刀はアンバランスだと誰もが思う所だ。



 「一応は扱える、刀は腕力じゃないからな、扱えないのならこんなお荷物背負っちゃいないさ」



 「まぁ、そりゃそうだな」



 川上の皮肉げな返答に魔理沙は納得する、一度コイツがその刀を抜く所が見たいものだ魔理沙は思った。


 「返す、助かった」



 魔理沙に手入れ用具を返しそう言う、そして新しいタバコを取出しライターで火を着ける、そのさいやや長めの前髪を火で焦がしてしまい「あぁっ!」と間の抜けた声を出した。



 それを見て思わずくっ、と笑ってしまいながら魔理沙はやっぱりよく分からない奴だなと面白く思っていた。

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