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『不死』

真竹が密集して生えた竹林、そこに一人の男が咥え煙草で歩いていた。


前髪がやや長い黒髪に端正な顔立ちだが、正面や上を見る時に三白眼になりがちな坐った眼が男に酷薄な印象を与える。


黒いゆったりとした服を纏い腰に刀を一振り差し、さらに背中には全長五尺を軽く超える大太刀を背負い、剣呑な雰囲気を漂わせている。


男は紅魔館使用人の川上であった、彼は今迷いの竹林と言われる所を歩いている。


何故か?それは簡単である、上司に当たるメイド長、十六夜咲夜に彼がお使いを頼まれたからだ。


場所は迷いの竹林の中にある永遠亭なる所、そこにいる薬師から薬を貰ってくる事。


永遠亭は薬を売っている、普段は向こうから薬売りがくるらしいが、今回妖精用や妖怪用の薬がタイミング悪く幾つか切れてしまったので今回手の空いている川上が直接向かう事になった。


そうして、貰ってくる薬と竹林から永遠亭への道のりを書いたメモを貰い出発したわけだ。まだ日は高いが欝蒼とした竹林は日がささず薄暗い。


ふと川上は立ち止まり、咥えてたタバコを吹く。


永遠亭は何処だ?と


竹林に入るまでは良かった、だが迷いの竹林と言われるだけあって成長が早く目印にならない竹、微妙に方向感覚を狂わせる地形により、よほどこの場所に慣れていないと大抵迷う。


そして川上も例に漏れず自分が何処にいるか見失った、しかもこの竹林は妖化した獣が出る事もある危険地帯でもある、慣れないものがおいそれと踏み込みべき場所ではなかった。


そんな事は川上に頼んだ咲夜も承知だが、咲夜もレミリアも川上なら死にはしないだろうという、ぞんざいな信頼で送り出した。


川上はともかく目的地に着く事が優先と考えた、そして辺りをその眼でゆっくりと見渡した、そうする事で何か彼には掴めるのだろうか。


しかし川上は眼を細めた、彼の鋭い皮膚感覚が刺すような気配が向けられている事に気付く。


まだ遠い、が、いる。三匹、囲まれた。


運の悪い事に妖化した獣に見つかってしまったようだ、タバコの匂いが不味かっただろうか、相手はゆっくりだが確実に距離を詰めてきている事、明確な殺気を川上は感じた。


川上は動かない、ただ相手が近づいてくるのに任せている、やがて、視認出来る距離まできた獣が竹藪の中から姿を現した、外見は狼や野犬のようだが、まるで熊並みの大きさはやはりただの獣ではない。


川上の肌を痛いほど刺す殺気、いや殺気と言うより強力な食欲の念に近いかも知れない。


川上は刀の鯉口を切った——






同じく迷いの竹林に一人の少女の姿があった。


髪は真っ白なロングヘアー、白髪だが艶のある白く細い髪は綺麗で老成した白髪ではない、その髪には白地に赤が入った大きなリボンを付けている。


真紅の眼に服装は白のカッターシャツにもんぺのような袴のような独特なズボンをサスペンダーで吊っている、ズボンには何か意味があるのが護符のようなものが複数縫い付けられていた。


少女——藤原妹紅は最近愛飲しているフィルター付き紙巻煙草を咥えたまま竹林を散策していた。


吸い口にフィルターのついた紙巻煙草は最近外の世界から入ってきたものだが里の若者には人気が出初めている。


妹紅もキセルや両切りより手軽なので最近はもっぱら好んで吸っていた。


彼女がこの竹林に住んでいるが、こうして出歩いているのには明確な用事がある訳ではない。


ただ、友人である上白沢慧音から最近、里の外で起こった事件等を聞かされていて少々気になったというのがある。


大した事件でもないといえばそれまでなのだが、何か、引っかかるような。それに里の人間に何かあっても不味い。


長く生きている彼女は何か風向きのおかしさを感じる勘が鋭いのかも知れない、それで何気なく竹林に変わった様子がないか様子見という訳だ。


はたして彼女の勘は幸か不幸か当たった、歩いている内に妹紅は風に乗るほんの僅かな血生臭を感じとった。


妹紅は咥えてた煙草を落として踏み消すとそちらに走った。


妹紅の健脚で時間にして十数秒ほど移動した場所は獣臭と死臭に満ちていた。


妖化した犬型の獣が三匹、死んでいる、妹紅は足を進めしゃがんで死体の一つを改める。


間違いなく、人為的な殺害、しかも鋭利なこの傷は・・・


「そこのアンタ、こそこそ見てないで出てきなよ」


辺りには誰もいなかったが、妹紅はしゃがんだままそう言った。


いや


いなかったと思われたが、その声に応じるように一人の男が姿を見せた、何処から現れたのか、最初からそこにいたのか。


男は未だ血の滴る血刀を携えていた、この獣を斬ったのは誰かなどとは聞くまでもない。


妹紅は立ち上がり、男に向き直った。


竹林の中白髪の少女と黒髪の青年が対峙した——

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