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梅雨入り嫌だなぁ

紅魔館三階廊下、夕刻


使用人用の黒服に身を包み、やや長めの前髪の下から三白眼がちの昏い眼を覗かせており、整った顔立ちながら陰性の空気を纏う男が一人。


その日の仕事を丁度終わらせた所の、この舘の使用人である川上であった。彼は腰に一振りの刀を差してるがその刀は幻想郷に来た時に一緒に持って来ていた愛刀、奥州政長ではなく野盗の死体から盗った大和守安定だった。


彼はこれからやりたい事があったが、一人の妖精メイドに絡まれていた。


「遊ぼう」


セミロングの髪に小さな体躯のメイドは彼に何故か懐いているアニスであった、元々名無しで名前も川上がつけたものである。


「断る」


そう端的に断って川上は歩み去ろうとすると袖を引かれて立ち止まる、首だけで振り返るとアニスが袖を引いて真っ直ぐな眼で川上を見上げていた。


川上はため息を一つついた。


川上の鳩尾程度の背丈しかないアニスに川上は膝をついて目線を合わせると右腕をアニスの腿を通して背中に回して右腕一本で横抱き、いわゆるお姫様抱っこして立ち上がる。


突然抱っこされてアニスは眼をぱちくりさせていたが川上に左手で頭を軽くポンと撫でられると心地良さそうに目を細めた。


川上はそのまま歩いて左手で手近な窓を開けた。


川上は腕の中のアニスを窓の外におもむろに投げ捨てた、そして丁寧に窓を締める。


用事を済ませる為に川上は歩きだした。





紅魔館厨房


そこでは、メイド長である咲夜と、他数名のメイド妖精が夕食の下拵えをしていた。


咲夜は肉や野菜を切る時川上に手入れを頼んだ包丁やペティナイフを使っていたが、カリソリのように鋭利に研ぎ上げられたナイフは食材を手ごたえなく切れ中々気持ちのいい切れ味に内心満足していた。


「メイド長」


スープのストックを取っていた時、咲夜は突然後ろから男の声で呼ばれ驚きを隠しつつ振り返る。


するとそこには案の定川上が立っていた、何時の間に厨房に入り後ろにまで近づいてきたのか、まるで猫みたいに神出鬼没で咲夜にも気配が感じらずこうして度々驚かされる。


「何かしら?自分の仕事は終わったの?」


とりあえず咲夜は冷静に問う。


「人肉は誰が捌いている?」


「・・・私だけど」


何故そのような多少剣呑な事を聞くのかわからなかったが咲夜は答える。


「枝肉にする前の人間は?」


「・・・屠殺した後血抜きするわね」


「その死体は今あるか?」


「何がしたいの?」


質問の意図がさっぱりわからずに咲夜は簡潔に尋ねた。


そして川上も咲夜に簡潔に希望を伝えた。



紅魔館庭園


川上はスコップを使い穴を掘り土を盛っていた。


「しかし、菜園を少し貸して欲しいと言うから何事かと思いましたが、随分と変わった鍛錬をするのですね」


そういいつつ川上を手伝って土を盛っているのは美鈴であった。


彼女は柔らかい土質の菜園の使ってない部分を川上に言われ貸していた、わざわざ手伝っている当たり彼女もお人好しなのかも知れない。


「別に鍛錬ではない、ただの試しだ」


いいつつ、川上は盛った土に石が混じってないか注意深くみながら、あれば丁寧に取り除いた。


「このくらいでいいだろう」


盛った土をスコップで平らに慣らすと地面より高くなった土台が出来た、ちょうど人一人が横たわれるくらいの面積。


川上は一旦館の中に戻ると、しばらくして人一人肩に担いで戻ってきた。


それは30代前半程度と思わしき男性の、全裸の死体であった。咲夜が屠殺し、捌く前のものをお湯を使い擬似的に生きた体温に温めたもの。


「確かに私の国では試刀に死体を使うという事はないですね。こちらの国の刀は人間で試すとは聞いた事はありますが」


川上は拵えたばかりの土を盛り作った土壇に両腕をバンザイさせた状態で寝かせ、仰向けではなく横にする。


「ある程度目利きで武用に使えるかは分かる、でもどんな名工の作でも、目利きしても斬ってみないとわからないのさ」


要は川上は江戸時代よろしく死体で試し斬りをしたかったのだ、まだ大和守安定は何も斬ってないから、確かめてみる必要があると川上は考えた。


「そして人を斬る刀を試すなら人を斬るのが一番」


美鈴はそのような試斬は見たことないので興味深く静観している。


始めるつもりだ。


川上は腰の安定をゆっくりと抜いた、赤みがかった夕陽に照らされその刀身は複雑な色を含んだ光を反射させ煌めく。


思わずその美しさに美鈴は感嘆した、斬るのが勿体無いくらい傷一つない美しい白刃だった。


川上はあらかじめ置いてあった桶から柄杓で水を刀身にかけて浄めを行う。


「三の胴で行くか」


三の胴は寝かせた死体を鳩尾の高さで両断する斬り方である。なお、死体はあくまでも食用のため咲夜には斬っていいのは一度までと言われている。


川上は刀を無造作に掲げたままゆっくりと深い腹式呼吸を行い臍下丹田に力を込めて行く。


ス、と滑るように死体を横たえた土壇の前に歩みを進めて川上は刀をピンと屹立させた上段の構えを取った。


美鈴はドクリと胸が一つ高鳴った。彼女は川上の力みも気負いもない構えを見てただ純粋に思った、美しいと。


川上は頭上に取り上げた上段で再びゆっくり、ゆっくりと腹に空気を入れるように息を吸い


次の一瞬には既に刀を振り下ろし切っていた。


時代劇の効果音のようなザシュッという音もしなければ骨を断つガシュッっという硬い音でもなく、強いて言えば強く平手打ちした時のような音だった。


川上の振り下ろした安定は胴を両断し、土壇まで切り込んでいた。


———三ノ胴土壇入ル


死体の断面からは鋭利に断たれた骨と内臓が露出していた、血抜きはされていたのでほとんど血は滲まない。


川上は刀を持ち上げた、刀身が少し白んでいるだけで僅かな刃毀れもなかった。


「お見事です」


川上の試刀の業前を見ていた美鈴はそう惜しみなく賛辞を贈った。


川上は聴いていないのか刀を見ている、まるで通り抜けたように手ごたえがまるで無かった、凄まじい斬れ味、粘りもある。


「盗人の腰に飾られてるだけには勿体無い刀だ」


「はい?」


「いや、何でもない」


川上はそういうと刀を丁寧に懐紙で拭い納刀した。


「死体を返してくる」


川上はそういうと二つに分かれた死体の内容物が断面から溢れないように両腕で抱え上げた。


「じゃあ盛った土は私が戻しておくので任せて下さい」


「ありがとう」


川上は美鈴に返し、館に戻っていった。


「うん、いいもの見た」


美鈴は一人呟きながらスコップで土を戻し始めた。



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