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五十〜


 明け方、紅魔館 


 朝日が登り眩ばゆい光が霧の湖に反射しキラキラと宝石ねように湖面が光る、そんな湖のそばに悠然と佇む紅い館。


 扉を音もなく押し開け館の玄関ホールに入ってきたのは黒の服と腰に二口の刀を差した青年、この館に雇われる使用人の男、川上である。


 彼はいつも眠たげな眼をさらにどんよりと濁らせている、腐りきった魚でもこんな眼はしまい。


 彼は深夜まで夜雀の屋台で呑んで今帰宅したのだ、俗にいう朝帰り、住み込みの使用人と言う身分でありながらである。


 朝まで呑みながら彼の歩みはフラつく事もなく綺麗な普段通りの歩法であったが、目付きの為か纏っている空気はさながらタールのようだった。


 自室へと歩む彼の前方から廊下を歩いてくるのは銀髪のメイド服の少女はこの館のメイド長を務める十六夜咲夜だった、朝早くからすでに仕事を初めているのか、いや、主人が吸血鬼だという事を考えると合わせてむしろ夜に仕事をしているのか?


 あるいは彼女は自身の時間停止能力を用いて1日中仕事しているのかも知れない。


「ただいま」


 川上は咲夜に帰宅の挨拶をし


「お帰りなさい」


 咲夜もそれに返礼し二人は廊下をすれ違う。



「いや、いやいやいや待ちなさい」


 いや、すれ違いかけて咲夜は遅れながら色々おかしい事に気付いて川上を呼び止めた。


「なんだ?」


 川上は仕方なしと言わんばかりに面倒そうに立ち止まり聞き返す。


「何じゃないでしょ、貴方寝ずに出かけてたの」


「そうだ」


 問い詰める咲夜に、肯定する川上。


「呑んでいたの?」


「ああ」


 川上から酒の臭いを感じたのか聞く咲夜の言葉に川上やはり短く肯定するだけだった。


 咲夜は口を開きかけたが言うべき言葉が見つからず文字通り閉口した。


 勝手に抜け出して朝まで呑んでいたってこの男何を勝手に、いや、別に夜間外出するなとは言わなかったし自由な時間に何をしていても、しかし‥‥


「何もないならもういいだろうか、眠い」


 川上はどうやら寝たいらしい、仕事は?という疑問が咲夜の頭をよぎるったがそれより


「ちょっと待ちなさい」

 咲夜は川上に歩みより服の袖口を掴んだ、茶褐色のモノがついている、乾いた血、他人のか川上自身のか。


「怪我しているの?」


「いや」


 咲夜の問いは短く否定された、見たところ負傷している様子は確かになかったつまり他人の血、それに腰に普段とは違う刀が、何をしていたのか問いかけようか迷い


「そう、ならその服は着替えなさい、もういいわよ、おやすみなさい」


 追及しない事にした、何故か?


「おやすみ」


「起きたら仕事手伝ってもらうわよ」


 自室に歩き出した川上に一言だけそう告げると彼は背中越しに軽く手をあげるだけで答えた。


  それを見届けると、咲夜はどうしたものかと思案する。


  またあの男は人を斬った、まさか人里に所属してる人を斬ったのではなかろうか、それはまずいと咲夜は考える、人里の人間との関係が悪化してしまう要因にもなりかねない、ただでさえ妖怪をよく思わない一部の人間だっているのに。


  ふぅ、と一つ息をつく、後で川上には人殺しを控えるように言っておくべきだろう。


  咲夜は気分を切り替え朝食の支度を始めるためキッチンへと向かった、ついでに川上の酔い覚ましでも作ってやろうと考えながら。


  部屋に戻った川上は二口の刀を置き服を無雑作に脱ぎ捨て、着流しを着込んだ、テーブルの上に投げ出されたソフトパックから一本の紙巻きを取り出し吸い口をテーブルで叩き咥えて火を付ける。


  ゆっくりと一口をゆっくりと吸い込み長い紫煙を吐く、思考は鈍く、判断力が低下しているのを自覚した。興が乗って呑み過ぎたかとぼんやりと川上は思った。


  「開いている」


  紫煙を燻らせなながら目線も動かず川上は扉の向こうに声をかけた。


  「失礼するわ」


  そう言いつつ部屋に入ってきたのは先程玄関ホールで別れた咲夜だった。


  「貴方透視でも出来るの?」


ノックするより先にドアの向こうのこちらに声をかけてきた川上に咲夜は感心かむしろ呆れ交じりかそんな事を言う、もっとも川上が常人にはない感性を持っている事はとうに察していただろうが。


「用はなんだ?」


咲夜の問いかけは軽くながし眠たげに完結に聞く。


「これ、喉乾いているでしょう?飲んでおきなさい」


川上の前に置かれたのはグラス注がれたアップルジュースであった。


「二日酔いの予防にもなるわ」


「あぁ、いただくよ、ありがとう」


咲夜の好意を素直に受け取ったのか、川上はそう礼を言いつつタバコをもみ消した、やはり雰囲気は妙だが邪気のない男だと咲夜は思った。


「夜遊びは程々にしなさいね、おやすみなさい」


そう言って退室する咲夜の背中におやすみと挨拶を返すと川上はグラスを一気に煽った、爽やかな酸味が喉をスッキリとさせた、手製で絞ったジュースなのかやけに香り高かった。


そのまま川上はベットに倒れこむとゆっくりと目を閉じた。

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