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『声楽』

 森の中にある一軒の屋台


 その中から夜雀の奏でる静かな詩が聞こえていた。


 夜雀―――ミスティア・ローレライ、激しい曲を好んで唄う事の多い彼女にしては珍しい選曲の穏やかで優しい歌声だった。


 そして屋台の前の森ではその優しい詩の中で男達は殺し合っていた。


 だが果たしてそれは殺し合いと呼べるものだったろうか?何十人といた野盗団の武闘派達がたった一人の黒服の男に次々と斬り殺されていたそれは虐殺という方がふさわしいのではなかったか。


 野盗達は仲間が次々と殺され倒れる中必死に目の前の男を仕留めようと躍起になっていた。


 一方、黒服の男、川上はただ聞こえるがまま、見えるがまま感 じるがままに敵を倒していた、ふと耳から入る夜雀の詩に感嘆する、綺麗な歌だ、川上は一人の敵の心の臓を抉りながらそう思った。


 悲鳴、断末魔、怒声、怒号、咆哮、命乞い、風に木の葉がなびく、そして歌声。


 全長7尺に及ぶ大薙刀を持った男が川上をその刃で切り払う、目方にして川上の刀の三、四倍はリーチのあるその武具には2尺3寸の刀では尋常では勝ちえない。


 川上は体を引いて切り払う薙刀の間合いを切りつつその刃を己の刀で巻くように反らしたそして手首を返して刃筋を相手に向けしかし鎬筋を相手の薙刀に付けたまま一息に川上は自分の間合いまで踏み込んだ、相手は切り反せなかった、川上が薙刀に刀を付けたまま薙刀の柄をレールのように入ってきた ので薙刀を刀で制されて咄嗟に反す事が不可能だった、さくりと薙刀に付いてきた刀が川上の手首の反しで半円を描き男の首筋に食い込む。


 川上が蹴込みを男に入れると首筋に食い込んだ刀が頸動脈を破り血煙を撒き男が吹き飛ぶが男が用いた得物は川上の左手にあった、川上は男を蹴る際薙刀を捕っていた。


 後ろから川上を斬り付けてきた男の刃を軽く跳んで避け、今しがた殺した男の腹に自分の刀を突き刺し立て、再び跳び技で敵に対する自分の優位な位置に位取りを行い、川上は大薙刀を腰の後ろに回すように構えた。


 先ほど川上に刃を振るった男が再び川上に踊り掛かった瞬間川上を中心とし薙刀の刃が竜巻の如く豪ッ!と回転し川上を斬ろうとした、囲んでいた男、系 三人が薙刀の暴風に巻き込まれ吹き飛び血と内臓を撒き散らした、その内一人は咄嗟に踏み込む事により刃で斬り飛ばされる事を避けえたが柄で払い飛ばされ仰向けに倒され急いで上体を起した所に薙刀の刃の捻りながらの繰り突きが男の腹に大きな風穴を空けた、男は目を見開き自分のぐちゃぐちゃに穴が空いた腹からこんこんと血が湧きだすのを見ていたがやがて力尽きたのかゆっくりとそのまま上体を倒した。


 その時点で三十人余いた野盗団は両手で数えられるまでに減っていたが。


 夜雀の奏でる詩の中静かに正眼に薙刀を構えるたった一人の男、川上にすでに残った野盗は構えてはいるものの戦意を喪失していた。


 ほとんどの者は余りに一方的な川上の虐殺に近い戦闘に怒り や殺意より死への絶対の恐怖が勝り腰が引けていた。


 また少数の冷静な者、判断力のある者はこれ以上の戦闘はリスクが高過ぎると判断していた、もう仲間の大部分が殺されているのだ、相手は別格過ぎる、これ以上戦闘を続けて仮にこの男を殺しえたとして果たして仲間は何人が残るか、得る物がない、そもそも残った仲間は大半が怯えいるのが気配で解る、これでは続けたらまず間違いなく皆死ぬ、いや殺される。


 もしこの野盗団に優れた判断力と指揮能力がある統率者が居たならばこれほどの損害になる前に川上の脅威に気付き早い段階で撤退を指示し被害を最少に抑える事も出来ただろう。


 しかしこの野盗団の頭は後方指示タイプではなく、野武士に近く、腕が立ち、自 ら前線に立つ事を好むタイプだった。故に自ら川上を仕留めようとした結果早い段階で草原で血の海の中で果てていた。


 残党達は無言の中仲間内の意向が一致したのを察すると、川上に隙を見せぬよう構えつつしかし、一人、また一人と少しづつ後退りして距離を取っていった。

 

 そして充分距離を取った所で皆一斉に背を向け走りだし夜の森へと消えたいった。


 夜盗達の気配が完全に消えたのを確認し川上は構えを解き薙刀を落とした。


 夜雀の歌もまた終わった。


 川上とミスティアは同時に余韻を鎮めるように静かに息を吐いた、余韻といえど二人はそれぞれ別のものだったろうが。


 川上は一つの死体に歩みより刺し立てておいた愛刀を引き抜くとこびり付いた血脂を懐紙で丁寧に拭った、そして静かに鞘に納めると懐から煙草を取出し火を点けた。


 ミスティアは歌で震わせた喉に残った酒を流し落ち着かせると屋台の前の惨状を改めて見たざっと見て十人ほどが死体となり転がり、地面は血濡れとなり腕や首やどことも知れぬヌラヌラとした内臓等のパーツが落ちている、凄惨な死臭が屋台まで届いてきた、流石に屋台の前がこの有様はまずいかなぁとミスティアはぼんやりと思った。


 だがそんなことより一人生きている男を客として確保してしまえばいいかと考えた、屋台の前の惨状を作り出したのがその男なのだがミスティアは細かい事は気にしない。


 「おにーさん、呑んでいきなよ、そんなに殺して疲れたでしょ?」


 そうミスティアは川上に声を張り上げたが川上は屋台の方に手を向けた、ちょっと待てという意だった。

 

 「?」


 ミスティアは取り敢えず黙ってみていると川上は死体の側にしゃがみ何かをやっているようだった。


 また別の死体へと近付き川上は死体の懐から銭を抜いた、死人から金品を奪うとは最早どちらが盗賊だったのかもわからない。


 そして辺りにあった死体全部から金を抜きその内一人が持っていた一口の刀も鹵確して死体の腰にあった鞘に納め、左手に持ったままミスティアの屋台に歩みより席に着ついた。


 「一番いい酒と肴を」


 今しがた金で暖かくなった懐で言った。


 「はいー、少しまっててねー♪」

 屋台の前で元の金の持ち主達が冷たくなっている事等二人とも気にしなかった。

うどんも食べたくなってきた

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